3月号
[海船港(ウミ フネ ミナト)] ザーンダム&にっぽん丸
文・写真 上川庄二郎
【平成の黒船(クルーズ船)がやって来る!】
〝太平の眠りを覚ます上喜撰たった四杯で夜も眠れず〟(上喜撰は蒸気船のシャレ)
幕末に黒船がやって来たのとは訳が違うかもしれないが、考えようによってはそれと同じぐらい驚くべきことなのかもしれない。
あたかも、日本のクルーズ船・にっぽん丸が、一月に台湾一周クルーズを9泊10日で行った。これに対抗してアメリカのホーランドアメリカラインの日本総代理店が日本のクルーズ専門旅行代理店を巻き込んで、ザーンダムという大型客船を投入し、にっぽん丸と比較にならない条件のクルーズを格安で催行すると言うのだから手ごわい。
まずはどんな船か、にっぽん丸と比べてみよう。ザーンダムの大きさ・乗客定員は、いずれもにっぽん丸の約2.7倍。乗員に対する乗客比率もほぼ同じで約2.3倍程度。それなのに、旅行代金は、部屋によって異なるが、にっぽん丸の方がザーンダムの1.1~3.2倍と格段に高く、相対的に部屋は狭い。今後は、こういった格安の外国船が頻繁にやってくるようになるのではなかろうか。
私はザーンダムには乗船したことがないのでこの船がどんな船か知らないが、同じホーランドアメリカンラインのロッテルダムⅥには二度乗船しノルウェー・フィヨルドクルーズに行ったことがある。大変気に入った船だった。クリスタルハーモニー(現飛鳥Ⅱ)で、アラスカ氷河クルーズにも乗船したが、私は、ロッテルダムⅥに軍配を上げる。しかもロッテルダムⅥと比べて、ザーンダムは2000年に就航した船だから、ロッテルダムⅥよりずっと新しく、にっぽん丸の21年と比べても11年とずっと若い。多分船内は、にっぽん丸とは較べようもないぐらいゴージャスだと思われる。
ここまで述べてきたことを、色んな諸元で比較してみたのでご覧いただこう。
もう細かい説明は必要ないと思うが、この価格で日本のクルーズ船は到底太刀打ちできるとは思えない。
【日本船は何故高い?】
それではどうして日本のクルーズ船はこうも高いのだろう。根本的には、日本は高コストの国である。それに加えて、日本の海運行政の規制(カボタージュ)によって国内航路に関しては外国船社の参入を認めないという保護のもとに今日に至っている。
そこに香港、上海を中心とする東アジアでのクルーズ需要が拡大する中、日本市場にも開拓の目を向けてきた。それが今回のザーンダムによる神戸港発着の台湾クルーズである。
【どちらを選択するか】
航空業界でも空の自由化でLCCの参入が目前に迫っている。
クルーズ船のカボタージュ規制を取り払って、LCCのように格安のクルーズ船社に門戸を開き、クルーズ人口の拡大を目指すのか、あくまで国内船社を保護してゆくのか。国内航路に関して厳しい選択を迫られている。
しかし割高な日本船のクルーズ代金が、結果として日本のクルーズ人口を伸ばせなかった原因のひとつであるとすれば、我が国の観光行政のあるべき姿が問い直されている問題でもある。
かみかわ しょうじろう
1935年生まれ。
神戸大学卒。神戸市に入り、消防局長を最後に定年退職。その後、関西学院大学、大阪産業大学非常勤講師を経て、現在、フリーライター。