4月号
ベトナム元気X躍動するアジア 第28回|ベトナムはタイを追い抜くか?
公益財団法人・大阪産業局が主催する海外ビジネスセミナーに出席した(3月5日)。講師は猪谷太栄氏(株式会社VIT JAPAN代表取締役)、テーマは「2026年最新!成長加速するベトナム経済と消費市場―展望と注意点」。その中で本年中にもベトナムがGDPにおいてタイを追い抜くという指摘があった。そこで今回は、両国の基本的な経済指標を確認しておきたい。
文・ 上田義朗
ベトナム経済は今後「黄金の10年間」
何人かのベトナム人に聞くと、公安省出身のトー=ラム共産党書記長が就任(2024年)して以来、汚職・贈収賄の取締が厳しくなり、また行政省庁の再編成や省・直轄市の統合(63から34に減少)の昨年の性急な実施によって政府の許認可が遅延し、経済の萎縮や停滞がもたらされている。
しかし講師の猪谷氏によれば、今年も8~10%の経済成長が予想。ベトナムは今後「人口ボーナス期」最後の「黄金の10年間」を迎える。それに伴ってGDPや自動車販売台数(年間60万台規模)でベトナムがタイを追い抜くと予想されると指摘された。事実、表が示すように両国のGDPは急接近している。
以上は、ベトナム人の主観的な経済感覚は悲観的・懐疑的だが、客観的・集計的な事実としてベトナム経済は好調と解釈ができる。このような景況感と現実の相違は、日本も同様であろう。株価が過去最高値を更新して恩恵を受けている人もいれば、物価高騰で生活や経営が苦しいという人もいる。経済活動は、それらの人々の集合の結果とみなされる。

「中進国の罠」に陥ったタイ?
コロナ禍は2019年~20年に世界経済に深刻な負の影響を与えた。タイがマイナス成長(6.1%)となったが、ベトナムはプラスを維持。観光業で大きな打撃を受けたタイに対してベトナムは製造業が維持された。またタイの政治的な不安定性も経済活動を停滞させた。国家の政治的安定性は、民主制や独裁制を問わずに経済成長の前提となる。
経済的な観点からはタイが「中進国の罠」に落ちたと考えられる。簡単に言えば、中進国として成熟し、そこで成長が止まる。この罠の脱出国または地域は韓国や台湾である。その脱出要因は企業活動の「革新性」「独創性」「創造性」「起業家精神」「学習力」の存在であろう。それらの根底には現状に対する批判・改革意識がある。
なお、1人当たりGDPは依然としてタイがベトナムを上回っている。ただし2019年にタイはベトナムの2.9倍、2025年には1.6倍に相違が縮小。ベトナム経済の成長力がタイを凌駕していることは間違いない。
成長するベトナムと日本の情報力
ベトナムの大学で日本語を学ぶ学生が減少している。日本の経済力の衰退とともに日本に対する関心が低下。ベトナムと長く関わった日本人として、難しい日本語を学習したベトナム人に対して申し訳ない気持ちになる。
しかしベトナムにはない日本の優位性が健在。日本の「情報力」を企業活動に活かしてほしい。それはICTやAIの開発力や技術力ではない。世界に展開するJETROやJICAなど公的機関や総合商社・研究機関の情報の収集力や分析力を意味する。ベトナムの成長力と日本の情報力が融合・共創すれば、両国の企業に大きなメリットがある。
■上田義朗(うえだ よしあき)
流通科学大学名誉教授
岡山学院大学・岡山短期大学理事
日本ベトナム経済交流センター日本代表
外国人材雇用適性化推進協会(ASEO)代表理事
合同会社TET代表社員・CEO












