2月号
Power of music(音楽の力) 第2回
フランツ・シューベルト
歌曲集 『冬の旅』 絶望と希望の狭間で
上松 明代
オーストリアの作曲家シューベルトは、様々な分野の楽曲を残したが、やはり一番評価されるのは「歌曲」であろう。冒頭から話は逸れるが、神戸北野異人館にウィーン・オーストリアの家がある。主にモーツァルトをテーマにした物が展示されているが、当時の舞踏会衣装も飾られていてそれらが非常にノスタルジックで凄味があって・・。見に行かれる価値有りです。さて話は戻り。
シューベルトと言えば、多くの方が音楽の授業で鑑賞した歌曲『魔王』を思い出されるのではないだろうか。『魔王』の登場は音楽に文学性を導入した始まりで、後のロマン派に影響を及ぼす学術的に重要な歌曲だ。この曲に登場する悪魔に憑かれた息子の「お父さん、お父さん!魔王のささやき声が聞こえる!」という鬼気迫る歌詞と、馬に乗り森の中を疾走する父親とのやりとりが緊張感溢れるハーモニーで劇的に表徴されている。
さて第二回音楽の力、歌曲集『冬の旅』。ドイツの詩人W・ミュラーの詩に曲をつけた二十四の歌曲。シューベルトがこの歌曲を書き始めた1827年頃、体調は悪化し、友人たちとも会えず暗い日々を過ごしていた。詩の中の青年は恋に破れ、失意の中あてどない旅を続ける。孤独と病魔に怯え、絶望と少しの希望の狭間で揺れるシューベルトは詩の中の青年に自分を重ね合わせ曲を書いたのかもしれない。美しいハーモニーだけでない儚いメロディーは、風前の灯火の前でさえ、彼の狂おしいほど純粋な音楽への情熱を感じないではいられない。
この歌曲集の中では『菩提樹』が有名だが、最後の曲『辻音楽師』を是非聴いて頂きたい。ライアー回しの老人の様子が空虚に響く和音で表現されている。その詩と音楽の世界感が最期のシューベルトの姿と重なるのは私だけだろうか。翌年、三十一年という短い生涯の幕を閉じた。
うえまつ・あきよ(フルート奏者・作曲家)
武蔵野音楽大学卒業。在学中にハンガリーの「音楽」と「民族」に魅了され、卒業後ハンガリー国立リスト音楽院へ留学。31歳で知的好奇心から兵庫教育大学大学院で作曲を学ぶ。演奏活動と同時にバイタリティー溢れる作曲活動も展開中。六甲在住。音楽に対する想いは烈火の如く!
オフィシャルサイトhttp://akiyouematsu.com