3月号
<対談>あわじ 未来島へ!
(株)パソナグループ 代表取締役グループ代表
南部 靖之さん
(株)ホテルニューアワジ神戸 神戸ベイシェラトン ホテル&タワーズ
代表取締役社長
木下 学さん
―「あわじ環境未来島特区」が国に認められました。まずお二人の感想をお聞かせください。
南部 特区に認められたということは、淡路島の3市が日本経済発展の起爆剤になる可能性があるということです。特区をフルに活用して、そのメリットをどんどん発信して民間が参加しやすいシステムを付け加えていけば、必ず多くの企業が反応します。そうすれば、地方の活性化のモデルケースになり得ると思います。ただし、ハードを作るには、必ず人材というソフトが必要です。人材教育をどう取り入れていくかが今後の課題でしょうね。
木下 地方はそれぞれ同じようなパターンで疲弊していますから、活性化のモデルケースになると思います。今のところはまだ島民が、どうかかわっていけばよいのかをイメージできていない状況です。そんな中で、私は「食」に着目しています。淡路島の食の歴史は、古くは朝廷に献上していた時代から、大阪・神戸ほか首都圏に供給してきた、〝供給の歴史〟です。島内でオリジナルの献立などを作り食文化を育む取り組みをして地元のものを地元で食べれば、ひいてはそれが観光の魅力にもつながるのではないかと考えています。
―淡路島の食といえば、パソナの「ここから村」農園があります。順調ですか。
南部 井戸知事と門市長の提案をきっかけに、ここから若者を元気に、日本を元気にしようと昨年始めました。午前中は農業で自分の食べるものを作って、自然の中で心穏やかに感性を磨きます。午後からは音楽や芸術など好きなことをやって、淡路島を元気にしてもらおうというものです。ゼロからのスタートでしたが、ほぼ全員が約1年、頑張ってきました。
―ベイシェラトンホテルの食事にも淡路島の食材を取り入れているそうですね。
木下 玉ねぎやお米から始めました。これからは鮮魚や青果類を扱っていきたいと思っています。神戸にも、まだまだ淡路島の食材の良さが伝わっていません。その意味で、ベイシェラトンが拠点になればいいなと思っています。
―淡路島の良さを、全国に向けてどう発信していけばよいのでしょう。
南部 方法はいろいろあります。まず、日本の若者を淡路島に呼び込んでくる。それ以上に、世界から注目を浴びるような島にする仕組みづくりはできないかと考えています。イベントに限らず、定住できるようなインターナショナルアイランドにするには何が必要かを検討してみてはどうでしょうか。
木下 淡路のホテル・旅館業では、冬は3年とらふぐ、春になると鯛、夏には鱧を食べていただくなどしていますが、淡路の食をもっと若い方々に興味を持っていただくために、牛丼、バーガー、スイーツなどで新しいファン層を獲得していこうとしています。学生さんにメッセージを発信し、芸術利用や合宿などを誘致すれば将来につなげていけると思っています。
―エネルギー自給率は現在7%、これを特区の目標である100%にするのが最も難しそうですね。
南部 今、どんどん民間誘致を進めていますが、民間企業が来やすい税などの制度を整えていくことがまず必要でしょうね。
木下 旅館業は廃棄物を出しますからバイオマスに利用するとか、潮流を利用する、風を利用するなどいろいろ考えられます。
―島の雇用はどう確保していけばよいでしょうか。
南部 人材を育成するための研修センターを設けたり、海外からの留学生が日本の高い農業技術を学べる仕組み、例えば漢方の栽培などはどうでしょうか。目前の雇用を考えるならば、自治体がインフラ整備、補助金、優遇税制などを行って、全国から企業の業務を請け負うセンターを作れば、すぐにでも雇用創出は可能だと思います。
―若者の島外への流出を止めるには?
木下 淡路島で育てば都会への憧れは致し方ないことだと思います。ところが、最近の若い人の中には〝淡路大好き〟人間が意外と増えてきています。島外からも弊社に今年は450人ほどの若い人たちが応募してきました。きちんと淡路の良さを伝えれば、わかっていただけるはずです。私を含め、今まで島民の皆がそれを怠ってきたのでしょうね。
南部 今、東京から若者が大脱走し始めていると言われます。地方に住みたいけれど、どこへ行ったらいいのかがわからない人たちに淡路の良さを数多く発信していくことです。私は、淡路島、神戸、大阪、和歌山を結ぶ「エッグランド」を構想しています。瀬戸内海の心臓部分である淡路島「ハートランド」の素晴らしさを自治体が発信して、アクセスを上手に利用すれば中心になれると思います。
―淡路島で生まれ育った木下さんですが、暮らしの面はどうでしょう。
木下 淡路は暮らしやすいところですよ。食べ物も美味しく、環境が良くて、神戸・大阪へのアクセスも良いですから、通勤も可能です。
南部 明石海峡大橋の料金が問題ですね。
木下 確かにそれはあります。公共交通に見合う料金が早く実現すればいいんですが…。
南部 シーバスやシータクシーなどを走らせて、大阪湾の流通の有効利用を検討するのもいいでしょう。5年、10年後の未来がはっきり見えてくれば、きっと前に進めます。
―神戸ベイシェラトンホテル&タワーズは、「エッグランド構想」の第一歩のようなものですね。
木下 特に神戸でホテルをと考えていたわけではないのですが、ご縁があり昨年1月に弊社としてはもちろん、業界として、また淡路島としてチャレンジしてみようと決断しました。うれしいことに、全国の旅館業の先輩方から、「頼むぞ! しっかりやってくれと」とメッセージをいただきました。
―旅館とホテルでは、おもてなしの方法は違うものですか。
木下 基本は一緒だと思います。ホテルの機能性に、旅館の和のおもてなしの心が加わるというのが理想です。ベイシェラトンは神戸では関西空港から一番近いホテルですし、六甲アイランドには多くの外国の方が住んでおられます。外国人をおもてなしするにも、和のおもてなしがあってこそ、日本を感じて喜んでいただけるはずです。和のおもてなしと食の魅力をしっかり高めていくことがポイントだと思っています。
南部 私もすごくうれしい。若い木下さんの夢や構想を多くの人が応援しようとしています。木下さんは淡路島に住み、友達もいて、島の良さを一番よくご存知ですから、旗揚げすれば皆がついていくと思います。私もついて行きます。旅館とホテルを融合させるという考えは素晴らしい! 「おもてなし大学院」をつくって淡路島から発信してはどうでしょう? 木下さんが立ち上げてくれれば私も協力して、東京を始め全国に呼び掛けますよ。
木下 ありがとうございます。今後もいろいろな提案やアドバイスをよろしくお願いします。
―パソナグループとしては今後、どのような挑戦を考えていますか。
南部 淡路では、「ここから村」の第二弾を考えています。例えば、芸術に限らずスポーツなどにも広げていきたいですね。ここで成功させたら地方展開ができます。東北からも現在16名受け入れていますが全員頑張っています。彼らに地元へちゃんと戻ってもらえるように、そして地方活性化に興味を持つ人を対象にして人材を育てる地方活性化プロデューサーカレッジを開設して、経済・復興塾にしたいと思っています。
木下 確かに、街づくりのプロフェッショナル育成のための塾は必要です。その仕組みが作れれば素晴らしいですね。
―企画力とアイデアに秀でたお二人の新たな挑戦に期待しています。ありがとうございました。
南部 靖之(なんぶ やすゆき)
株式会社パソナグループ
代表取締役グループ代表
1976年、「家庭の主婦の再就職を応援したい」という思いから、大学卒業の一ヶ月前に起業し、現在のパソナグループを設立。以来、新たな働き方や雇用のあり方を社会に提案し、年齢・性別・経験を問わず、誰もが自由に好きな仕事に挑戦できる雇用インフラの構築を目指している。
木下 学(きのした まなぶ)
(株)ホテルニューアワジ神戸
神戸ベイシェラトン ホテル&タワーズ
代表取締役社長
京都産業大学卒業後、大手ホテルグループ勤務。同社に入社後はウェイター、ベルボーイ、営業などの現場を経験後、33歳で取締役に就任。淡路島の活性に力を注いでいる。甲子園出場経験を持ち、家族そろっての野球ファン。淡路島出身で島をこよなく愛している。