2012年
6月号
1分間で詰められるビールは約2千缶!(工場内展示より

神戸のビール工場「キリンビアパーク神戸」 おいしさを笑顔に

カテゴリ:日本酒・洋酒・ワイン, 神戸

神戸市北区の豊かな自然と共存しながら、日々、美味しいビールを製造しているキリンビール神戸工場。見学施設「キリンビアパーク神戸」も人気スポットだ。「地域に根ざした工場」を目指すという箕浦工場長にお話しいただいた。

地域環境と共生するさまざまな取り組み

―キリンビアパーク神戸では、ビール製造のどの課程を見学することができるのですか。
箕浦 原料の麦芽を釜に入れ糖化し、ホップを入れ酵母を添加して発酵させる醸造工程を見ていただけますが、当然、釜やタンクの中は見えませんので、それは映像を用意しています。肉眼で見ていただけるのは瓶詰や缶詰のパッケージングラインです。1分間に2千缶というスピードでパッケージしていく様子には躍動感があり、見学者は皆さん、「あんなにたくさんのビールを一体、誰が飲むんだ?!」と驚かれているようです(笑)。
―キリンビールは環境への取り組みを進めていますが、そのひとつに、「地域環境との共生」があります。工場内のビオトープは良く知られていますが、他にどのような取り組みがありますか。
箕浦 神戸工場はCO2排出量及び水の使用量が大変少ない工場です。直接ビールには触れない場所で、設備の冷却水などを再利用するシステムを当初から取り入れています。また、排水処理に伴って発生するメタンガスを発電に利用し、同時に発生する熱も利用してCO2削減に役立てています。
―水源の森づくり、三田の「観福の森」も取り組みのひとつですか。
箕浦 神戸工場では主に千苅水源池の水を使っています。その上流付近に位置するのが「観福の森」です。森林の保全を目的に植樹をして、下草を刈り、間伐し…と長いスパンで取り組み、ひいてはビールづくりに大切な水を育む森づくりをしようというものです。キリングループあげての取り組みで、社員は皆、年に一度は参加しています。目に見える成果がすぐに上がるものではありませんが、社員一人ひとりが意識を高める効果は上がっていると思います。
―環境にやさしいパッケージにもこだわってると聞きましたが。
箕浦 缶でいえば、ふたの径を小さくしてアルミの使用量を減らしています。瓶では、ガラスを薄くして外にセラミックコーティングを施すことで強度を持たせ、軽くしています。ガラスの使用量が減るだけでなく、トラックの積載量が増え、トラックが排出するCO2を削減できます。段ボール箱も四隅の角を落とすことで持ちやすくするだけでなく、強度を持たせて薄くして軽量化しています。これにより、資源の削減だけでなく、パレットあたりの積載量を増やすことが出来、輸送時のCO2排出量を削減できました。

最後は醸造担当者の「舌」で品質をチェック

―醸造担当者の官能訓練(味覚・触覚など人間の感覚によって食品をチェックする「官能評価」のための訓練)は品質と美味しさ保持のためですか。
箕浦 もちろん全ての工程において化学分析値を見ますが、それだけでは不十分です。まず、麦汁が各ブランドの味に出来上がっているかを試飲します。発酵の段階でも、ちゃんとできているかを最終的に人間の舌で確認します。濾過の段階でも確認し、最後の缶詰めや瓶詰めになった段階でも時間帯ごとに試飲します。
―人間のチェックはやはり必要なのですね。
箕浦 原料や酵母の個性も毎回違ってありますし、基本的に嗜好品ですから化学分析値では判断しきれない部分があります。また、工程に問題ないことを確認するネガティブチェックは必要です。ラガー、一番搾り、麒麟淡麗〈生〉、のどごし〈生〉等々、それぞれの味がコンセプト通りにできていることをチエックするには、どんな分析値も人間の感覚にはかなわないものです。
―味を左右するホップですが、決まった国から輸入しているのですか。
箕浦 ドイツ、チェコ、アメリカ、ニュージーランドなど、ブランドの基準に合わせて使い分けています。種類だけでなく、製造過程での方法も使い分けています。大麦、ホップともに年によって、また場所によって作柄が違いますから、いかに均一な味にしていくかが難しいところです。ビールの場合は、ワインのように「今年は出来の良い年」など言えませんからね。
―かなり大規模な神戸工場ですが、製造するビールの供給地域は広いのですか。
箕浦 西には岡山工場、東には滋賀工場がありますから、その間が供給エリアです。滋賀県と京都府の一部を除く、近畿圏全域をほぼカバーしています。
―箕浦さんはオーストラリアのキリンで社長の経験をお持ちだそうですがその経験は今、工場長として役立っていますか。
箕浦 ビールの生産量に麦芽の生産が追い付かない時代、オーストラリアの大麦から麦芽を作り、日本のキリンビール向けに輸出するという使命を持って設立された会社でした。大きな会社ではなかったのですが、経営を預かり自分で隅々まで全てをマネジメントするという経験は、工場を運営していく上で役立っていると思います。

神戸で作られる“おらがビール”の存在に

―これからの神戸工場についてはいかがでしょうか。
箕浦 この場所で、この製造設備を構えてビール製造ができるというのは地域の皆さんのご理解とご協力の賜物です。更に、地域に根ざした工場にしていきたいと思っています。残念なことに、神戸にキリンビールの工場があることをご存じでない方も多くいらっしゃいます。より多くの皆さんに知って頂き、〝おらがビール〟にできればうれしいですね。また、この工場を見ていただくことで、お客さまのキリンビールへの安心・安全にもつながればうれしいですね。
 今後も〝ものづくり〟の会社という基本を忘れずに技術に磨きをかけ、「美味しいね」と言っていただけるビールをつくり、国際的にも認められるキリンビールにしていきます。そして、そのキリンビールをリードする神戸工場を目指していきたいと思っています。
―既にリードしていると思いますが…。
箕浦 まだまだ。これからも走り続けなくては!我々のライバルは世界にいますからね。
―それは心強いですね。〝神戸から世界へ〟美味しいビールをお願いします。
インタビュー 本誌・森岡一孝

1分間で詰められるビールは約2千缶!(工場内展示より


四角を落とし、強度を持たせて軽量化された段ボール箱


ビール仕込み釜


ビールに華やかな香りをもたらすホップ


ビールの主原料のひとつ・麦芽


工場までの送迎バスはユニークな缶型バス


箕浦 直哉(みのうら なおや)さん

キリンビール株式会社
執行役員 神戸工場長 
1978年キリンビール株式会社入社後、キリンオーストラリア社長、パッケージング研究所所長、福岡工場長を経て2010年より神戸工場長に。
休日はもっぱら六甲山へ山登りを楽しむ。『キリン一番搾り』で乾杯するのが最高の楽しみ。

キリンビール神戸工場

※工場見学は事前予約制、無料です
TEL.078-986-8001(9:00~16:30)月曜休
神戸市北区赤松台2-1-1
http://www.kirin.co.jp/beerpark-kobe

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

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  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE
〈2012年6月号〉
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