2月号
教育力の 甲南をめざして
甲南大学
学長 杉村 芳美さん
2011年に開学60周年を迎えた甲南大学は、今、創立者平生釟三郎氏の教育理念を継承しながら、時代の要請に応えるべく新たなチャレンジをしている。
―西宮北口とポートアイランドに新設された2学部について教えて下さい。
杉村 2009年、甲南学園創立90周年記念事業の一つの大きな柱としてポートアイランドに「フロンティアサイエンス学部(FIRST)」、西宮北口に「マネジメント創造学部(CUBE)」を開設しました。平生先生の、世界に通用する人材を育て社会に送り出すという教育の目的は今の時代に通じるものです。原点に立ち戻りつつ、今の社会状況に合った新しい教育の仕組みを作っていこうというものです。両学部とも、この3月に、初めて卒業生を出します。
―甲南大学といえば神戸岡本ですが、何故CUBEは西宮に。
杉村 岡本の校地が新学部には手狭で、候補地を探していたところ西宮北口で開設するチャンスに恵まれました。東には阪急西宮ガーデンズ、西には兵庫県立芸術文化センターという、ビジネスと文化の両面で活気のある立地です。学生たちが刺激を受けながらマネジメントを学ぶには最高の立地だといえます。
―マネジメント創造学部の学びの特徴は何ですか。
杉村 「マネージ」という言葉には経営するという意味のほかに、「物事をなんとかしてやり抜く」という意味合いがあります。平生先生が掲げた総合的人間力の教育を目標とし、学生たちは色々な課題に向き合い解決方法を提案していく総合的なマネジメント力を身に付けます。平生先生ご自身も損害保険業界から始まり、教育事業を大きな柱として様々な社会的事業に関わり、色々な課題にチャレンジされました。その精神を学生たちにも受け継いでもらいたいと思っています。
―どんな授業ですか。
杉村 経済学と経営学の基本を学びながら、問題解決型の授業を柱に据えています。教室で先生の話を学生たちが聞き、知識を身につけるという従来の聴講型とは違い、学生たちが先生と一緒に色々な課題に取り組み、解決策を考えて自ら学ぶという授業が中心です。
―どういう問題に取り組んでいるのですか。
杉村 各先生方がプロジェクトテーマを提起し、3時限連続で学生たちが集まります。例えば、ITを活用した新サービスの企画、グローバル市場に向けたものづくり、売れない商品・サービスのリフォーム、日本の職場改革等々あります。
―目に見える成果は上がっていますか。
杉村 昨年12月の大学コンソーシアムひょうご神戸の「地域や企業に提案!兵庫自慢プロジェクト」をテーマにした「学生プロジェクトプラン・コンペ2012」でCUBE生のチームが最優秀賞を受賞しました。
―時代の最先端をいく学部ですね。
杉村 学生が主体的に授業時間以外でも学ぶというスタイルの教育が大事だと言われています。CUBEはそういった時代の要請に十分に応えていける学部だと思っています。
―FIRSTはどんな学部ですか。
杉村 一学年の学生数が35人という少人数制でナノバイオの専門的分野を学んでいます。科学者や技術者、あるいは企業では技術とビジネス分野を繋ぐ役目を担う人材育成を目指しています。大学院進学希望者が多く、意欲的に学び研究していこうという学生が育っています。研究においては、同じくポートアイランドの先端生命工学研究所(FIBER)をナノバイオにおける世界的な研究拠点にしていこうとしています。産学連携ということでいえば現在、サケの白子から抽出したDNAを使って紫外線をカットする化粧品を一般企業と共同研究している例があります。神戸市や兵庫県とも連携して、盛り上げていこうとしています。
―知能情報学部というのも耳新しいのですが、どんな学部ですか。
杉村 情報学が今後、社会で占める位置が非常に重要になってくることは明らかです。そこで2008年、理工学部情報システム工学科を独立させ知能情報学部としました。情報学は文系、社会学系の分野もありますが、「知能」と付けることで理系の性格をはっきりさせています。人間の知能と情報科学の関わりを科学的に解明するのと同時に、科学技術の力で人間の知能を輝かせ、更に人工知能の分野も開拓していこうという狙いを持っています。
―こちらも成果は出ていますか。
杉村 わかりやすいものに「漫才ロボット」があります。コミュニケーションロボットプロジェクトが開発したもので、一昨年「ビジネス・エンカレッジ・フェア2011」で注目を集めました。学部としてスタートしたことで色々な分野の先生方が集結し、学生たちができることの範囲も広がりました。文系理系などの垣根を越えて進めた研究の成果です。
―学生たちの将来に向けたキャリア教育にも力を入れているそうですね。
杉村 私が2004年から4年間、学長を務めた当時、キャリア教育の充実を図りました。従来は主に就職活動の時期に支援するというものでしたが、大学入学当初から4年間通して将来を意識させることを基本としました。カリキュラム内外併せてキャリア教育を行うことで意識を高めれば、大学4年間の過ごし方が変わってきます。例えば経済学部2年次にキャリアゼミを開設し、企業見学や職業研究、OBの方々のお話などを通して、キャリアについて考え、学んでいます。キャリア教育で刺激を受けた学生たちが学外の社会にも目を向けるようになったことも大きな成果だと思っています。インターンシップやボランティアに出かけていく学生も増えてきています。東日本大震災では、大学コンソーシアムひょうご神戸を通して多くの本学学生がボランティア活動に携わってくれました。
―これからの甲南大学が目指すところは。
杉村 まず、平生先生が創立時に掲げられた理念を継承し、教育力の高さを社会的に評価いただける大学であり続けること。更に、学園90周年を機にスタートした新しい教育の成果を岡本キャンパスにも反映させていくこと。今年から、CUBEで成果を上げているグループでの作業を自由におこなえる学習施設であるラーニングコモンズを岡本でも取り入れていくことにしています。伝統を守りながら、新しいことに積極的にチャレンジし2019年の100周年に向かっていきます。
杉村 芳美(すぎむら よしみ)
1948年生まれ。1967年東京大学経済学部入学、1971年同大学卒業。1973年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。1978年同大学大学院経済学研究科博士課程単位修得退学。専攻は社会経済学。1979年甲南大学経済学部講師、1981年同大学助教授、1987年同大学教授。2012年より現職。