2017年
8月号
8月号
戦わないという戦いのため、生涯闘い続ける!!
榎 忠 (美術家)
今、住んでいる都市空間は、何事も合理性に満ち過ぎ、クリスタルの上を命がつるつる滑っていくみたいです。あまりにも情報の多さとスピードに、僕のような鈍臭い人間は真っ先に抹殺されるだろう。いつも不安な世界だからこそ、好きなこと、創ることしか出来ない者は、余計何かがウズウズしてきます。
137億年という想像できないほど前に地球が生まれ、マグマが地上に噴出し、あらゆる事物を出現させ、鉄が生まれ、本当にたまたま人間が生まれ、ひとりでは生きられないから社会を作り、平和のためにと原爆を作り、人間の欲望で宇宙や自然を破壊しています。
自然界の生き物のなかで、人間が一番狂暴で凶悪です。突然悪魔になり得る自分を知ることです。子供でも凶悪な暴力は抑制されない性質を持っています。子供には善とか悪がまだ形成されていないから、危険なことでも平気で想う世界に入って行けるのです。作品を作るのも一緒です。命の危険に接した者でなければ、この感覚は分からないでしょう。これらと闘うには、身体の五感を磨く訓練が必要なのです。
美術と出会い、廃材(スクラップ)と出会い、「剥ぎ、削り、磨き、切り、叩き」作品を作る行為で、僕は助かっているようなものです。毎日の生活のなかで身体を通じての活動が、僕のドローイングです。「難しいことをやさしく」「やさしいことを深く」「深いことを面白く」を基本に、唯一表現の自由という芸術の世界で、作品を作り、発表していきたいです。
榎 忠(えのき ちゅう)
香川県善通寺市生まれ。16歳から現在まで神戸市在住。鉄鋼関係の工場で旋盤工として定年まで勤務し、神戸を拠点に活動。時流に埋もれる事象に目を向け、国内外でパフォーマンスを行う一方、鉄の廃材や金属部分による彫刻を用いたインスタレーションを制作。