2月号
神戸のカクシボタン 第二十六回「港町のランドマーク兵庫大仏」
写真/文 岡 力
「日本三大大仏の一つが神戸にあるのはご存知ですよね?」博学を売りにしている知人がしたり顔で話しかけてきた。奈良には遠足、鎌倉には旅行の際にお会いしたが兵庫の大仏様には、これまでお目にかかる機会がなかった。
805年、最澄により創建され平清盛所縁としても知られる「天台宗・能福寺」。
門をくぐると正面に悠然と構える高さ18メートル、重量60トンから成る立派なお姿があった。この大仏様、実は新たに再建された二代目である。厳密には、初代と「合体」したと形容するのが相応しい。
明治24年、民衆に広まる異国文化に危機感を持った信徒・南条荘兵衛により初代は建立された。当時、周辺には高い建物がなく港町のランドマークとして世界の船乗りからも親しまれた。しかし昭和19年、太平洋戦争に伴い武器生産に必要な資源を回収する「金属類回収令」が勅令。出し渋る国民へのパフォーマンスとして標的にされた大仏様。首に縄をかけられ引きずり倒された後、ハンマーでかち割られた。その模様を凝視できなかった当時の住職は、寺院の奥で地響きを聞きながら「忘れたらあかん」と涙した。終戦後、湊川の倉庫から破壊された現物がそのままの形で発見される。昭和30年頃から再建の話が持ち上がり平成3年5月9日に市民の寄付もあり初代の亡骸を練り込み新たに蘇った。
雲井雄善住職にお話を伺った。「大仏は、存在する事に意義があると思います。たえず人々を見守り安心を与えることが重要です。是非、社会見学等で子供たちに訪れて頂き歴史に触れてほしいです」。手を合わせて見上げると壮絶な過去をおくびにも出さず優しく微笑む姿があった。
■能福寺
神戸市兵庫区北逆瀬川町1-39
■岡力(おか りき)コラムニスト
ふるさとが神戸市垂水区。著書「アホと呼ばれた’80S」「噂の内股シェフ」「関西トラウマ図鑑」連載「大阪ロマン紀行」(大阪日日新聞)出演「おちゃのこSaiSai」(J:COMチャンネル)「Oh!二度漬けラジオ」(YES-fm)