2013年
2月号

お酒と文化の神戸酒心館/株式会社 神戸酒心館 代表取締役社長 安福武之助さん、常務取締役 久保田博信さん

カテゴリ:, 日本酒・洋酒・ワイン

創業1751年。歴史と伝統を持つ灘の酒「福寿」を造り続ける神戸酒心館。今回のノーベル賞受賞晩餐会で「福寿・純米吟醸」が提供され話題を呼んだ。より高い品質を求めながら、日本酒の新しい風を起こそうとしているお二人にお聞きした。

ノーベル賞晩餐会で提供
伝統の酒「福寿」のこだわり

―酒造りにおける「5つのこだわり」とは。
安福 宮水を使う、兵庫県のお米を使う、完全手作業の麹づくり、蔵内の衛生管理の徹底。ここまでは地産地消と手作りへのこだわりの部分ですが、もう一つがコンピュータによる温度管理です。
―手作業にこだわる麹づくりは酒造りの重要な工程ですか。
安福 「一麹、二酛、三造り」と言われ、麹づくりが最も重要です。ワインのクオリティーを決める葡萄の出来が毎年違うように、お米も毎年違います。微妙な違いに応じた麹の温度や湿度の調節、香りや甘みの利き分けは人の五感を使わなくてはできないものなのです。
―職人さんたちのキャリアは長いのですか。
安福 数年前までは冬場になるとやって来る杜氏を中心とした酒造りをしていましたが高齢化の問題などがあり、今はその技術を習得した社員による酒造りに移行しました。キャリアは短いながら、色々なデータの蓄積を進めながらより質の高い酒造りを目指しているところです。
―旬の酒12カ月、「こよみざけ」というものがあるのですね。
久保田 「こよみざけ」は出来立ての味の新酒から月日を経てだんだん成長していく日本酒のおもしろさを知っていただこうという月替わりのお酒です。また、蔵から出したばかりの生原酒も販売しています。酒心館にしか無いお酒。手酌での量り売りですから、そこにお客様との会話が生まれます。ちなみに私は新酒が好きかな…、出来具合も気になりますしね。
安福 私は、ひと夏越してスカッとした味に変わる秋の時期のものが好きですね。最も灘の酒らしいと思います。
―ノーベル賞受賞晩餐会で「福寿 純米吟醸」が提供されるに至った経緯とは。
安福 6年前から出荷しているスウェーデンの代理店を任せている現地の人が有名なソムリエで、晩餐会の飲み物をコーディネートしています。2008年、2010年、そして今回と続けて日本人が受賞した際、福寿の純米吟醸を高く評価して選定していただきました。
―スウェーデン人にとっての日本酒とは。
安福 魚をよく食べるようになり、日本料理店も増えてきて、日本酒のニーズは高まっています。ほかにも、イギリス、アメリカ、オランダ、韓国をはじめ複数の国に出荷しています。決して安い商品ではなく高級レストランで提供されているのですが、評価されて継続して御注文いただいているということは、各国で質の高い日本酒のニーズが確実にあるのだと思っています。
―海外市場の今後については。
安福 日本酒のことを全く知らない日本人も増えている現状で、国内市場、海外市場の境界はないでしょうね。もちろん国内を一番大切にしたいと思っています。

美味しく、楽しく「神戸酒心館」

―「神戸酒心館」誕生の経緯は。
久保田 昭和50年代ころから日本酒の消費量が減ってきました。昭和60年、「酒蔵から情報発信をして、沢山の人に来てもらおう」と先代が使っていない精米所を改装してお酒を提供し、ちょっとしたコンサートも楽しめるスペースを造りました。それが神戸酒心館の前身です。当時は酒蔵に一般の方に入っていただくのは非常に珍しかったようです。震災で大きな被害を受けたものの、何とか継続したいと、前身の事業をベースにして今の形で再開しました。
安福 震災復興にあたっては、様々な方面からのご支援をいただき、同じく被災した灘の別の酒蔵さんと共に神戸酒心館を立ち上げました。
―お勧めのイベントを紹介してください。
久保田 年に1回、新酒の誕生を祝う蔵開きの2日間には約3千人にお越しいただいています。イベントホールでの催しは落語、ジャズ、クラシックなど多彩なジャンルで、最近は酒蔵でオペラを聞いていただくイベントを開催しています。酒蔵ですから参加者に日本酒を味わっていただきたいと、幕間にお出ししています。コンサートを聴きに来たらたまたまそこが酒蔵で、日本酒の美味しさに触れることができたというのもいいですね。
―蔵の料亭「さかばやし」のご自慢は手づくりの豆腐と蕎麦ですか。
久保田 日本酒の繊細な味の違いが分かるのは豆腐。蕎麦は、「蕎麦屋でお酒を飲む」という日本の食文化スタイルを体験していただけたらと思い、特にこだわっています。
―お酒以外の物販は?
久保田 ここ数年の酒粕人気に驚いています。ところが、酒粕はお酒造りの副産物だということをご存じないお客様が多いことには困惑しています。生活に日本酒が密着していないんですね。日本酒について知っていただく努力がもっと必要だと痛感しています。

“日本酒のあるライフスタイル”を提案

―灘五郷では若い世代が活躍し始めていますが。
安福 会食しながら情報交換する場を持っています。広い視野と建設的な意見を持つ非常にいいメンバーです。品質の追求は各蔵の仕事ですが、「神戸」というくくりで地元に貢献し、持続的生産を目指したいという思いは一致していますので、連携、協力して何かを作り上げていきたいと思っています。
―他業界の若手とのコラボも?
久保田 「神戸マルシェ」があります。神戸でも高い評価を受けているレストランをはじめ飲食店を中心に、お酒や洋菓子、パンなどの製造業者、物販店などの若手中心の集まりです。1年1回神戸ワイン城でイベントを開催し、他のメンバーとのコラボ商品等を販売するなど数万人が訪れ好評をいただいています。
―神戸酒心館の今後について。
安福 日本酒は量から質の時代です。その中で勝ち抜くためには、まず品質を高め、安心して飲んでいただけるお酒を造ること。酒造りが伝統産業として民芸品のようになってしまっては今後廃れてしまうでしょう。そこで、現代風にアレンジして再提案していくことも必要だと思っています。日本酒のあるライフスタイルを提案する手段の一つとして酒心館を位置づけていきたいと思っています。
久保田 私たちは先代から清酒製造業、飲食事業、観光事業を引き継ぎました。中でも観光業は神戸の産業の柱。〝神戸ブランド〟としての灘の酒を発信していく仕組みづくりは今後、力を入れるべき大きな課題だと考えています。
―お二人の若い力に期待しています!

ノーベル賞受賞晩餐会で提供され話題となった
『福寿 純米吟醸』


酒蔵を改装し、ショップやギャラリー、イベントホールなどを
展開する文化酒蔵「神戸酒心館」


手作業で行われる麹づくり工程



代表取締役社長
安福 武之助(やすふく たけのすけ)

1973年生まれ。甲南大学経済学部、ノートルダム大学、ニューヨーク州立大学バッファロー校で学ぶ。1997年アサヒビール株式会社入社、東京工場総務部、酒類第二部ワイングループ主任を経て(株)神戸酒心館入社、2011年代表取締役社長就任。十三代目蔵元として、「安福武之助」を襲名。

株式会社神戸酒心館 常務取締役
久保田 博信(くぼた ひろのぶ)

1975年生まれ。甲南大学経済学部卒業後、1998年(株)ロイヤルホテルに入社。料飲部門・営業企画部門を経て、2005年(株)神戸酒心館に入社。現在、同社常務取締役。

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