2014年
1月号

新春市長インタビュー

カテゴリ:, 行政関係

神戸・新ステージの創造にむかって

神戸市長 久元喜造さん

昨年11月20日、神戸市の新市長に就任された久元喜造さん。
神戸っ子新年号で初登場いただき、生まれ故郷でもある神戸への思い、これからの市政についてお聞きした。

にぎわいがなければ都市とは言えない

―兵庫区生まれの久元市長は、灘校卒業まで神戸で過ごし、その後、東京へ。神戸に再び戻られた今のお気持ちは。
久元 生まれ育った神戸の街には子どものころの記憶が鮮明に残っています。久しぶりに戻って来て、「なつかしい」という気持ちと同時に、「相当、時代が変わったな」という気持ちがあります。阪神・淡路大震災のとき、私は財政局長として札幌市にいましたので何のお役にも立てませんでした。埋め合わせはできないのですが、今できること今後できることを私なりに頑張りたいと思っています。
―選挙戦では子育て、教育、福祉、医療、市役所改革などについて公約を掲げておられましたが、「にぎわいのある街づくり」とは。
久元 都市とは、いろいろな所から人間が集まって来て、ダイナミズムが生まれ、新しいビジネス、新しい文化が生まれるという交流のステージです。にぎわいがなくては都市とは言えません。神戸の場合は明治時代から港町として栄え、かなり早い段階から鉄道が敷かれ、私鉄も充実したという経緯の中でにぎわいが作られてきました。私が子ども時代を過ごした新開地界わいでは商店街はどこも押し合いへし合い、凄いにぎわいでした。かつてのにぎわいを復活させるのは恐らく無理でしょう。そこで、時代に応じた神戸の街としてのにぎわいをどう作っていくのか、どう再生していくのかが大事になってきます。
―具体的には三宮駅前開発も入っていますか。
久元 神戸の玄関口である三宮が、東は梅田や西宮北口、西は姫路などに遅れをとりつつあります。問題意識を持って三宮の再開発を考えていくのと同時に、市内の各所で頑張っている商店街の活気を作っていくための政策展開をしていきたいと考えています。
三宮駅前については 阪急さん、JRさんと相談しながら進める再開発はもちろん大切な課題ですが、それを含め三宮周辺でエリアを設定し総合的な都市計画事業を進めていくことが必要です。そのための具体的な青写真を1年以内に作る予定です。

医療都市、空港、ものづくりは市民にとって身近なもの

―神戸は今、ポーアイ2期が注目を集めています。今後も先端医療都市として発展させていく予定ですか。
久元 医療産業という全く新しい分野に着目されたのは矢田前市長の大きな功績ですね。理研をはじめとする医療研究機関を誘致され、中央市民病院を整備して病院群を作り上げ、それと関連する医療産業が立地し、既に約270社が集まっています。日本を代表するメディカルクラスターをさらに広げ、立地を加速させるよう、引き続き進めていきたいと考えています。
―一部では反対意見もあるようですが…。
久元 決して全面的に反対されているわけではなく、医療産業都市計画を進めるにあたっては、混合医療などの問題や、先端医療が一部の富裕層だけに利益をもたらし、国民皆保険制度の崩壊につながるのではないかという危惧もあり、一部ではご懸念を持たれているのだと思います。私は医療産業都市が目指すところはそういうものではないと確信しています。いろいろな意見をお持ちの皆さんと丁寧に話し合いながらご懸念を払拭していただき、議論を広げていきたいと思っています。
―医療産業についてはあまり市民には知られていませんね。
久元 市民の皆さんは新聞などで例えば京大の山中伸弥先生の話題を目にして関心を持っても、自分たちの医療とは関係ないと考えられているようですね。皆さんが、かかりつけのお医者さんでは解決できない病気で中央市民病院を受診し、紹介を受けて近隣の先端医療を行っている病院で治療する。こういった医療機関相互の連携が現実にできているわけです。これをさらに進め、分かりやすく市民の皆さんに情報提供していく必要があるでしょうね。
―空港についてはどうお考えですか。
久元 神戸空港の活用は神戸だけではなく、兵庫県全体の経済活性化に役立ちます。積極的に進めていきたいと思っています。
―西区等の産業団地には多くの企業が集まっていますが、神戸のものづくりについてはいかがですか。
久元 いくつもの集積区域があり、特に高速道路からのアクセスが良いというメリットがありますね。それぞれにまだ若干の余裕がありますので引き続き誘致を促進していきます。立地している様々な企業の横のビジネスマッチングができれば、さらに新しい商品や技術が生まれます。企業間の橋渡しが求められるということであれば、その役割を神戸市が果たしていきます。

民間の力も導入し、〝チーム市政〟を!

―市役所の改革については。
久元 民間の方に市役所の中でもっと活躍していただくことが必要です。実は神戸市役所では民間企業経験者をかなり採用しているんです。200人以上いますが、市民の皆さんにはほとんど知られていませんね。最初から神戸市に採用された職員とはバックグラウンドや発想が違いますから、神戸市役所の仕事の仕方のどこに問題があるのかをもっと発信してもらおうと考えています。今後は指導者的またアドバイザー的な立場でももっと知恵や経験を発揮してもらいたいですね。
例えば、昨年12月1日付で、ホテル業界出身の課長クラスの女性を部長クラスに昇進させ、神戸市の広報官に任命しました。新しい感覚で神戸市を広報してくれると期待しているところです。
また、神戸市はIT関係が残念ながら遅れています。そこで副市長を情報統括責任者としてCIO(チーフ インフォメーション オフィサー)に任命し、その補佐官には非常勤として民間の方を任命しました。また、従来から審議会や委員会のメンバーとして民間の方に入っていただいていましたが、さらに今後は職員と一緒になって同じテーブルに就き、アイデアを出し議論しながら行動に移していく〝プロジェクトチーム〟を順次立ち上げていこうと考えています。
―市長としてどのように力を発揮していこうとお考えですか。
久元 私一人の力だけでは何もできません。約1万5000人の職員がチームとしてどれだけの力を発揮できるかが大切です。就任した日にネット及び紙面で、「最強の仕事人チームをつくろう」と呼びかけました。チームプレイのためには、私から発信するだけでなく、職員のほうから「こんなことをやりたい」「市民の皆さんからこんなことを求められている」など情報を発信してもらい、それをもとに侃々諤々(かんかんがくがく)と議論し、実現可能な政策として結実させていく。スピード感ももちろん大事ですが、みんなが納得する方向へ進むことも大事です。
―神戸市の9区での取り組みについては。
久元 神戸には大きなブランド力があると同時に、9区にそれぞれに歴史や自然環境、街並みなど、いろいろな面で個性があり、求められる政策も違うと思います。私は選挙の際に各区ごとの政策を作りました。こういった試みは初めてではないでしょうか。
―各区独自で力を発揮させるのでしょうか。
久元 私は基本的に各区の問題は区内で対応できるようにして、解決するのが最善だと考えています。

健康で楽しい暮らしそのものが、神戸の観光資源でもある

―高齢化社会での福祉、医療、介護については。
久元 矢田前市長は福祉や医療、健康などの面にも力を注ぎ政策を進めてこられました。私も新しいことを始めるのではなく、路線を継承する予定です。国の制度に基づくことが多い分野ですが国の政策はいわゆる縦割りで、地域レベルでは機能しづらく、それを横につなげて解決していくのが自治体の大きな役割です。
―神戸市の観光については。
久元 神戸には目玉になる観光施設があって、それが人を呼ぶというよりは、街全体、暮らしそのものが観光資源ではないでしょうか。クオリティーの高い買い物やグルメ、文化を楽しむ日常、いわゆるKOBEスタイルを見てもらうために来ていただくことが神戸の観光だと思っています。多様な言語を使い動画やウェブサイト、スマホなどを通じて暮らしの魅力を発信して、「行ってみたい」「参加してみたい」と思ってもらいたいですね。物見遊山(ものみゆさん)とは違う観光、厚化粧の観光地を見てもらうのとまた違った観光です。

お互いの顔が見える地域社会づくりを

―財政再建については。
久元 かつては〝株式会社〟とも呼ばれた神戸市は大きな収益を上げたものの、震災復興に多くが費やされました。その後、財政再建団体になる危機に陥りながらも、行財政改革を遂行し危機を回避された矢田前市長の功績は大きなものです。今、気を緩め、その成果を無にすることがあっては努力されてきた人たちに顔向けできません。財政節度を守りながら、ばら撒きにならないよう、同時に国や県からの効果的な財政支援も受けながら、大きな効果を生むような政策や事業展開をしていくことが必要です。
―ご自身の著書「ネット時代の地方自治」はどういう内容ですか。
久元 私は長年、地方自治制度の企画と運用に携わってきました。一方で、札幌市などの自治体や、そして神戸市でも副市長として地方自治の仕事を経験しました。地方自治の原点は器や形の議論ではなく、地域社会についての自己決定のあり方だと思っています。ネットでは顔が見えないバーチャルな世界が広がっていますが、これに頼り過ぎることは非常に危険なことです。家族単位で生きられない今、求められるのはお互いにどうやって支え合って生きていくかということが大切で、地域の中に広がっている無縁化、疎外感、孤立感、そういったものをどう克服していくのかが課題です。顔をあわせ、声をかけあい、異なる考えを持つ人たちが議論を交わしていくことしかありません。お互いの顔が見える小さな地域社会が緩やかにつながっていくのが自治体で、それを基礎にしながら、選挙で選ばれた議員で構成される議会と同じく、市長が全体を運営していくというのが本来の自治体の姿ではないでしょうか。
―今回は神戸っ子への初ご登場、ありがとうございました。今後も誌面を通してさまざまな情報発信をよろしくお願いいたします。
久元 こちらこそよろしくお願いします。

インタビュー 本誌・森岡一孝

神戸の玄関口である三宮周辺の開発が急がれる


今後、日本を代表するクラスターとして更に発展が予想されるポートアイランド(第2期)


2011年7月に移転した神戸市立医療センター中央市民病院



神戸空港を活用し、神戸市全体の活性化にも役立ててゆく


世界に冠たるブランドである神戸ビーフ


神戸の地場産業である洋菓子づくり

久元 喜造(ひさもと きぞう)

神戸市長
1954年、神戸市兵庫区生まれ。1976年、東京大学法学部を卒業し、旧自治省入省。札幌市財政局長、総務省自治行政局行政課長、同省大臣官房審議官(地方行政・地方公務員制度、選挙担当)、同省自治行政局選挙部長などを歴任。2008年、同省自治行政局長。2012年、神戸市副市長。2013年11月に第16代神戸市長に就任。

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〈2014年1月号〉
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