2018年
4月号
4月号
兵庫ゆかりの伝説浮世絵 第五十回
中右 瑛
鳴門海峡の壮大な渦潮風景
兵庫県淡路島の南端と徳島県鳴門を挟む鳴門海峡は世界に誇る名物・渦潮で有名である。
福良港から観潮船に乗り、沖合いの渦潮を見学。轟音と逆巻く激しい渦巻きが、見る者に迫る。
江戸時代の浮世絵師・歌川広重は、この自然が織りなす躍動的で壮大な眺望に驚嘆し、「阿波鳴門之風景」(大判三枚続き)を描いた。
図は鳴門側から見た海峡風景。克明に写実的にスケッチし、向こう正面に見えるのが淡路島南端。中央と右端には小さな岩島。潮の渦巻きは「浪の花」に見立てて美しく情緒的に表現している。
実は、この「阿波鳴門之風景」は日本情緒豊かな「雪月花」に見立てた風景三部作の一図である。
「雪」は「木曽路之山川」(大判三枚続き)、「月」は「武陽金沢八勝夜景」(大判三枚続き)。いずれも壮大なパロラマ風景画で、この三部作は広重最晩年不朽の名作として評判高い。
近年、この海峡には鳴門大橋が架けられ、大きく様変わりしたが、橋以外は全く昔のままで、早く世界遺産にしてほしいと願っているのは私だけではあるまい。
広重は果たしてこの地に立って実際にスケッチしたか、如何か?は全く不明だが、江戸の版本『阿波名所図会』(文化8年刊)から模写したのではないか?という説もある。
■中右瑛(なかう・えい)
抽象画家。浮世絵・夢二エッセイスト。1934年生まれ、神戸市在住。行動美術展において奨励賞、新人賞、会友賞、行動美術賞受賞。浮世絵内山賞、半どん現代美術賞、兵庫県文化賞、神戸市文化賞、地域文化功労者文部科学大臣表彰など受賞。現在、行動美術協会会員、国際浮世絵学会常任理事。著書多数。