12月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第十二回
適切な心のケアで、心の病気の予防・早期発見を
─心のケアとはどのようなものですか。
丸田 心のケアとは辛い状態に追い込まれ心のバランスを崩した方に対し、うつ病などの心の病気の予防や早期発見・早期治療を行うものです。前駆症状の段階で適切なサポートを行うことができれば、病気投薬や長期療養、入院などが必要となるのを防ぐことができます。健康な人であっても一時的にメンタルヘルスの調子を崩すことがありますが、適切なサポートやアドバイスさえあれば、回復することは多いのです。
─どのようなことで心のバランスを崩しやすいのでしょう。
丸田 災害、事故、死別、失業のほか、子どもが巣立っていって自己のアイデンティティを失う「空の巣症候群」や、自分が大切にしていたものを失う、例えば「ペットロス」など、ストレスの原因はさまざまです。東日本大震災では地震や津波、原発事故など自分の大切にしているもの、家族、家、仕事、ペットなどすべて根こそぎ失いますので、喪失感が大きいですね。
─心のバランスが崩れると、どのようになるのでしょう。
丸田 一番多いのは不眠(眠れない、眠りが浅い、夜中に目が覚めるなど)です。そして、拒食や過食、何を食べてもおいしさを感じなくなる、インスタントなど簡単な食事で済ませるなど食生活の変化があらわれることがあります。つまり、普段からの生活のリズムが崩れることは大いにあり得ます。物事が楽しくなくなる、趣味に興味がなくなる、体を動かしたくなくなるといった興味の喪失や、疲れやすい、倦怠感を感じる、集中力がなくなり散漫になる、小さなミスが増える、仕事の効率が悪くなるなどもサインです。身体症状としても肩こりや頭痛、便秘などの症状が出ることがあります。
─心のケアではどのようなことをするのでしょうか。
丸田 話をしっかり聞いて、どのようなことで困っているかをはっきりさせた上で、自分の調子が悪いということを自覚してもらうことが大切です。「仕事や家事が思うようにできない、人間関係がうまくいかないといったことは、あなたが健康な状態ではないのですよ」、「これは病気のせいで自分が悪いのではないのですよ」ということを理解してもらうのです。その上で生活リズムを回復するための工夫や、オン・オフの切り替え、休養や気分転換など適切なアドバイスをします。肉体的な疲れはちょっと休憩すれば回復することが多いのですが、精神的な疲れは回復に時間がかかるので、適切な休養はとても大切です。
─心の調子が悪い人に対し、どのように接すればいいですか。
丸田 その人のしんどさを理解する努力をすることです。「がんばれ」と声をかけることは、その人を追い込むことになりかねません。「どれほどかはわかりませんが、あなたがしんどいということはわかるので、力になれることがあったら言ってくださいね」というスタンスで臨んでいただきたいですね。また、そのような方は精神的な病気というレッテルを貼られるのを極度に怖れますので、お医者さんの診察を勧める際は不眠やだるさなどの症状に絞って、その改善のための受診を勧めてください。入口は専門医である必要はありません。G-Pネットなど一般の診療所と精神科のネットワークがありますので、かかりつけ医が対応してくれます。
─心のケアが必要と感じたらどこに相談すればいいですか。
丸田 どこに相談していいかわからない場合は、医療機関施設の情報を持っている各地域の保健所に相談すれば適切な医療機関や施設を紹介してくれます。また、保健所や精神神経科診療所協会では無料相談会などもおこなっています。もちろん直接精神科、神経科、心療内科など受診するのも良いでしょう。
─心のケアの活動で、阪神・淡路大震災の経験はどのように生かされていますか。
丸田 東日本大震災では、兵庫県からも多くの方々が心のケアの支援に行っています。ケアするスタッフも震災という同じ苦しみを味わっていますし、阪神・淡路の被災された方々と診療などで密に接する経験も多いので、被災者の方々を刺激せずにケアにあたることができます。一方で被災者のみならず、被災地支援に従事した消防士や警察官、ボランティアスタッフなどにもケアが必要です。日本精神神経科診療所協会の事業として神戸の専門医が中心となり、携帯電話を活用して、日本中にいる災害支援者を対象とした心のケアの電話相談「災害支援者ストレスほっとライン」を構築しましたが、ここにも阪神・淡路大震災の教訓が生かされています。また、阪神・淡路大震災後、兵庫県では本格的な心のケアセンターを開設しました。東日本大震災で被災した福島県も兵庫県にならってケアセンターの設立を計画しています。これからも神戸の方々の災害支援への役割は大きいと思います。