12月号
最高級のアンティーク家具に新たな息吹を吹き込む
ベール・ド・フージェール代表 下野 昇 さん
ザ・クイーンズ・フィニッシングスクール校長 佐藤 よし子 さん
英国文化、中でも様式美に精通する佐藤よし子さんが、その質の高さを「最高レベル、日本で唯一の店」と絶賛する「ベール・ド・フージェール」は、神戸で30年以上にわたりヨーロッパのアンティークを扱い、本物を求める人たちを魅了してきた。
家具に特化したアンティークの店
―下野さんはいつ頃からアンティークを扱う仕事に携わっておられるのですか。
下野 30有余年、この仕事に携わっています。当初は、家具はもちろんジュエリー、ガラス器、陶磁器、ブロンズなどアンティーク全般を扱っていました。家具以外の小さなものは、インターネットの普及で将来誰でも簡単に手に入る時代が来ると予想し、また、国内をはじめ海外のオークション会社から落札することも可能になると判断し、家具に特化して扱うようになりました。
―どんな家具に特化したのですか。
下野 当初は1年に6度ほど渡英し、ハイレベルな家具を一部扱っておりましたが、大半は1900年代初期の普段使いができるオーク材の家具を中心に、地方の倉庫やオークションで買い付けていました。これが日本でもブームになりました。通関を終え商品が店に到着すればすぐに完売しました。ところが次第に「この仕入スタイルを続けていて良いのか?」と疑問に思い、日本にはまだ紹介されていない、現地でも見つけることが難しい価値のあるハイレベルな商品のみを扱うことが本筋ではないかと考え、商売的には厳しいことですが、あえてこの道を選択しました。そうすることが、日本において本当のアンティーク家具の素晴らしさをお客様に知って頂く道だと確信したからです。
―価値のあるものを探すのは至難の業だったのでしょうね。
下野 短期間の買い付けでは納得のいく家具にはなかなか出逢えません。そこで、それまで培った現地との信頼関係で、日々商品を探し求め、現地に工房を設け、最高レベルの技術で修復することを試みました。この仕組みを確立するのには数年がかかりました。今では現地スタッフも育ち、スムーズに仕事が進むようになりました。
一歩入ると、英国オークション会場のような空間
―初めて来店された時、どのような印象をもたれましたか。
佐藤 英国のオークション会場に来たような印象でした。中には有名工房の物も沢山あって、これほどのレベルの家具が揃うことは、英国でもなかなかないでしょうね。
―主にどの時代の家具、調度品なのでしょうか。
佐藤 1800年代初期から1900年前後の商品ですね。ヴィクトリア朝時代はリバイバルが多く、ここへ来れば英国のドラマや映画で見るような家具に、出逢えるので、とても感激しました。
―英国ではこんなに貴重な家具が出てくるのですね。
佐藤 下野さんのお眼鏡にかなう最高レベルの家具はそうそう簡単には出てきませんよ。特別なルートをお持ちだからこそできることです。
―とても貴重な家具なのですね。
下野 もちろんそうです。私が今扱っている家具は希少価値の高く状態が良い物に限ります。毎日、毎日、現地スタッフが商品を見つけては画像を送ってきます。良い商品はすぐに世界各国の業者やコレクターが買ってしまうので、即座に買い求めるかどうかの返事をしなくてはいけません。時差の関係で夜も眠れない日も多いです。当然100年以上前の商品を探すわけですから、その中でも納得できるものはごくわずかです。
―現地の修復職人の技も希少ですね。
下野 彫刻や象嵌細工はもちろんのこと、飾り金具や飾りに使われている陶板などの修復を行う為に私の修復工房では、古い修理材を揃え、傷んだ箇所を丁寧に修復しております。これが出来るのは高い技術を有する職人だけです。価値を下げず、オリジナル性を損なわない修復法を見極め指示することが出来るのは、アンティーク商品全般を扱ってきた私の今までの経験が生きていると思っています。
じっくり選んで様式美を完成させ、大切に使い続ける
―佐藤さんはNHKの「美の壺」や「趣味悠々」などの番組にも出演されていますが、何故、このお店へ?
佐藤 私はテーブルセッティングをはじめ、ヨーロッパ、特に英国の様式美について、多くの本を書きました。〝様式オタク〟と呼ばれているかもしれません(笑)。そんな私が10年ほど前に初めて訪れた際に「ここだ!」と思って以来、折に触れ足を運んでは、歴史談義に花を咲かせてきました。フィニッシングスクールの生徒たちと一緒にお邪魔して、本物を拝見し説明を聞きながら勉強する機会もいただいています。
―〝様式美〟ですか?
佐藤 家具や調度品はそれぞれ様式が違います。様式の合わないものをコーディネートしてしまうと雰囲気が台無しです。ここでは家具と調度品の様式を合わせられるように、しかもすべて最高の状態で置いておられます。全国でも最高レベルのお店だと思いますが、謙虚に静かに本物を置いていらっしゃるのがすごいなと思いますね。
―フィニッシングスクールとはどのような場所でしょうか?1988年に日本初のスクールを開校した理由は。
佐藤 フィニッシュ、つまり自分磨きの最終仕上げのための学びの場のことです。イギリスでフィニッシングスクールの講師になるための学校を卒業し、通訳の仕事でヨーロッパを飛び回っていた頃、たまたまある雑誌で神戸を紹介したところ、編集長から連載の依頼を受けました。執筆活動も2年半が過ぎた頃、周囲の見識者の方々より「学校を開いてみては?」と助言を頂き、押し上げて頂くように「ザ・クイーンズ・フィニッシングスクール」を設立することになりました。自宅で開校し、少人数制のクラスをずっと貫いています。お陰さまで日本全国より生徒が通う学校へと成長しました。
―英国文化から学ぶことは。
佐藤 ものを大切にする心です。高価なものは贅沢だと思われがちですが、英国では古い家具を磨き、修理してずっと使い続けます。これはきっと神戸の人たちの心にもあると思います。よく考えて、様式を合わせて購入し、大切に使いましょうと生徒にも教えています。
質の高いアンティーク家具を求めるお客様がいる限りは…
―30年以上続けてこられた理由はどこにあるのでしょうか。
下野 私が納得しない商品は一切買い付けず、アンティーク風や、日本ではブームの〝ただ古めかしいだけ〟の物は扱いません。全国各地からお客様がご来店された際に必ず頂く、「これほど質の良い本物のアンティーク家具のみで商売をされている店は今まで見たことがない。」というお褒めの言葉が励みになっております。このようにハイレベルなものだけを扱っているお陰で、目の肥えたお客様にお越しいただき、私が選んだ道に間違いはなかったと思っています。また全国にたくさんあるアンティーク家具を扱う会社の人たちも、私が輸入する家具に注目してくださることにアンティークディーラーとして誇りを感じています。
―今後の展開について。
下野 オーナー自らが知識を持って自分の目で選び、自らが販売するという姿勢を崩してはいけないと思っていますので限界があります。支店を設けたり、事業を拡大するようなことは一切考えていません。
―ずっと神戸でということですね。
下野 そうです。始めた当時から比べても、良い品を見つけることが非常に難しくなっていますが、私が選ぶ商品を待っていただいている方がいらっしゃる限りは、仕入れ網を英国全土に広げ、より素晴らしい商品を買い付ける為に努力致します。今モダン建築も多くなりましたが、その中に一点、二点、輝くアンティーク家具とモダンを融合させることで、昔の人にはできなかった至福の時を味わう事も出来ると思います。当店まで足をお運び頂き、ぜひ質の高さをご自身の目で確かめ、じっくりと時間をかけて選んでいただきたいと思います。
佐藤 本物を見る目を持った私のお友達にも「ここはまるで美術館!さすが神戸!」と言っていただき、とても誇りに思っています。まだまだ私も勉強中ですが、様式美の知識を生かし、ぜひお手伝いさせていただきたいと思っています。
―知る人ぞ知る神戸の誇りですね。私たちも静かに応援させていただきます。
下野 昇(しもの のぼる)
SHIMOSYO LTD.代表取締役
佐藤 よし子(さとう よしこ)
神戸生まれ。父が宝石商をしていた関係で、子供の頃から外国人との交流が多く、高校卒業後英国に留学。語学学校「LTCレディースカレッジ」、フィニッシングスクール講師を養成する専門学校「ザ・イーストボーン・カレッジ・オヴ・ドメスティック・サイエンス・エコノミー」などで学ぶ。1988年に日本初の英国式フィニッシングスクール『ザ・クイーンズ・フィニッシングスクール』を開校
ベール・ド・フージェール異人館通店
神戸市中央区山本通2-8-12
TEL. 078-261-9193
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