11月号

ウガンダにゴリラを訪ねて Vol.13
【Gorilla Tracking】最終回
文・中村 しのぶ
なかむらクリニック(小児科)
車が無いので学校に行けていないのではないかと書きました。現実に、道中通り過ぎた村には車を持っていそうな家は数軒のようでした。また日本製の中型トラックが多く、横や後ろに○○商会や○○園と書かれたまま農作物山盛りの上に何人かの人が座って走るのをよく見かけました。乗合タクシーを生業としている人もあり、一度車を買うとお金を産んでくれるようですが、ガソリンはほぼ輸入に頼っており、日本と同じくらいの価格で家族で使うためだけの車を持つには無理があります。最近国内で石油が見つかったので、ガソリンも値が下がるかもしれません。
車や学校が過渡期的に徐々に浸透していることを感じさせる状況なのに比べ、爆発的普及率に驚いたのは携帯電話です。以前にテレビでほとんど裸のアフリカ原住民がスーパーで服を着た人に混ざって買い物カートを押しながら携帯電話で話しているのを見たことがありました。ウガンダでは裸の大人には出会いませんでしたが兎に角、だれもが携帯を持っていることに驚きました。電気もないのに――。充電は5~10キロ離れた町まで歩くか車のバッテリーのような充電機を用いるそうです。人口に対する普及率は47%、人口の半数が15歳未満ですから大人のほぼ全員が持っていることになります。携帯電話でモバイル送金、悪天候で農作物が不作だった時の少額保険契約、銀行からの少額借り入れができ、SMSで天候、農業技術、農産物の適正価格も分かり、これまで近くの親戚、仲買人による情報に頼っていた農産物流通システムを塗り替えました。健康に関する情報や農村の求人情報も得られます。ただ識字率は60〜70%で字を読めない人の不利益は大きくなってしまいました。比べて固定電話の普及率はたった0.3%(2008年)です。ケニヤのマサイ族は狩猟民族でライオンと戦うことで有名です。家族の安全のため離れ離れになることを嫌っていましたが、ライオンが来れば携帯で皆が集結し戦うことができるようになり、また離れていても毎日電話で話せるので父親が町に働きに出ることが増えたそうです。そうやって得た給金はモバイル送金で村の銀行ですぐ引き出せるとのことです。
SMSの健康に関する情報は家庭の医学的な使い方をされていると思われますが、こんなサインがあれば病院に行きましょうと記されているのでしょうか?
国全体で医師と歯科医師合わせて3000人しかおらず、公営のいくつかの病院は無料のようですが実際アクセス法がなく、村にある小さな診療所や病院さえ、交通機関も無く何時間も歩いて行ける人のみが通院できます。それに加え村の病院で働く医師の話では、国外からの寄付や薬品の分配は賄賂で動くことが多く、実際庶民が恩恵にあずかれないことが多いとのことです。健康保険も無く、医療費を払っても助からない病気も多く、医療も自給自足の体をなしています。働けなくなった人は家族親戚が支え食べさせてくれるようです。病気になれば呪術に頼ることも多く、今でも子どもを生贄にする風習も残っており法整備の動きもあるということでした。
自然とともに生まれ、自然のまま死んでいく。頑張らない、こんなことではだめだと叱責もせず淡々と人生を受け入れる。ほとんど哲学と言ってもよい自然の摂理。これから国外の情報や医療が入って来て社会の標準が惑い揺れ、かえって民が不幸になりませんように。
野生の王国で見た世界をのぞきたいとの思いで始まった旅で、動物たちは期待を大きく超えた感動を与えてくれました。星野道夫が書いています。きっと人間にはふたつの大切な自然がある。日々の暮らしの中でかかわる身近な自然、それは何でもない川や小さな森であったり、風が撫でてゆく路傍の草の輝きかもしれない。そしてもう一つは、訪れることのない遠い自然である。ただそこに在るという意識を持てるだけで、私たちに想像力という豊かさを与えてくれる。そんな遠い自然の大切さがきっとあるように思う。
無知な私は今回アフリカで文化、歴史、他、たくさんの事実を知りそれはとても衝撃的でした。今もゴリラの余熱に浸り彼らの写真を眺める毎日ですがウガンダ、アフリカ、そして世界の助けが要る人や自然、環境のために私に何ができるか、それは考えていたよりずっとずっと難しい宿題を課せられた旅でありました。(完)
・外務相在外公館医務官情報 ウガンダ
・Wikipedia ウガンダ
・The World Fact Book CIA
・農林水産省委話 人口問題が農業、農村環境に与える影響に関する基礎調査
H20年3月 財団法人アジア人の開発協会(ADDA)
・『携帯電話がアフリカの農家の市場参加に与える影響』武藤めぐみ JICA
・『アフリカ 資本主義最後のフロンティア』NHKスペシャル取材班 新潮新書
・『ゴリラとピグミーの森』伊谷純一郎 岩波新書
・『15歳の寺子屋 ゴリラは語る』山極寿一 講談社
・『ゴリラ』山極寿一 東京大学出版社
・『自然に生きて』小倉寛太郎 新日本出版社
・『永遠なる生命』星野道夫 小学館文庫
最後に民衆の目から見たウガンダの貴重なコメントをくださったHamlet Mugabe、Jack Wada両氏に感謝いたします。




村の暮らしのひとコマ
撮影/中村治正