2019年
9月号
「実はつい先頃まで100kg超の巨漢でした」と佐伯さん。「高校生の娘とどちらが痩せるか張り合って、負けましてね。男の意地で調整を続けた結果、現在75kgです」

神戸鉄人伝 第117回 未生流(庵家)家元・兵庫県いけばな協会会長 佐伯 一甫(さえき いっぽ)さん

カテゴリ:文化・芸術・音楽, 神戸


剪画・文
とみさわかよの

その凛とした花形は、一度見たら忘れられません。あたかも一本の樹木のように見える、未生流(庵家)の格花。そこには代々受け継がれてきた、形にはまった美しさがあります。「昔は女性の9割がお花を習ったものですが、今はそうじゃない。いけばなという文化をいかに後世に伝えるか、大きな課題です」とおっしゃる十代家元・佐伯一甫さんにお話をうかがいました。

―まず、未生流の歴史を教えてください。
未生流の祖・未生斎一甫はいけばなを遊戯ではなく、「挿花を通じ悟りを開く」という精神的に極めて高い境地を目指すものとして体系化しました。直角二等辺三角形の明快な花型には、初代一甫の理論と哲学が込められています。初代は晩年二代を未生斎広甫に譲り、自らは未生庵と名乗りました。初代が没した後未生流は二代・未生斎広甫が継いだ未生流の斎家と、未生流(庵家)とに分かれ現代に至ります。庵家は創流から二百余年の歴史があり、私が十代目です。

―家元に生まれたとはいえ、跡を継ぐのに迷いはありませんでしたか?
幼稚園の頃、既に将来の夢は「いけばなの先生」だったようです。特に就職活動もしませんでしたし、当然継ぐものと思っていました。でも3人の娘には、継げと言っていません。親が子の他の可能性を奪ってはいけませんし、もし継ぐ気になったにしても、いろいろ人生経験を積んでからこの道に入る方がいいのではないかと。

―今年4月からは兵庫県いけばな協会の会長としての任も果たしておられます。
協会はいけばな文化の普及のために、様々な活動を展開しています。大丸神戸店での「いけばな神戸展」を始め県下でいけばな展を行ない、伝統的な挿花だけでなく様々な芸術ジャンルとのコラボなど、新たな方向も模索してきました。ぜひ展示会場で本物のいけばなに触れて、その魅力を感じていただきたいです。

―確かに、大きな会場に活けられた花の迫力には驚かされます。
いけばなってこんなこともできるのか、と思っていただければ嬉しいです。われわれ華道家は絶えず研鑽を積み、いけばなを発展させるべく努力しなくてはなりません。会派を超えた交流は、お互いに刺激があって勉強になります。実はこの度、様々な流派の志を同じくする華道家8名で、「八仙花」というグループを結成しました。9月21日に生田神社献華祭が開催されるのですが、21日と22日の協賛花展がグループ初の花展になります。

―新たなチャレンジですね。
こんなふうに若手が自分の意思で活動できるのは、いけばな界のよいところです。古典芸能や伝統文化は、ともすれば年配者が若手の意見を押さえてしまいがちですが、ある程度の自由はあった方がいいと思います。若手が新しい発想を持っても、それは過去を否定しているのではないのですから。

―いけばなとは何だとお考えですか。
私は、いけばなは「芸術」ではないと考えています。だから自分をアーティストとは思わない。いけばなは伝えていくもので、華道家は伝道師です。時代に合わせて変えていく能力も必要ですが、基本的には昔からあるものを伝えるのが役目。ただ伝えるための方法や組織運営などは、変わっていかざるを得ないと思います。

―いけばなを次世代に伝えるためには、何が必要でしょう。
まず、今いけばなをしている人たちが「いけばなっていいね!」と思うことです。私は子どもの指導もしていますが、お稽古が終わった時「楽しかった」と感じて欲しい。私も含め華道家が、いけばなは楽しいものだという原点を忘れないで活動することが、何より大事だと思います。

(2019年7月4日取材)

いけばなの普及に心を砕きながらも、朗らかな佐伯さんでした。

「実はつい先頃まで100kg超の巨漢でした」と佐伯さん。「高校生の娘とどちらが痩せるか張り合って、負けましてね。男の意地で調整を続けた結果、現在75kgです」

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • 電気で駆けぬける、クーペ・スタイルのSUW|Kobe BMW
  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE
〈2019年9月号〉
神戸のお嬢さん HOTEL KITANO CLUB 郷 真由美さん
神戸大人スタイル 栗原 佑典さん
Vin Vino|神戸の粋な店
My Vitamin Lunch ● 私のビタミンランチ ●|黒十 神戸本店
カワムラの"神戸ビーフ"への思い Vol. 01
兵庫県のANDO建築探訪 ⑨ 【番外編】ベネッセハウス ミュージアム 香川県直島…
パンヲカタル 浅香さんと歩く | パンさんぽ | Vol.13 Boulange…
パンヲカタル 浅香さんと歩く | パンさんぽ | Vol.12 ベーカリー バカ…
私の 神戸未来図 「安穏と待っていても、まちに人は集まらない」
国と国の思いをかけた、肉体のぶつかり合い! をぜひ会場で!
ホテルオークラ神戸開業30周年インタビュー|「親切と和」の心をもって ホテルオー…
名湯を愉しむラグジュアリーな空間 有馬グランドホテル「別墅 結楽」オープン!
輝く女性Ⅲ Vol.3マダム・チェリーこと、福安 千恵子さん
次世代を担う若手経営者が集う勉強会 コウベ フード カンパニー
㊎柴田音吉洋服店|ハンドメイド お誂え紳士服[KOBECCO Selection…
らくだ洋靴店 三宮本店|セミオーダーパンプス[KOBECCO Selection…
GLASS HOUSE by北野クラブ ソラ|パーティイベント[KOBECCO …
北野ガーデン|フレンチレストラン[KOBECCO Selection]
Fine Second-ファインセカンド 神戸本店|ゴルフウエア・雑貨[KOBE…
トアロードデリカテッセン|デリカ[KOBECCO Selection]
STUDIO KIICHI|革小物[KOBECCO Selection]
ゴンチャロフ製菓|洋菓子[KOBECCO Selection]
ボックサン|神戸洋藝菓子[KOBECCO Selection]
ALEX|トータルビューティーサロン[KOBECCO Selection]
Hair&Face Elizabeth|ヘアサロン[KOBECCO S…
御菓子司 常盤堂|和菓子[KOBECCO Selection]
ブティック セリザワ|婦人服[KOBECCO Selection]
ガゼボ|インテリアショップ[KOBECCO Selection]
マイスター大学堂|メガネ[KOBECCO Selection]
マキシン|帽子専門店[KOBECCO Selection]
フラウコウベ |ジュエリー&アクセサリー[KOBECCO Select…
神戸御影メゾンデコール|オートクチュールインテリア[KOBECCO Select…
永田良介商店|オーダーメイド家具[KOBECCO Selection]
北野クラブ|フレンチレストラン[KOBECCO Selection]
ウエディングサロンイノウエ|ウエディングドレスショップ[KOBECCO Sele…
ノースウッズに魅せられて Vol.02
ラグビーワールドカップ2019 神戸での試合
アフターマッチファンクションは〝神戸の食〟でおもてなし
神戸6ホテル グランシェフ チャリティーランチ 2019.9.1 Sun. 〜 …
みんなでTOGETHER!! Bar&Bistro 63
神戸の地元野菜×神戸の灘の酒! 黒十スタンドで神戸に浸る
神戸新開地・喜楽館 番外編|出演者はこうして決まる!
120年以上の伝統を誇る料理学校「ル・コルドン・ブルー」 神戸校開校15周年を祝…
兵庫区民の心を明るく照らす「みなとがわホール」緞帳が完成! 株式会社神戸マツダが…
縁の下の力持ち 第15回 神戸大学医学部附属病院 国際診療部
神戸のカクシボタン 第六十九回 まったりとした空間で自分だけの贅沢な時間
LAND ROVER Presents|ラグビーワールドカップ2019日本大会開…
田辺眞人先生が放送文化基金賞を受賞!
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第九十九回
harmony(はーもにぃ) Vol.19 田辺聖子さんのこと
神戸鉄人伝 第117回 未生流(庵家)家元・兵庫県いけばな協会会長 佐伯 一甫(…
連載エッセイ/喫茶店の書斎から㊵ ドリアン助川さん