2月号
神戸鉄人伝 第74回 声楽家・神戸親和女子大学学長 山本 裕之
剪画・文
とみさわかよの
声楽家・神戸親和女子大学学長
山本 裕之(やまもと ひろゆき)さん
音楽ホールに轟く歌声は一流、教育者としても一流。そんな素晴らしい方が、神戸にいらっしゃいます。関西屈指のテノール歌手で、神戸親和女子大学の学長を務める山本裕之さんを、創立50周年記念事業の準備が進むキャンバスに訪ね、お話をうかがいました。歌い手らしい堂々とした体躯をスーツに包み、「学生が学び、成長できる環境を整えるのが大学の責務」と、大学運営を熱く語ってくださいました。
―音楽の道に進まれたのは何故ですか。
3人のすばらしい先生との出会いがあったからです。音楽家の家系ではありませんでしたが、子どもの頃から歌うことは大好きでした。小・中学時代にはNHK全国音楽コンクールに出場。中学3年生の文化祭では先生の勧めで初めて独唱をさせてもらい、大勢の前で表現する喜びを知りました。兵庫県立芦屋高等学校では故三室堯先生に出会いました。先生の朗々とした歌声とその豊かな感情表現は、私の憧れとなりました。
―神戸とのご縁は?
神戸親和女子大学に勤務したことがきっかけで、演奏活動も神戸で行うようになりました。思えばもう、25年になりますね。
―声楽家として、思い出に残っている公演はありますか?
ひとつは1979年、大阪フェスティバルホールで小澤征爾指揮のオペラ「トスカ」です。私はスポレッタ役で出演しました。小澤先生がタクトを振ると、それぞれの場面がいきいきと浮かび上がってきたのを思い出します。もうひとつは同じ大阪フェスティバルホールでの関西歌劇団創立50周年記念公演です。日伊共同制作のオペラ「アイーダ」に、ラダメス役で出演しました。アイーダ役として世界で定評のあるノルマ・ファンティーニ氏から、役に真摯に向き合う姿勢を学びました。いずれの公演も、よい勉強をさせていただきました。
―ご自身の音楽活動と、教職との両立は大変だったのでは。
人に教えるためには、自分自身も研鑚を積む必要があります。勤め始めた頃は、教員も比較的研究に専念できましたので、オペラを中心に活動を展開していました。さすがに大学の役職を兼ねるようになると、音楽活動に専念することはできません。今は職務優先ですが、もともと教えることにも大きな喜びを感じていましたから、苦ではありませんよ。
―教育者として、大切にしていることを教えてください。
学生が自ら学ぶ意欲を育てることです。教員として、一方的に教えるのではなく学生との対話を重視し、学生が結論を導くまで待つ姿勢を心がけています。信頼される大学であるためには、学生の教育を第一義に考えなくてはなりません。本学は学生が幅広い教養の上に専門的能力身につけ、それぞれの夢を実現していくことのできる教育カリキュラムやシステムを整えています。
―学生たちに、そして神戸市民にひとことお願いします。
学生の皆さんには、深く物事を考える力を身につけて欲しい。インターネットで簡単に情報を得られる時代ですが、たくさんの本を読むことを勧めます。在学中に読書を通じて、少しずつ知識と教養を深めてください。本学は子育て支援や公開講座など、地域と共に歩む活動に力を入れています。市民の皆さんもぜひ、本学の知的財産を活用してください。神戸の発展や活性化に役立てるなら、喜ばしい限りです。 (2016年1月7日取材)
学長としてハードスケジュールをこなしながらも、山本さんは「学生が人間的に成長していくのを見るのは嬉しい」と目を細めておられました。
とみさわ かよの
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。