10月号
有馬歳時記 日本温泉科学会 有馬温泉大会が開催
歴史学・温泉医学・地球科学など多方面から有馬を検証
日本温泉科学会(西村進会長)は、研究者や温泉地の関係者などが集まった全国的な組織。自然現象である温泉と、人間・社会とのかかわりなど、温泉に興味をもつすべての人々が参加し、温泉を多面から深く理解することを目的に、1948年より毎年、全国の温泉地で大会を開催している。今年、第64回大会は9月7日~9日に有馬温泉で行なわれ、7日には一般にも公開された講演会が有馬グランドホテルで開催された。
まずはじめに園田学園女子大名誉教授・田辺眞人先生が「歴史の中の有馬温泉」と題し講演。温泉発見の神話時代から、日本最古の記録『風土記』に「塩の湯」として記されるほか『日本書紀』には舒明天皇、孝徳天皇が有馬を訪れたと記され、平安時代には藤原道長、頼通、後白河法皇らが有馬に逗留するなど、日本の歴史の中の有馬温泉をわかりやすく紹介。また有馬を愛した豊臣秀吉は有馬に9回訪れ、御殿も造らせたといわれるが、江戸時代に入って秀吉ゆかりのものはほとんど壊されてしまい、御殿の上には浄土宗のお寺が建立されたという言い伝えがあったが、先の阪神・淡路大震災で崩れた温泉寺を再建した際、実際に地下より湯舟が発掘され、言い伝えが証明された(湯舟は現在「太閤の湯殿館」として展示)。
有馬温泉を歌った歌は、『万葉集』に集められた数首をはじめこれまで約3千首あり、昨年そのなかの100首を集めて『有馬百人一首』が作られたことも紹介、「こんなに多数の歌が作られた温泉は他にはない。それは有馬温泉の豊かな歴史によるもの」と田辺先生。また来年の大河ドラマ「平清盛」にも触れ、「清盛は有馬に訪れたという記録は残っていないが、きっと彼も有馬温泉に憧れたでしょう」と話した。
温まりやすく、冷めにくい 有馬の湯
続いて、国際医療福祉大学大学院の前田眞治先生が、有馬温泉を温泉医学的に検証した「有馬温泉に上手に入浴して、もっと健康になろう」と題して講演。有馬温泉の金泉(赤湯)は、鉄分、ナトリウム、塩素イオンなどの物質を多く含み、物質の濃度が高い湯ほど熱が身体に伝わりやすく、また肌に塩分が付着すると皮膚の表面についた温泉が気化しにくくなることから、「有馬の金泉は、体が温まりやすく、また冷めにくい」ということを具体例を示して説明。熱刺激を受けることによって、血行が良くなるだけでなく免疫力を高める効果も期待できるとか。「有馬の温泉には、額にうっすら汗をかくぐらいで上がり、できればあまり洗い流さずにタオルで拭くぐらいがベスト」という。
大阪市立大学大学院・益田晴恵先生は、「地球科学を研究している私たちにとっては、有馬温泉は非常に特異な場所」と話し、有馬に湧き出す温泉の泉質と、地球内部の活動との関係を講演。有馬温泉にはマントルに由来する物質が高濃度で含まれており、その泉質などからどういった経緯でこの湯が湧き出しているのか今でも研究が進められているという。「世界中から注目を集めている特異な泉質である有馬温泉を大切にしてほしい」としめくくった。
兵庫県立人と自然の博物館より三枝春生先生による「兵庫の恐竜」と題する講演もあり、古くからの、大地より湧き出す恵みである温泉と、有馬周辺地域の歴史を、多方面から考察した充実した公開講演会となった。
大会ではその後2日間、学術大会が開催され、全国から有馬に研究者が集って討論や交流が行なわれた。