2月号
みんなの医療社会学 第二十六回
働く人の健康を守るために
─働く人の健康管理には、どのような制度がありますか。
鈴木 働く人の安全と健康を守るための対策を労働安全衛生といいます。労働安全衛生でいう「健康管理」とは、毎年事業場が健康診断を受ける機会を提供し病気がないか確認して就労させることをいい、働く人の健康を損なわず就労させる「作業管理」、良好な労働環境におく「作業環境管理」とあわせて、労働基準法・労働安全衛生法などにより義務づけられています。
─小規模事業場でも健康診断をおこなわなければいけないのでしょうか。
鈴木 日本の全事業場の96%は従業員が50人に満たない小規模事業場で、働く人の約56%はこれに属していますが、法的には従業員の健康診断はどんな小さな事業場でも最低年1回実施しなければなりません。一方で、健康診断を受けて正常でない所見があることを有所見といいますが、小規模事業場にお勤めの方は有所見であっても通院せずに放置するケースが多々あります。特に高血圧症・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病では、初期には特に症状がないため健康診断結果を理解しないまま放っておいても大丈夫だろうと思ってしまいがちです。また忙しくて時間がないとか、診療費が負担になるとかだけでなく、病気であると知られると会社で不利に扱われないか気にして知られたくないと思って放置する人もいると思われます。しかし、有所見のまま精密検査や治療も受けないままにすると重い病気で急に倒れるなど、取り返しのつかない結果になることがあります。自分で判断するのがむずかしい場合もありますので、健康診断の結果により精密検査や療養、時には休業までさせ療養に専念するような指導、つまり健康診断後の事後措置を適切におこなうことが大切です。大企業なら医務室を設置し医師や保健師などを雇うことができますので、徹底した事後措置がおこなわれやすい環境にあります。しかし、事業場が小規模になればなるほど、徹底しにくいのが現状です。
─小規模事業場の場合、どうすれば適切な事後処置をおこなうことができるでしょうか。
鈴木 地域産業保健センターを利用すると無料で結果の説明と事後のアドバイスを受けることができます。これは、医師会が国から委託を受けて実施している事業です。業種を問わず50人に満たない事業場なら社員の健康診断結果が出そろったところで、事業場の代表などに指定された場所(医師会館・特定の医療機関などの施設)へ結果を持参いただいく、あるいは事業場までよんでいただければ、地元医師会員である医師が健康診断結果の意味を説明、事後措置まで行うサービスです。50人未満であれば概ね2時間以内で済みますし、個人情報が漏れなきよう厳密を期します。もし医療機関受診が必要と判断されればどこにかかれば良いかまでを含めアドバイスできます。詳しくは最寄りの地域産業保健センター(表1)までお問い合わせください。
─地域産業保健センターの利用者は多いのでしょうか。
鈴木 平成24年4月から9月までの半年で県内の420事業場、5845名の方の事後措置が行われています。平成5年から始められている事業ですが、いまだ十分に認知されておらず、残念ながら積極的に活用されていません。一方で、県内の小規模事業場で働く人は100万人以上おられるはずですから、まだまだ余裕があるのでぜひもっとご利用いただきたいと思います。
─健康診断により有所見率が高い項目は何ですか。
鈴木 定期健康診断で正常でない所見がある人がいる割合(平成23年)は、全国平均は52・7%、兵庫県は52・1%で、半数以上の人が該当しています。中でも多いのは中性脂肪や悪玉コレステロールなどの血清脂質で、異常値を出す人は30%を超えています。 健康診断で有所見であった場合は、一度は医師に適切な判断・正確な診断を受けることをお勧めします。小規模事業場にお勤めの方は、無料で保健指導を受けられる地域産業保健センターをぜひご活用ください。ちなみに、昨年、脂質異常症治療薬を医師の診察に基づく処方なしでも薬局で購入できるようになりましたが、脂質異常症以外の病気を合併している場合などが見落とされてしまう恐れがあり、日本医師会は警鐘を鳴らしています。まずは医師の診断を受けましょう。