10月号
市民に愛される 〝芦屋らしい〟病院を目指す
市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆 さん
2014年の全面リニューアルオープン以来「市民に愛される病院」に向けて着実に歩み続ける市立芦屋病院。建て替え計画時から関わり、原動力になってこられた事業管理者の佐治文隆さんにお話を伺った。
医療の質と経営は
車の両輪のようなもの
―素晴らしい環境の中、ゆったりした雰囲気で、ホテルに入ってきたような印象です。
建て替えに際して、移転という案もありましたが、幾分不便でもこの環境は捨てがたく、同じ場所でのリニューアルを決めました。市民病院は機能性優先で地味なイメージがありますが、国際文化住宅都市・芦屋という土地柄に相応しく、住んでおられる方たちに満足いただける病院づくりを目指しました。
―院内のいろいろな所に工夫が見受けられますね。
建物高は旧病院と同じく4階建て、南側壁面のゆるいカーブ、天井の中心から少し外側にずらし壁に光を当てる廊下の間接照明などが、柔らかな雰囲気を醸し出していると思います。1~4階それぞれ海、街、山、空のイメージカラーで統一する遊び心も取り入れました。病床は199に抑え、その3分の2を個室とし手厚い看護を提供し、一部屋30~50平方メートルでそれぞれにテイストが違う贅沢な七つの特別室も備えています。
―経営面でも改善を図ってこられたのですね。
病院にとって医療の質と経営は車の両輪です。質を上げれば患者さんに来ていただけて、病院収支が改善します。すると、新しい医療機器の導入や、優秀な人材の確保ができ、さらに患者さんに来ていただけます。お陰様で昨年度は年間病床平均稼働率90%超と好調でした。もちろん、救急や小児医療など、経営上の利益には直接つながらない医療の提供という市民病院の使命も果たさなくてはいけないと考えています。
―市内の救急医療は改善されてきているのでしょうか。
市内唯一の公的病院として二つの私立病院はじめ、診療所の先生方とも連携し、救急受け入れ体制の改善に努めてきました。当院でも、24時間365日受け入れてきた内科救急に続き、昨年度から外科系救急も同じ体制での受け入れを開始しました。また小児二次輪番救急の医療機関として土曜の午後5時から日曜午後5時まで診療を行っています。ただし、当院には心臓血管外科、脳外科がありませんので、脳出血等は診断後、専門病院をご紹介しています。
診療科それぞれに特徴を持たせ、質の高い医療を提供
―市民に愛される病院とは。
この規模の病院ですから「何でもできます」というわけにはいきません。そこで、限られた診療科に特徴を持たせ、質の高い医療を提供することで「診てもらいたい」と言っていただける病院にしようと考えています。まず緩和ケアについては、最上階東半分24床を当て、全室個室、専従医師2名、緩和ケア認定看護師2名、緩和薬物療法認定薬剤師3名、臨床心理士常勤という充実した体制を整えています。またVRを利用して、病院に居ながらにして患者さんが自宅に帰ったような体験ができる新しい試みも始め、喜んでいただいています。
―その他にもどういった特徴がありますか。
婦人科には、腹腔鏡手術で高い技術を持つ専門医と婦人泌尿器に特化した手術の専門医がいますので、日々多くの手術を手がけています。学習障害を持つ子どもさんには、言語聴覚士と小児科が協力し意欲的に対応していますので、評判を聞きつけて近畿一円から患者さんが来院しておられます。病院長が専門とする血液・腫瘍内科では白血病や悪性リンパ腫の治療、また胃がんや大腸がん、子宮がんなど固形がんに対する抗がん剤治療については、開発された新薬も組み合わせた治療に力を入れています。
市民の感謝の言葉に応えられる〝芦屋らしい〟病院に
―市民向けの健康に関する啓発活動は。
市民病院は病気の治療と並行して、市民の健康を守る予防医療に力を入れなくてはいけません。特に高齢化社会では健康寿命を伸ばすことが大切ですから、啓発活動を積極的に展開しています。例えば、毎月1回公開講座を市民センターで実施、また2009年から毎年9月、10回にわたって「がんフォーラム」を開催してきました。今年からはテーマを広げ「健康フォーラム」とし、11回目は認知症をテーマに開催、約500人の市民が参加されました。毎年11月の日曜日に病院を開放して開催する「ホスピタルフェスタ」では、血管年齢や骨粗しょう症などの検査や、子ども向けの、お菓子を使う腹腔鏡手術体験や調剤体験など、楽しく、ためになる一日を過ごして病院に親しみを持っていただけるよう工夫しています。
―地域包括ケアにはどのように取り組んでいますか。
地域連携室のスタッフが病院・診療所等の医療機関や介護・療養施設等と連携し、ICTネットワーク等も用いて情報交換や協力を行っています。ICTネットワークについては、阪神医療圏7市1町をつなぐ「むこねっと」に加え、独自の「芦っこメディカルりんく」を立ち上げ西隣の神戸の開業医の先生方ともネットでつながり連携しています。検査結果を迅速にやり取りできるというのが治療を進める上では大きなメリットですので、今後さらに充実させていこうと考えています。
―芦屋にお住いの方の印象は。
健康について非常に高い関心をお持ちです。公開講座でもたくさんの質問を頂き、インテリジェンスの高さを感じると同時に、いい加減な解説はできないと私たちも気を引き締めています。
―今後の抱負をお聞かせください。
私自身は今まで大きな病院できちんとした医療を提供してきたと自負しておりますが、患者さんからのご意見箱にはクレームや要望が多いのが常でした。ところが芦屋病院では要望も頂きますが、3分の1以上が感謝の言葉です。良いことを良いと認め、それを言葉にして伝えようという心の余裕をお持ちの方が多いのでしょうね。こういった市民の皆さんの気持ちに応えられるよう、芦屋らしい病院づくりに努めていかなくてはいけないと肝に銘じております。
佐治 文隆(さじ ふみたか)
西宮市出身。1968年大阪大学医学部卒業。米国留学等を経て大阪大学医学部産科学婦人科学講座助教授、大阪府立成人病センター(現大阪国際がんセンター)診療局長、国立病院機構理事・呉医療センター院長を歴任、2009年から芦屋市病院事業管理者として市立芦屋病院の運営・経営を担当
市立芦屋病院
芦屋市朝日ヶ丘町39-1
TEL.0797-31-2156
FAX.0797-22-8822
http://www.ashiya-hosp.com