2016年
12月号
スズメバチが、肉団子にしたミツバチを抱えている。 右側のミツバチとの大きさの違いが分かる

連載 ミツバチの話 ⑤

カテゴリ:, 医療関係

俵養蜂場の春井勝さん

藤井内科クリニック 藤井 芳夫

何も勉強せず、始まった私の養蜂

 私が養蜂を始めたきっかけは、2010年当時NHKの朝ドラで「ゲゲゲの女房」が放映され、主人公のお兄さん飯塚藤兵衛さんの所でミツバチのことを詳しく教えていただいたことは当誌8月号で述べた。
 そこで紹介されたコンサルの養蜂家は、なんと地元神戸の阪神住吉にある俵養蜂場であった。早速、俵養蜂場に「採蜜用の遠心分離器が欲しい。安来市の飯塚さんの紹介です」と電話をかけた。全く素人の私に対応してくれたのは俵養蜂場の俵孝社長であった。
 「分離器はありますよ。ところで巣箱はいくつお持ちですか?」と聞かれた。「蜂はこれから」と答えると、「ミツバチが先でしょう。養蜂は大変だから考え直されては」と笑われた。
 「老人ホームの屋上でミツバチを飼って、ハチミツを入居者さんに食べてもらいたい。手伝って欲しい」と熱い思いを述べると、呆れながらも興味を持たれたようだった。「普通はお断りするのですが、どんな所で考えているか見に行きたい」と言ってくれた。そう言えば、その時私はミツバチのことは何も勉強していなかった。こんなレベルから私の養蜂は始まったのである。

家内や職員の反対を押し切り・・・

 2010年11月、俵社長は老人ホーム「Mボヌール」の屋上に来られた。「ここでミツバチ飼えますか?」「そうですね。大丈夫だと思いますよ」「家内や職員は反対しているのですが・・・」「そりゃそうでしょう」と言いながら「持ってきて」と言われた。
 まもなく養蜂場のスタッフが、箱を2つ屋上に運んできた。それは巣箱だった。そして、その巣門を開くと恐る恐るミツバチが出てきた。ミツバチは巣箱の位置を確認し、記憶するため巣箱の周りを飛び始めた。蓋を開けた巣箱をもう返すことはできない。俵社長の協力のもと、私の養蜂はこうして始まった。このとき巣箱を運んで来られたのが、春井勝さんであった。「これからは弟子の春井君に、何でも聞いてください」と帰って行かれた。これが春井さんとの出会いである。
 なぜ11月にと思うかも知れない。ミツバチにとってはこれから冬越しになるが、採蜜の時ではなく、地味ではあるが、それ以外の時期のミツバチの健康管理を始めることが養蜂家にとって重要という意味だ。それから私は、春井さんから例えば、燻煙器の使い方、巣箱の開け方、巣板を持ち上げてミツバチを観察、女王蜂の確認等々、ミツバチ知識をご教授いただいた。
 春井さんは元公務員で、農業改良普及指導員といって花の生産技術指導をされていた。従って季節、地域におけるハチミツの源となる(蜜源)植物のことを知り尽くしている。養蜂の経験も深く、従ってその説明は説得力がある。こんな養蜂家はめったにいない。
 ミツバチを診ることができる本邦三人のうちの一人である俵獣医師と春井さんは抜群の師弟コンビである。ミツバチの新しい知見に詳しい獣医師の師匠についているため、ミツバチの寄生ダニ感染症や他の疾患対策にも詳しい。養蜂で扱うのはほとんどが扱いやすい西洋ミツバチであるが、その中でも性格が大人しく蜜を沢山集める種類を研究し、スロベニアから女王蜂を輸入する業務もされているそうだ。

固まるハチミツ、固まらないハチミツ

 さて春井さんのサポートのお蔭で、採蜜量も毎年3、4種類の百花蜜が100㎏ほど取れる様になってきた。実は春井さんは都市部においてアマチュア養蜂家による庭先養蜂が少しずつ増加していることを背景に池田市において5年間、市街地の住宅の庭先に巣箱を一つおいて採蜜量の推移を研究された。結果は毎年最低30㎏の採蜜があり、3年目以後は周辺の蜜源植物も把握できるようになり都市養蜂の新しい展開が期待できると『Honeybee Science』(1995)に発表されている。その研究を後押しされた俵孝社長は都会での養蜂に興味を持ち、大阪梅田のミツバチプロジェクトの仕掛人でもあった。垂水区で養蜂が出来ることが証明されたと喜んでくれた。
 2013年俵社長は黄綬褒章を受章された。しかし、その喜びも束の間で、俵社長は翌年の正月に急逝されてしまった。ご家族の悲しみは勿論であるが、俵社長に魅せられて公務員から養蜂業に転身した春井さんは、しばらくは物も言わずに黙々と仕事をされていた。
 ミツバチ師匠の春井さんの説明は説得力があると前述したが、そのひとつを紹介したい。固まるハチミツ、固まらないハチミツで本物?ニセ物?という話をよく聞く。
 春井さんの説明はこうだ。前回お話ししたように、ハチミツは花の蜜そのものではない。ミツバチが集めた花蜜のショ糖を酵素により、ブドウ糖と果糖に分解する。そして翅で扇いで蜜を濃縮するのであるが、ハチミツのブドウ糖と果糖の割合が花により若干異なる。そして、ブドウ糖成分が多いハチミツは固まりやすく、果糖成分が多いと固まりにくいとのこと。例えばレンゲのハチミツは一年位で固まるが、アカシアは3年経っても固まらない。説得力のある説明だ。さらにハチミツは煮てしまうと成分が変化し、ハチミツではなくなる。65℃以下で湯煎すると問題ない。もし数年前の固まったままのハチミツがあれば、トーストにのせオーブントースターで2分ほど温めると美味しいですよ、と。

養蜂を始めた際、俵養蜂場の弟子だった春井さんと出会い、養蜂について多くを学んだ

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巣板についている蜜蓋をナイフで切り落とし、遠心分離器にかける

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ミツバチは家畜であり、感染症や疾患を治療する獣医師が存在する

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スズメバチが、肉団子にしたミツバチを抱えている。 右側のミツバチとの大きさの違いが分かる

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右側のミツバチとの大きさの違いが分かる


ミツバチを捕食し、肉団子にするスズメバチ。 天敵から守ってやるのも養蜂家の仕事

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天敵から守ってやるのも養蜂家の仕事


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藤井 芳夫

藤井内科クリニック

〈2016年12月号〉
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