12月号
未来への視点 有馬温泉ゆけむり大学へ行こう
若い力で有馬を活性化
―「有馬温泉ゆけむり大学」開学のきっかけは?
金井 近畿大学の廣田先生のゼミの学生さんたちに、有馬のベストショットとワーストショットを撮ってもらいました。すると、私たちが「良い」と思っている所が意外とそうではなく、「あまり良くもない」が学生さんたちにとっては「良い」だったりで…、若い人たちの視点のおもしろさに気づき、これを生かさなくてはならないという思いがまずありました。
そして、次世代の有馬ファンを開拓するには、人と人のつながりが大切ですから、ゆけむり大学を通じて、学生さんたちにもどんどん有馬に関わってもらおうというのがきっかけです。神戸芸工大にはデザイン、音楽は大阪音大、ノルディックウォークなどの運動は武庫川女子大ほか、どんどん広がってきました。また、これからは外国のお客さんにも来てもらわなくてはいけません。そこで、フランス・エセック経済商科大学院大学の学生さん8人に有馬を歩いてもらって、意見を出してもらいました。
―私たち一般市民も、ゆけむり大学には入れるのですか。
金井 もちろん。登録いただければ、誰でもゆけむり大学の学生になれます。観光で来て登録された方もおられます。
―相澤先生がゆけむり大学のお話聞いた時の印象は? 学生さんはどの部分で参加しているのですか。
相澤 芸術、音楽、運動など、各々の大学が専門性を生かして有馬というキャンパスに集まり、学生たちが交流の場を持っているというイメージです。芸工大は「お土産創造学部」に属してはいますが、ポスター、チラシ、Tシャツ、冊子などのデザイン面すべてにかかわっています。また、学生が作るクラフト作品の展示・販売や、夜景の写真をお土産にデザインするなど、主に近大の学生たちがマネジメントするいろいろな企画に参加しています。
―既に手ごたえは感じていますか。
金井 こういう時代ですから、判断はむずかしいのですが…。昨年、卒業旅行シーズンに向けて、学生が学生向けに作ったパンフレットを、各大学の生協に置かせていただきました。東日本大震災の影響で外国からのお客さんが激減した時期でしたが、有馬の街を多くの学生さんが歩いていました。それなりの効果はあったのかなと思っています。また、サブカルチャーのアニメに力を入れようと、アニメフェスタを企画し、開催しました。残念ながら台風のせいで参加者は少なかったものの、十分な手応えは感じました。
―さすが、若い人たちだなあと感じたことはありますか。
相澤 若い熱意は非常に感じています。ただし、まだまだ経験不足ですから「こんなことをやりたい!」という思いが先走って、「本当にできるのか?」「安全面は?」と問いかけなくてはいけないという場面もありますね。
みんなで造る観光案内所
―有馬温泉観光案内所のリニューアルも取り組むそうですね。
金井 現在の案内所には全く横文字がないんです。開所した当時はインバウンドなどという時代ではなかったですからね。これからは、外国のお客さんにもたくさん来てもらわなくてはいけませんから、「この際、何とかしようじゃないか」と豊田さんにお願いしました。造り上げていく方法として、芸工大の学生さんにプロジェクトチームを組んでもらおうということになりました。
―どういうイメージができているのですか。
金井 近代的な設備というよりは、木のぬくもり感があり、顧客視点に立った案内所、地元の人との交流がある案内所にしようと思っています。
豊田 前提は、学生さんの新しい智恵や発想を取り入れるということです。どこの国からのお客さんにも分かりやすく、なおかつ若い人たちの斬新な知恵が生かされている様々なものになれば、学生さんのやりがいにもなり、卒業後にもプロフェッショナルとなって有馬にかかわってもらえるのではないかと思っています。
―実際に学生さんはどういう部分にかかわっているのですか。
相澤 本学にはプロダクトデザインの実習用の設備がありますし、ファッションデザインや、ガラス、陶芸、木工、金工などのクラフトの設備も整っています。それらを利用して、学生がどの程度までかかわれるのかを検討しているところです。
金井 納期が決まって、工事期間が決まってというのが普通ですが、今回は造っていく課程を見てもらいながら進めていく予定です。ですから完成時期も未定です。
豊田 通常なら、私が描くスケッチや、図面の通りに工事を進めます。しかし今回は、いろいろな方と話をする中で、スケッチを描く方法をとりました。例えば、「どんな色がいいのか」「インフォメーションのロゴは『i』がいいのか、『?』がいいのか」「窓を大きくするか」「テラスを造るのか」など、学生さんに限らずいろいろ意見をいただき、それが現実になる体験をしてもらいます。そうすることで、よりイメージしやすくなります。
金井 こんなふうにしたいと考え、できるところから始め、また予算ができればまた次に取り掛かる。いわば、まちづくりの縮小版ですね。
―何故、豊田さんに依頼を?
金井 有馬の多くの店舗を設計してきた人が昨年亡くなりました。そこで次世代とも話ができる若い人にお願いしたいと、彼を誘いました。そして今回、彼を有馬の皆さんにも知ってもらおうと、ボランティアで参加をお願いしました。もちろん、有償で他の施設の設計も依頼しています。そっちをもっと増やして、有馬にずっとお付き合いいただけるようにしなくては…(笑)。
有馬のお国自慢は〝奇跡の湯〟
―金井社長が基本にする観光の考え方は?
金井 観光はマイナスをプラスにできる要素を持っています。例えば、日本一の最高気温を記録したら、「日本一、暑いまち」を売りにできます。お国自慢が観光ですから、作ればいい。
―では、有馬のお国自慢は?
金井 有馬には火山はありませんが、地中60キロメートルから熱いお湯が湧いています。本来、湧くはずのない場所に湧いている。これは世界中どこを探してもありません。火山性の温泉ではありませんから、硫黄分を含まず、強酸性ではない。奇跡の湯です。この湯の副産物が、六甲の美味しい水や灘の宮水です。
湯が湧いてくる過程で発生する殺菌作用を持つラジウムやラドンが花崗岩に浸み込み、表面水と一緒になるので六甲の水は腐らなくて美味しいのです。そして、有馬の温泉の中の炭酸カルシウム等が混ざった硬水が、酒づくりに適した宮水として湧いているのです。
―来年に向けての有馬の進む方向は?
金井 温泉に入って、美味しいものを食べるだけの旅はすぐに飽きてしまます。長いバカンスを取るフランス人は知的好奇心を満足させる体験をするために旅をします。それは日常のビジネスや人間関係に生かすことができます。有馬としても体験メニューやイベント、仕掛けを進めていこうと考えています。
相澤 有馬温泉ゆけむり大学の講座として、学生と一緒に新しい有馬ブランド展開をできないかと思っています。例えば、ファッション専門の学生なら、有馬で浴衣のファッションショーを開催するなど。有馬温泉の中に学生たちの作品として残していけるものを作っていければいいなと思っています。
―来年は、大河ドラマが「平清盛」です。神戸市も力を入れていますが、有馬ではどうですか。
金井 「清盛が来たかったけど、来られなかった有馬」などどうでしょうね(笑)。有馬は多くの歴史上の人物が訪れていますが、丁度、清盛の時代は大地震があり六甲・有馬も壊滅状態で来られなかったようです。
―東アジアからのお客さんに向けては?
金井 節分に計画している仮装して鬼を追い出すというイベントが中国の春節祭の時期ですので、まず来年一番の東アジア方面への集客になると思います。昨年も留学生に参加してもらって仮装行列をしました。
相澤 芸工大にも、中東、ヨーロッパ、アジアなど各国からの留学生が多くいますので、協力させていただきました。
金井 マナー違反が多いという指摘を受けますが、違反しているわけではなく、知らないというだけなんです。そこで今はネット社会ですから、留学生を通じて日本のマナーを世界の人たちに知ってもらうのは良い方法ではないかと思っています。
―ゆけむり大学をはじめ、若い人たちの企画力で有馬がますます発展することに期待しています。ありがとうございました。
相澤 孝司(あいざわ たかし)
神戸芸術工科大学デザイン学部
プロダクトデザイン学科教授
豊田 健太郎(とよだ けんたろう)
豊田建築設計室 建築家
金井 啓修(かない ひろのぶ)
(株)御所坊 代表取締役社長