9月号
ホテルオークラ神戸開業30周年インタビュー|「親切と和」の心をもって ホテルオークラのおもてなしを
「親切と和」の心をもってホテルオークラのおもてなしを
今年、開業30周年を迎えたホテルオークラ神戸。レストランや宴会場の大幅リニューアルによりハード面の競争力を高めるとともに、日々の運営に現場スタッフの気付きや意見を幅広く取り入れ、ホテルオークラとしてのおもてなしの充実を図る。
現場スタッフの意見を積極的に取り入れる
―開業30周年ということで、館内のリニューアルが相次いでいますね。
まず、3階 宴会場「有明」は、大きな窓から日本庭園と神戸港の景色をご覧いただきながら、様々なシーンに利用できる機能性の充実した会場に生まれ変わりました。朝食は勿論、週末はランチブッフェ、夏の現在は夜、ビアホールを開催して、お客様からも大変好評をいただいております。35階フレンチの「レストラン エメラルド」は、表装の更新に加えて、お顔合わせやお子様連れの皆様にご利用いただける完全な個室を新たに設けました。
そして、30周年事業の目玉として、「鉄板焼 さざんか」を1階から最上階35階、神戸港を臨む、眺望抜群の海側スペースに移転して、8月より営業を開始しました。ホテルオークラ神戸は、高層階からの眺望と日本庭園が財産であり、これらをできるだけ活かす観点で、施設の改修や開発を進めてきました。現在は、日本庭園に続く1階宴会場を、特にブライダルの披露宴会場としての用途も意識しながら、リニューアルを進めています。一連のリニューアルは、すべて現場や営業のスタッフの意見や改善提案を起点に検討を開始し、実現に結び付けています。
―現場の方の意見を取り入れたリニューアルですか?
現場スタッフや協力会社の方々とは、よく話をするようにしています。私自身は、大学時代のホテルでの清掃や配膳のアルバイトが、この業界に入るきっかけでした。バイト時代はだいぶ理不尽で嫌な思いもしましたが、一方でホテルの商品を作っているのは、部屋のベッドメイキングをするメイドさんをはじめ、第一線の現場で働いている方たちだということも学べました。そうしたスタッフと、休憩室などでお茶を飲んでフラットに話を聞くと、お客様の満足に繋がるヒント、考えるきっかけをもらえます。聞いていなければ、全く気付かなかった類のことは、山ほどあります。ちなみに、着任してすぐ“社長室のカベ”を抜いて、大部屋の中央に席を移しました。社員は少し嫌かもしれませんが、社内で何が起きているか、社員が何を話しているかを感じ取るようにしています。
リニューアルに関しては、30年も経てば建物各所で経年の傷みは当然あり、営業施設以上に従業員スペースも暗かったり備品も古くなったりしていましたから、この2年間は断続的に手を入れてきました。人間は、周囲の環境が変わると、気分も変わるものです。ロッカーやトイレをきれいにすることを手始めに、レストランや宴会場の改装という実感の沸きやすいリニューアルから仕掛けて、従業員に変化のメッセージを伝えてきました。もう一回若返る、新陳代謝を進める、という意味合いです。
眺望や庭園は勿論ですが、ホテルオークラ神戸が持っている“強み”は、素晴らしいものがあります。先日、開業30周年にあたって、社員の勤続表彰を行ったのですが、約300人いる社員の中で、開業当時から、つまり30年以上勤めている社員が一割以上いたのです。なかなか珍しいことだと思います。ホテルオークラ神戸に対する愛着やプライドを持っている多くの社員がいること、そして、オークラという名前、ブランドに対する期待をお持ちくださっているお客様も多数いらっしゃること、そうしたことを強み、財産にさせていただきながら、新しく変わらなければならないと思います。
―まずは内面から変わるということなのですね。
ホテルオークラのグループホテルは各地にありますが、オークラとしての雰囲気を内装も外装も含めて色濃く残しているのは、国内で唯一、ホテルオークラ神戸だけです。ホテルオークラ東京は新たに建て替えられましたし、他のホテルはオーナーチェンジでグループに加わるなど経緯は様々です。ホテルオークラ自身がゼロから建てたのは、国内では今やホテルオークラ神戸だけです。ロビーは、ホテルオークラ東京のロビーを手がけた谷口吉郎氏が総合監修をされており、お客様からも度々言われますが、東京とよく似た趣を保っています。そのことに誇りを持ちながら、新たに変わっていこう、と社員には話しています。
―ホテルオークラ神戸の強みとは。
我々ホテルオークラは創業以来、「親切と和」という経営理念を持っています。この言葉の持つ意味合いを、着任してから2年間、スタッフに語りかけてきました。この理念に基づけば、自ずと働く姿勢が決まり、日々の振る舞いが決まり、お客様への対応が決まってくる。判断基準になる、立ち戻ることのできる経営理念を持っていることが、一番の強みでしょうか。
神戸観光の方向性
―大倉財閥創業者・大倉喜八郎など神戸との関わりも深いホテルオークラですが、30年前、神戸の地に開業した経緯は。
ホテルオークラ東京の開業が1962年。その25周年記念事業として、神戸にホテルを開発するプロジェクトがスタートしました。当時は、神戸空港が国際空港として開港する計画もあり、将来的にその集客も見込んでの進出だったと思います。開業後しばらくは順調でしたが、震災やバブル崩壊、リーマンショックと、さまざまな転換点を経て、現在に至っています。
私が2年前まで東京にいたときは、関西ではインバウンドのお客様が大変多く来られていると聞いていたのですが、神戸はそうでもなく、当ホテルではインバウンドは宿泊客の人数ベースで2割を超える程度。京都、大阪とはだいぶ違うのだなと、意外に思いました。
―観光地としての神戸の課題についてどのようにお考えでしょうか。
神戸は住みやすい街かもしれませんが、観光地としてどうかと感じる部分は多いですね。長い歴史のある歴史的建造物も少ないですし、滞在する理由が少ないと感じられてしまう面があるのは否めません。海や山もきちんと観光資源化されているとはいえないと思います。もっと積極的に、はっとするような手を入れてもいいかもしれません。例えば、六甲山から海までロープウェーを伸ばすとか(笑)。
神戸は、関西圏の他の観光地のように、単価の安いインバウンドを追いかけるような観光政策をとるのはどうなのかなとも思います。逆に神戸の良さがなくなって、日本人すら来なくなってしまう。医療ツーリズムの話も人間ドッグだけではなく、六甲のゴルフを組み込んだり、有名な海外スパブランドを誘致して、単価の高いお客様がより長く滞在いただける理由を作っていくなど、量を求めるのとはもう少し違う方向性も必要かと思います。
―メリケンパークなどウォーターフロントの整備も進みますね。
ウォーターフロントは、私が神戸に来てからもだいぶ整備され、人出も増えてきました。もっと大きな変化は、大阪にIR(統合型リゾート)が来れば期待できると思います。高速フェリーが夢洲からハーバーランドの目の前に着くといったような流れがもしできれば、かなり変わって来るでしょう。神戸空港はあの大きさですから、富裕層のプライベートジェットの発着にはちょうどいいですけど。過去の経緯から、なかなか難しいのでしょうが。
今後は、同じくウォーターフロントにある神戸ポートピアホテルさん、神戸メリケンパークオリエンタルホテルさんなどとともに、神戸のブランドをさらに向上させて、お客様に繰り返し滞在いただけるようなエリアになるよう、努力していきたいと考えています。
―ホテルオークラ神戸のさらなるサービスの向上、神戸への貢献に期待しています。本日はありがとうございました。
石垣 聡(いしがき あきら)
1967年生まれ。1991年東京大学経済学部卒業。1991年株式会社ホテルオークラ入社。2012年株式会社ホテルオークラ東京常務取締役。2012年株式会社ホテルオークラ上席執行役員。2017年株式会社ホテルオークラ神戸代表取締役社長総支配人。2018年株式会社ホテルオークラ取締役常務執行役員