12月号
“幻”の白い異人館
かつては、北野町に「白い異人館」と呼ばれ、親しまれた異人館が存在した。
その姿は大きく変わってしまったが、外国人たちの暮しぶりを今に伝え続けている。
10月から放送がスタートしたNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』。神戸の子ども服メーカー「ファミリア」の創業者の一人、坂野惇子さんをモデルにしている。そのクランクインのロケ現場となったのが、「萌黄の館」(旧シャープ住宅)。風見鶏の館と共に国の重要文化財に指定されている「萌黄の館」だが、かつて「白い異人館」と呼ばれていたことをご存じだろうか。
明治19年(1886)に来日し、後にアメリカ総領事となったハンター・シャープ氏の邸宅として明治36年(1903)建築された。設計は、神戸外国人居留地で建築物の設計を数多く手掛けたことでも知られているA・N・ハンセル。
風見鶏の館の重厚なネオ・バロック様式に対し、萌黄の館は典型的コロニアル様式の2階建て建築。意匠の基本はバロック様式で、左右に異なった意匠のベイ・ウインドー(張り出し窓)やモザイク装飾の階段など随所に贅沢な意匠が見られる。また、復元された1階の開放型ベランダと共に室内の玄関ホールもこの建物の重要な見どころとなっている。
昭和19年(1944)には、当時の所有者であったドイツ人から小林秀雄(神戸電鉄社長)が取得して、昭和53年(1978)まで居住していた。そのため昭和55年(1980)に「小林家住宅(旧シャープ住宅)」という名称で重要文化財に指定されたが、この頃の外壁は白く塗られていたことから「白い異人館」と呼ばれていたのだ。
しかし、昭和62年(1987)からの半解体修理にともなう調査で、創建時の外壁の色が萌黄色であったことが判明したのだ。そのため、重要文化財に指定されていることから、創建時の外壁の色に塗り直した方がいいだろうということで、現在の「萌黄の館」となった。
南斜の地形を利用して、大きな窓やベランダ、ポーチが設けられ、淡いグリーンの壁板も、西部開拓時代のアーリーアメリカンを思わせるコロニアル様式。さらに、建物だけでなく宅地も併せて重要文化財の指定を受けている。明治中期の創建当時のままの姿で、この地に暮らした外国人たちの暮しぶりを今に伝えている。