6月号
里親ケースワーカーの 〝ちょっといい お話〟
S青年は18歳で就職はできたものの、一人で自立して生活をするのは難しいと思われていました。というのも彼は中学生頃に施設に入所するまで家庭にはいたものの、親から放任され、家庭生活や社会生活の経験が大変不足していたのです。入所後はまず医療的ケアを受け、その後職を探すのもとても大変だったという経緯もありました。
そうは言っても18歳以上になると児童養護施設を出ることになっていましたから、一年間を目標に、彼とともに生活をしてくださる里親さんを探すことになりました。家事の訓練やお金のやりくりなど、一人暮らしをする上で必要な学びの場が、彼にはなかったからです。
結果、76歳の老婦人・Tさんが、ボランティアで里親を引き受けてくださることになりました。18歳の青年を、76歳の里親に…今から考えると私もよくお願いしたな、と思いますが(笑)、Tさんはかつて乳児を預かる託児の仕事をしており、人のために役立つ喜びを知っておられ、成長する子どものためにできることをしたいという思いで当協会に来られていましたから、適任だと思ったのです。
S青年は、Tさんと暮らし始めてからは自分で料理をするようにもなりました。朝しかけた電気炊飯器で、夕方家に帰ってくると温かいご飯が炊けている…そんなことにも喜びを感じ始めた彼は、そのうちに「一人で暮らしてみたい」と言うようになり、目標の一年後、一人暮らしをするようになりました。
私はたまに駅などでS青年を見かけることがあります。もう35~6歳になっているのでしょうか、成長した彼は、自信がついた表情をしており、しっかり生活をしているようだと嬉しく感じます。そんな彼に会うたびに「人間は、少しの出会いで変わるのだ。少しの間手助けしてもらうだけで、その子の人生は落ち着いて暮らせるようになるのだ」と感慨深くなります。Tさんは「生活の知恵」を教えてくれたのでしょう。「きれいにしなさい」と言うのではなく「きれいにするにはどうすれば良いか」、そういったことは、一緒に暮らし、実際に生活して教えてもらわなければ、なかなか身に付かないものなのです。たとえ短期間でも里親と一緒に生活する経験は、子どもたちが自分の生活を切りひらいていく力を身につけさせてくれます。
「愛の手運動」50周年社団法人 家庭養護促進協会
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