2026年
4月号

神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~ (72)後編 孫文

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屈することなき英雄の姿…神戸から発した平和への願い

神戸での熱狂

なぜ、今も孫文が神戸市民や日本の多くのたちから親近感を持って語られ続けているのか。その大きな理由のひとつとして、1924年、神戸市の兵庫県立神戸高等女学校(現在の神戸高校)の講堂で孫文が世界へ向けて発した「大アジア主義」講演が起因している。
孫文の講演から今年で102年。今、同校講堂の跡地には兵庫県庁が建っている。
1985年刊行の『孫文と神戸』(陳徳仁/安井三吉著、神戸新聞総合出版センター刊)のなかで、この講演会がどれほどの熱狂ぶりで迎えられたかを二人の会話でこう明かす。
《陳 二時に始まるという予定でしたが、押すな押すなで三〇〇〇人もの群衆が殺到したんです。そのために玄関の鉄柵が折れてしまったということです。二時半開門となるや講堂はたちまちにいっぱい、窓まで鈴なり、それでも一〇〇〇人ぐらいあぶれてしまい、仕方なく体育館を第二会場にしてやっと収まったということです。
安井 それで孫文は、まず第二会場で簡単な講演を行い、それから講堂にまわって話をすることになるんですが、もう三時になっていました》
急遽、講演会場を二つに増やし、体育館では30分ほどの簡単な講演だったというから「一目でいいから孫文に会いたい」という多くの人が全国から神戸へ駆けつけたことが分かり、当時の日本人の孫文に対する関心の強さが想像できる。
そんな日本人に対し、孫文は講演の最後、こんな〝檄〟を飛ばす。喝を入れるように。
《日本民族は既に欧米の覇道の文化に到達したのであるが、亜細亜王道の本質をも有してゐる。今日以後に於て、日本が世界文化の前途に対して西方覇道の猟犬となるか、或ひは東方王道の干城となるかは、諸君日本人が慎重に考慮してその一を選ぶべきである》と。
一世紀以上も前、孫文が日本人へ問いかけた、この言葉の意味は、国際化を遂げた今の日本人が聞いても、決して古びれず、色褪せてもいないことを知らされる。否、むしろ現代の日本人にこそ、この孫文の言葉の意味は重くのしかかってくるように思える。
「また、神戸へ来たい」とメッセージを残して孫文は日本を去るが、この願いが叶うことはなかった。
講演会から一年後。1925年、病気のため、孫文はこの世を去る。まだ58歳だった。
《陳 孫文の死は、在神華僑にとっても深い悲しみをもって迎えられました。一九二五(大正一四)年三月二四日、中華会館と神戸中華総商会の主催による追悼集会が開かれました。これには、在神華僑や同文学校の生徒たち多数が参加しています。会場中央の祭壇には、孫文の写真が飾られ、その両側には「革命尚未成功、同志仍須努力」という「遺嘱」の言葉が掲げられていました》
孫文は病床に伏せりながら遺書を書き記した。そこに綴られた言葉に強い衝撃を受ける。
「革命未だ成らず…」
死の間際まで孫文は〝世界平和〟を目指す革命をあきらめていなかったのだ。

唯一無二の英雄

この連載で以前、紹介した作家、陳舜臣は台湾出身の両親を持ち、神戸で生まれた。彼も、また、やはり孫文に特別な感情を持って育った、郷土・神戸を思う一人だった。
彼の著書に孫文と同志らの青春群像を描いた小説『孫文 辛亥への道』(中公文庫、2006年刊)がある。上下二巻にわたる長編のなかに彼のこんな言葉が収録されている。
《私の父親は一八九六年に生まれました。これは小説の冒頭場面の翌年のことですから、父親はすっかり日本統治時代の台湾人ということになります。そして一家が神戸に移住した一九二四年二月に私が生まれました。この年、孫文が神戸に来て、県立高等女学校で講演をしてるんです。そのことに、私は何か見えない縁のようなものを感じています》
さらに彼の言葉はこう続く。
《神戸での講演の頃、孫文はもう癌に冒されていて、翌年三月に北京で亡くなった。私は生まれたばかりの赤ん坊だったから、もちろん記憶にはありません。けれども家族や周囲から、その当時のことを聞かされて育ったので、私には、切り離された歴史の一コマとは感じられません》
革命に生きた孫文は、中国政府の密偵の目をかいくぐりながら、世界を逃避行し、何度も神戸の地を訪れていた。
その逃避行はスリリングでドラマチック。彼の生涯は冒険活劇の映画のようである。
実際、そんな〝英雄・孫文〟が登場する映画がこれまで何作も製作されてきた。
1992年公開(日本はその翌年)の香港アクション大作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』に、若き日の孫文が登場する。
舞台は清朝末期。主人公は伝説の武術家、黄飛鴻(こう・ひこう/ウォン・フェイホン)。アクションスターのジェット・リーが演じ、今作は今も日本の映画ファンの間でアクション映画の傑作として語り継がれている。
また、今年1月に日本公開された中国映画『唐人街探偵1900』にも孫文が登場する。舞台は1900年の米サンフランシスコ。革命の準備で米国滞在中の孫文が描かれている。
中国や日本、アジアの将来を見据え、静かに闘志を燃やし続けた革命家、孫文は映画界でも普遍の存在。唯一無二の永遠の憧れのヒーローの雄姿は普遍だ。これからもスクリーンの上などで、何度も蘇ることだろう。
 =終わり。
 次回は司馬遼太郎。
 (戸津井康之)

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