10月号
みんなの医療社会学 第二十二回
「受動喫煙防止」と「禁煙」両面からクリーン&ヘルシーに !
─受動喫煙とは何ですか。
足立 受動喫煙とは他の人のたばこの煙、いわゆる副流煙を吸わされてしまうことです。逆に自らの意思でたばこを吸うことを能動喫煙といいます。たばこの煙にはさまざまな有害物質が含まれ、中でもニコチン、タール、CO(一酸化炭素)が問題です。ニコチンは依存性が強く、たばこを止めにくくなります。タールの中には発ガン性物質などたくさんの有害物質が含まれ、がん以外にも肺気腫から慢性の肺疾患(COPD)の危険性があります。意外と知られていないのがCOです。たばこは不完全燃焼の状態で燃えますので、煙にはCOが多く含まれ、酸素と強力に結びついて脳などを酸素不足にして、慢性のCO中毒を引き起こします。副流煙は喫煙者が吸う主流煙と比べ有害物質が多いとされていますが、主流煙は吸い込む煙の量が多いので、単純比較すると誤解されます。WHOによれば能動喫煙で亡くなる方は年間約600万人、受動喫煙で亡くなる方は約60万人と能動喫煙が10倍も危険ですが、何れにしてもたばこの煙は健康に深刻な影響を及ぼすのです。
─兵庫県の定めた「受動喫煙防止に関する条例」にはどのようなことが定められていますか。
足立 不特定または多数の人が出入りする公共的空間を有する施設を主な対象として、受動喫煙を防止するためのルールを定めています。教育施設・医療関係施設・官公庁施設などには「受動喫煙防止義務」が課せられましたが、民間施設では業態や規模により分煙または喫煙可否等の表示が義務とされました。例えば飲食店やホテルのロビー、理・美容所では面積が100㎡超の施設は「区域分煙義務」とされます。条例は来年の4月1日から施行されますが、違反した場合の罰則適用は26年10月からとされます。
─条例が制定された背景について教えてください。
足立 喫煙規制は世界的な常識になりつつあり、WHOはたばこ規制枠組み条約(FCTC)を定めています。日本はこれを批准しているにもかかわらず、分煙も認めない完全実施期限の2010年を過ぎても何ら有効な法規制をしていません。本来国がおこなうべきことが進まないため、2010年に神奈川県が最初に条例を施行し、続いて同6月に兵庫県も検討委員会を設け、委員には医師会はもとより飲食店や宿泊施設業界の代表、商工会、NPOなどもメンバーに加わりさまざまな議論や調査を重ねてきました。
─条例にはどのような問題点がありますか。
足立 先の検討委員会の報告書では、受動喫煙には官民の区別は無い、また完全な分煙はありえないとの観点が主となったのですが、実際の条例段階では大幅に緩い内容になってしまいました。例えば大型商業施設については禁煙義務を提言しましたが、条例ではFCTCが認めていない分煙を義務としています。しかもその分煙を固定しかねない喫煙室等の設置に全体で3億円もの県費が補助されることとなりました。また、喫煙可否の表示義務も問題です。たとえば「ここでは吸えますよ」という表示をすれば、喫煙を誘導する可能性があり世界の常識ではあり得ません。もともと、たばこの売り上げが税収源として位置づけられ、政府の保護下にあることも大きな問題です。日本の喫煙率は先進国の中でも高く、最近ようやく10年後に12%へ低減との数値目標が出せたところです。
今回の条例化そのものにも反対された業界団体からは、飲食業や観光産業での喫煙規制による売上げ減を懸念する声がありますが、先発の神奈川県では条例実施後もあまり変化は無く、むしろ近年はクリーンさやヘルシーを売りにした方が受け入れられる世の中になってきています。企業の社会的な責任の視点からも、人に有害なものを固定したり勧めたりすることは感心できませんね。
─県医師会は受動喫煙防止にどのように取り組んでいますか。
足立 医療者の立場としては、受動喫煙防止のみならず、まずは喫煙者の健康を救わなければいけません。兵庫県医師会では2008年に「禁煙推進宣言」を発して、自分たちの施設や会合から禁煙を広め、ニコチン依存症の患者さんに対する禁煙外来指導などに取り組んでいます。喫煙者が減れば受動喫煙も減りますので、分煙やマナーといったレベルではなく、喫煙者の減少こそが基本ということに理解と協力をいただければ幸いです。
足立 光平 先生
兵庫県医師会副会長
あだち医院院長