2022年
5月号
(実寸タテ15㎝ × ヨコ4.5㎝)

連載エッセイ/喫茶店の書斎から72  飛騨高山の山鳥

カテゴリ:文化人

3月号の本欄に田中冬二の詩「城崎温泉」を取り上げた。その中の一節に疑問があると。
冒頭の、《飛騨の高山では「雪の中で山鳥を拾つた」といふ言葉がある》である。
わたしはこれについて次のように書いた。
  《「雪の中で山鳥を拾つた」にどんな意味があるのか?わざわざカギかっこに入れてある。これには意味があるはず。飛騨高山でのみ通じるような故事来歴があるに違いない。
   それは何なのか?それがわからなければこの詩の真意は解らないのでは?》と。
そして、文末に《「雪の中で山鳥を拾つた」だが、原典を知る人はないでしょうか。お教えください。》と添えた。
このほど便りがありました。
「飛騨高山まちの博物館」からである。
送られた資料を読んで大いに感動した。
その一つに『飛騨の鳥』(川口孫治郎著・大正十年・郷土研究社)からのコピー、「ヤマドリを拾ふ」があり、その一部。
  《高山町では大雪の上を歩く際、辷べつて轉んだ其機に、『ヤマドリを拾つた!』といつて起き上がる風があつたさうである。
   之は大道の眞中で辷り轉がることの、あまり體裁の良くない為に、所謂テレカクシといふものかも知れないが、それにしては、何とでも言ひ様のありそうなものなるに、
   特に此詞を用ひ來つた所由を熟考すると、昔は、ヤマドリが如何に多く町近くに出現したかを想ひ浮ばしめらるゝ。》
大正10年発行のこの本に「あつたさうである」とある。
このあと、この地にいかにヤマドリが多くいたかということが書かれていて、《之等の事實から推考すると、昔の高山町内では、雪中に轉がつて、本當にヤマドリを拾つたことがあつたかも知れない。》と。
やはりあったのである。「ヤマドリを拾う」という言い方が昔から、というより昔にはあったのだ。
また別の資料『飛騨のことば』(土田吉左衛門著・昭和34年)。「やまどりうつ」の項に、《すべつて転ぶこと。雪路などで顛倒すると「やまどり一羽うつた」などという。》とあり、先の話に通じるところがある。
やはり、飛騨高山でだけ通じる言葉だったのだ。
ところで、なぜ詩人田中冬二はこのことを知っていたのだろうか?それは、もう一つの資料を読んでみて納得がいった。
高山市在住の詩人・郷土史家だった西村宏一氏の散文集『合切嚢』(西村宏一著・1991年・すみなわ詩社)から「冬二追悼」の項。
  《田中冬二さんがなくなった。たった二度高山へ来られただけだったが、こよなく高山を愛された方で、
   ある時いただいたお便りには「高山は私の心のハイマートです」とあった。》
そうだったんですね。飛騨高山を田中はよほど気に入っていたのだ。西村はこうも書いている。
  《「城崎温泉」では、飛騨の高山では「雪の中で山鳥を拾った」という言葉があるがと記してある。それらの事象や言葉は作品の外のここにはもうないのである。
   (略)田中さんは飛騨を題材にした詩を十編ほど残されている。残念ながら地元の詩人には、これほどの愛惜をもってふるさとの町を歌った詩は稀である。
   田中さんの詩の中の高山の風俗は、今はもう失われて存在しないものが多い。
   (略)市の郷土館には、この詩人の晩年の作が、自筆で書いて掲げられている。

   幼いものが泣くと 私は言った
   お父さんと 飛騨の高山へ行こうね
   私はまた妻と争などして
   何か憤しい時にも 幼いものに言った
   お父さんと 飛騨の高山へ行こうね》

切々たる詩だ。
戻って「城崎温泉」である。

   飛騨の高山では「雪の中で山鳥を拾つたといふ言葉がある/
   私は雪の中で山鳥を買つた/
   可哀相に胸に散弾のあとのある山鳥を/
   さむい夜半だつた/
   私はそれを抱へて山陰線の下り列車を待つてゐた。

やはりこの詩は痛々しいだけのものではなかった。

※資料を提供してくださった「飛騨高山まちの博物館」の松永英也様に感謝申し上げます。

■六車明峰(むぐるま・めいほう)

一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。

■今村欣史(いまむら・きんじ)

一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • ジャガー・ランドローバー西宮 / 神戸中央 / 姫路
〈2022年5月号〉
フラウコウベ|ジュエリー&アクセサリー[KOBECCO Selecti…
北野ガーデン|フレンチレストラン[KOBECCO Selection インスタグ…
STUDIO KIICHI|革小物[KOBECCO Selection インスタ…
西田ひかるさんに聞く日ごろのあれこれ
平尾工務店|目次[PR]
BMW 駆けぬける歓び[PR]
最高の神戸ビーフ|ビフテキのカワムラ|扉 [PR]
南京町をぶらり|曹さんぽ|扉 [PR]
最新の世界観で魅せる。高級時計の真の価値を伝えるショップ
ノースウッズに魅せられて Vol. 34
神戸で始まって 神戸で終る ㉗
横尾忠則の本
ノースウッズに魅せられて ―大竹英洋フォトコレクション
神戸偉人伝外伝|扉
NEKOBE|扉
-cafe Paradiso –
動画プロジェクトリンク集
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.18 平山 秀…
神戸を愛し、世界へ羽ばたく子どもたちへ 本の森をプレゼント
KOBECCO お店訪問|BAR 崑崙
KOBECCO お店訪問|和食 くに弥
マダム・チェリーのpetit bonheurちいさなしあわせ
Movie and cars |ポルシェ356スピードスター
永田良介商店|オーダーメイド家具[KOBECCO Selection]
STUDIO KIICHI|革小物[KOBECCO Selection]
亀井堂総本店|瓦せんべい[KOBECCO Selection]
御菓子司 常盤堂|和菓子[KOBECCO Selection]
ガゼボ|インテリアショップ[KOBECCO Selection]
ブティック セリザワ|婦人服[KOBECCO Selection]
神戸御影メゾンデコール|オートクチュールインテリア[KOBECCO Select…
マイスター大学堂|メガネ[KOBECCO Selection]
㊎柴田音吉洋服店|ハンドメイド ビスポークテーラー[KOBECCO Select…
北野ガーデン|フレンチレストラン[KOBECCO Selection]
トアロードデリカテッセン|デリカ[KOBECCO Selection]
ゴンチャロフ製菓|洋菓子[KOBECCO Selection]
Hair&Face Elizabeth|ヘアサロン[KOBECCO S…
アレックス|トータル ビューティーサロン[KOBECCO Selection]
マキシン|帽子専門店[KOBECCO Selection]
ボックサン|神戸洋藝菓子[KOBECCO Selection]
スポーツ文化創出の拠点 母港〝マザーポート〟に|Produced by HAYA…
プロスポーツチームが横につながり 地域に貢献し健全なアスリート育成をサポート
「人とのつながり」を大切にして、 「書く文化の素晴らしさ」を広めたい
映画をかんがえる | vol.14 | 井筒 和幸
味も香りも見た目もインパクト大‼ 「第1回ドリーム豚饅プロジェクト」
神大病院の魅力はココだ!Vol.9 神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座 消化…
元町映画館 vol.5|人生を諦めない女たち
「もっと自分のことを大切にしたい」と気づかせてくれた映画
有馬温泉史略 第五席|謎のベールに包まれた 有馬の復興主、仁西(にんさい)鎌倉時…
神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~㉕後編 カール・ユーハイム
木のすまいプロジェクト|平尾工務店|瓦編|Vol.4
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第131回
harmony(はーもにぃ) Vol.51 自立とは、頼れる先を増やすこと
神戸のカクシボタン 第一〇一回 阪神沿線で働く女性に密着 新番組『チキチキジョニ…
「ウエディングの街神戸」のPR大使 第12代 神戸ウエディング クィーン誕生!
連載エッセイ/喫茶店の書斎から72  飛騨高山の山鳥
神戸マツダが事業主体の保育園 「サンク・トレゾール」開園
NEKOBE|vol.43|老祥記