2014年
1月号

浮世絵にみる神戸ゆかりの源平合戦 第25回

カテゴリ:文化・芸術・音楽

中右 瑛

女人哀史
二位の尼・時子と幼き安徳帝、壇ノ浦の悲劇

平清盛の正室・平時子ほど壮絶な最期を遂げた女人はいない。平家終焉の地・壇ノ浦合戦では、二位の尼時子、娘の建礼門院徳子、そしてその子・八歳の安徳帝らの三人の入水は、親・子・孫三代の悲劇が有名である。
清盛亡きあと平家一門は都を追われ西海を、一の谷、屋島での合戦に敗退し、元暦二年(1185)、壇ノ浦では激戦のさなか、
「もうこれまで・・・」
と、平家敗北を悟った二位の尼・時子は建礼門院徳子、安徳帝と共に入水して果てる覚悟を決めた。
「わが身は女人なれども、かたきの手にはかかるまじ」
入水のさい、安徳帝は祖母の二位の尼に
「どこに行くの?」
とあどけなく尋ねた。二位の尼は
「さあ・・・極楽浄土に参りましょう。浪の下にも都はございます」
と諭すように告げた。
三種の神器の一つ宝剣を腰に差し、神璽(しんじ)を小脇にはさみ、安徳帝を抱き上げ海に身を投下、内侍などお付の女人たちは手をつなぎ合い、あるいはおもしを懐に入れて次々に入水し海の藻屑と消え果た。安徳帝の母・建礼門院も後を追って投身したが、源氏方に助けられ都に連れ戻された。
思えば娘の徳子が承安元年(1171)、高倉天皇の中宮となり、治承二年(1178)皇子を産んだ。時子は従三位に叙され、それ以降は二位の尼と呼ばれる。清盛、二位の尼にとっては目に入れても痛くない孫の出生にあまりのうれしさに声を上げて泣いた、と『平家物語』で伝えている。
この皇子が治承四年(1180)、三歳にして帝位につき、安徳帝と名乗る。二位の尼は外祖母として崇められ、平家一門にとって天皇家との系譜として平家は安泰、我が世の魁と祝福されたが治承五年(1181)、高倉上皇(21)の崩御により中宮徳子は剃髪し建礼門院と号し、その直後の清盛(64)の突然の死等のアクシデントが起こり、また、源氏方の台頭で平家打倒の勢が増す。都落ちした平家一門はことごとくの戦いで敗北し、壇ノ浦が平家終焉の地となってしまったのである。
壇ノ浦での平家女人たちの最期は余りにも悲惨で、平家終焉のドラマとして、後世の人々の涙を誘ったのである。
幼き安徳帝は、朝廷の影の実力者・後白河天皇と武家の権力者・清盛との両祖父の狭間にあって、その闘争に巻き込まれ平家方に奉じたために、平家の運命と共に散ったのである。ときに八歳、短い生涯だった。

二位の尼・時子と安徳帝、入水の直前


歌川国芳「長門国赤間の浦に於て源平大合戦平家一門悉く亡びる図」

■中右瑛(なかう・えい)

抽象画家。浮世絵・夢二エッセイスト。1934年生まれ、神戸市在住。
行動美術展において奨励賞、新人賞、会友賞、行動美術賞受賞。浮世絵内山賞、半どん現代美術賞、兵庫県文化賞、神戸市文化賞など受賞。現在、行動美術協会会員、国際浮世絵学会常任理事。著書多数。

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