2019年
9月号
9月号
兵庫県のANDO建築探訪 ⑨ 【番外編】
ベネッセハウス ミュージアム 香川県直島町 1992年完成
瀬戸内国際芸術祭の秋の部が始まります。神戸から参加するなら是非、神戸港から船で、会場となる瀬戸内海の島々を訪ねてみてほしいです。各地で芸術祭が行われていますが、経済効果を含めた“地域への貢献度”の点で、瀬戸内は群を抜いています。成功の要因はやはり、市民サポーターの仕組みなど「地域に根差した、地域の人々が主役のイベント」という、コンセプトの徹底にあるのでしょう。
総合プロデューサーの福武總一郎さんは、30年前に始まった直島の一連のプロジェクトのクライアントです。最初に『ベネッセハウス ミュージアム』の設計依頼を受けた時は驚きました。アクセスの悪い離島で、当時は海も島も、まだ荒れていましたから。不安はありましたが、「今一度直島を輝かせたい」という福武さんの情熱に打たれ、覚悟を決めました。
以来、今日まで、島内に7つの建築をつくっています。この間、福武さんは「ここにしかない空間とアート」をテーマに、試行錯誤を重ねながら、一歩一歩着実に歩を進めてこられました。そうしていつしか、過疎に苦しんでいた離島は、世界に知れた“アートの聖地”と呼ばれるに至り、ハゲ山の自然も豊かな緑を取り戻しました。観光客の増加に伴い、人口も増えています。そして島の人々が地域への誇りを取り戻した、その延長上に、芸術祭の成功があります。
1980年代、今以上に“便利”がよしとされていた時代に「本当の豊かさとは何か」を“不便”な美術館で問い、その希望の種を30年かけて根付かせた福武さん。その創造精神は尽きることなく、今また二つのプロジェクトが進行中です。
by 閑野欣次
■ベネッセハウス ミュージアム
香川県香川郡直島町琴弾地