2013年
2月号

蔵元が育んだ名門校のいま/学校法人 辰馬育英会 甲陽学院中学校・高等学校 校長 山下正昭さん

カテゴリ:教育・スポーツ

甲陽学院は、灘五郷の蔵元の手で設立された学校の一つ。阪神間の名門校の雄として伝統と実績を持つ。理念や教育方針、校風について山下校長にお聞きした。

―甲陽学院設立までの経緯をお聞かせください。
山下 本校は大正6年、伊賀駒吉郎先生によって私立甲陽中学として開校されました。翌年には第一次世界大戦が終わり、世の中の景気も次第に悪くなりました。経営に行き詰まったところで援助を求めたのが灘五郷の辰馬本家でした。本家で検討の結果十三代当主辰馬吉左衛門氏の英断により、財団法人辰馬学院を設立し、甲陽中学校がスタートしました。初代理事長を縁戚の辰馬勇治郎氏が、現在は十五代当主が理事長を務めておられます。
―中・高の校舎が何故、香櫨園と甲陽園に分かれているのですか。
山下 旧制中学当時は甲子園にありました。戦後、学制改革で中高が分かれた時には、まだ甲子園の建物のほぼ半分を進駐軍が使っていました。中高一緒にするには手狭で、香櫨園に置いていた工業専門学校敷地に、エリート教育に特化した甲陽学院中学部を新設しました。3年後、卒業した生徒たちは甲子園にある新制高校へ進学しました。その後、次第に甲子園の環境が騒がしくなり、高校は甲陽園に引っ越すことになりました。
―山の上の高校は、環境は抜群ですが通学を考えると大変ですね。
山下 私たちにはキツイですが、生徒たちにとってはどうでしょう?この坂道を登って通学すれば、体力は間違いなくつきますよ(笑)。

明朗、潑溂、無邪気

―甲陽学院の校風は。
山下 初代の伊賀校長の修身の授業から受け継がれている伝統ですが、非常に分かりやすい言葉で「明朗、潑溂、無邪気」です。
―共学に変更する学校も増えていますが、その予定は。男子だけということに生徒たちの反応は。
山下 特別な理由はないのですが、共学の予定は今のところないです。中学入学後1カ月ほどたって書いた生徒たちの作文を見ると、「女子にごちゃごちゃ言われることがなくなって楽になった」などという感想が多いです(笑)。生徒はそれなりに納得しているようですね。
―名門男子私立校が並ぶ阪神間ですが、他校を意識していますか。
山下 六甲、甲南、灘、関学、甲陽が集まって5校の会を作り、色々相談はしていますが、張り合おうという意識はお互いに全くないですね。生徒たちも5私学の会をつくり定期戦で交流しています。

授業内容や方法は担当者次第

―理系・文系などと分かれない全クラス平等編成とは、その意図は。
山下 高校1年生は芸術・体育以外は共通授業ですが、2年生、3年生になると半分は選択授業になり、その中でそれぞれが自分の進路希望に合わせて必要な授業を受けます。文系、理系クラスに分けるという考え方もありますが、そうするとクラス全員が文系、理系となるわけです。それはちょっと偏ったおかしな状況ではないでしょうか。
―校長のメッセージ「いい大学生になってほしい」に込められた意味は。
山下 中高では授業内容が重複する場合もあります。6年一貫教育で、それを整理してみると時間に余裕ができてきます。その時間を受験勉強に使うのではなく、生徒たちにはできるだけ幅広く深く勉強してもらおうとしています。そんな中で自分で課題を見つけ、工夫して解決する習慣と能力を身に付けてほしいと考えています。
―その方法は。
山下 各科目の担当者に一任していますので、授業の方法や内容について教科での申し合わせなどはほとんどありません。ですから先生方は皆、自分の思い通りの授業を進めています。歴代ユニークな先生も多く、私が数学で教壇に立ち始めた当時、日本史担当の高井悌三郎先生は高名な考古学者でしたが、授業はいつまでたっても古墳時代から先に進まず…。そのお陰か、田辺征夫や東野治之をはじめ高名な歴史学者になった教え子も幾人かいるようです。

のんびりしていても、結果は出す

―スポーツにも力を入れていますね。
山下 高校バレーボール部は今年で3年連続、私学の全国大会に出場が決まっています。中学のバスケットボール部は兵庫県の私学大会で優勝、中学1年生の陸上部員がジュニアオリンピックに出場、テニス部、卓球部は近畿大会へ進出…等々の結果を見ると、スポーツもそれなりに頑張っていると思います。

―進学状況は。

山下 京都大学が非常に多いですね。2年連続、東大とダブル受験が可能だった年も、1年目は合格者のほとんどが東大を選びましたが、2年目はほぼ半数が東大に進学せず京大を選びました。京大の自由でのんびりした雰囲気が甲陽学院と通じるところがあるのでしょうか。
―進路の傾向は。
山下 万遍なく多方面で活躍してくれていると思います。最近の傾向としては理系が多く、全体の約8割を占めています。ただし、理工系学部が減り、医学部志望が増えているようです。
―同窓生の結束は固いのですか。
山下 全体としては1年1回、総会を甲陽学院発祥の地に建つノボテル甲子園で開いています。東京には卒業生がたくさんいますので有志が集まって、1年1回〝時の人〟になっている同窓生の講演会を開いているようです。
―のんびり、無邪気、でもきちんと結果は出す。そんな学校ですね。この伝統を是非これからも持ち続けてください。

甲陽中学校を創立した辰馬吉左衛門


定期戦を行うなどスポーツも活発


全国大会に連続出場をしたバレーボール部


熱心に授業に取り組む生徒たち


理系学部への進学が非常に多い


生徒は卒業後も多方面で活躍している


校舎の窓から見渡すことができる西宮の町並み


甲陽学院高等学校校舎


甲陽学院中学校校舎


山下 正昭(やました まさあき)

1947年大阪生まれ。尼崎北高校を卒業後愛媛大学文理学部理学科数学物理学課程入学。専門へあがるときに、数学と物理で迷ったものの数学を専攻。1970年4月から兵庫県立宝塚高校で数学の教員として教壇に立つ。3年後、甲陽学院へ転職。1999年4月から教頭。2009年4月から中・高の校長。今年度末で甲陽在職40年。

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