2017年
11月号
11月号
英国と神戸 Vol.5 日本初の英国王立建築協会公認建築士 桜井小太郎と神戸市立博物館
旧居留地では、大正から昭和初期、欧米の最新の建築様式を取り入れた鉄筋コンクリートビルが相次いで建設された。いくつかは現存しており、旧居留地の町並みを個性的なものにしている。中でも神戸市立博物館は、ひときわ目を惹く建物である。
神戸市立博物館の建物は、昭和10年(1935)竣工の旧横浜正金銀行(現・三菱東京UFJ銀行)神戸支店ビルを再利用している。正面に6本のドリス様式の半円柱が建ち並び、側面に壁柱を廻らした新古典様式の建物で、外装には御影石が使われている。昭和57年(1982)秋、市立南蛮美術館と考古館を統合し人文系の博物館として開館した。平成10年(1998)には登録文化財に指定された。
この名建築を生み出したのが、日本人初の英国王立建築協会公認建築士である桜井小太郎。桜井は明治3年(1872)、維新官僚の長男として東京に生まれた。東京帝国大学工科大学造家学科の選科生となると同時に、鹿鳴館設計者であるジョサイア・コンドルの建築設計事務所で、建築実務の指導を受けている。1889年9月、ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ建築コースに入学。成績は優秀で、大学卒業後はロンドンの建築事務所で実務修習を行い、英国王立建築家協会賞を受賞。1892年には、日本初の英国王立建築協会公認の建築家となった。
日本に帰国後、桜井は海軍技師を経て三菱地所に入社。大正12年(1923)、桜井小太郎建築事務所を設立して独立し、引退するまでに、旧三菱銀行本店や丸ビル旧館などの多くの建築物を設計した。
博物館の前身である旧横浜正金銀行は、桜井が最後に手がけた作品となった。これ以降、戦時色が濃くなっていく神戸にとっても、明治以来の様式主義建築の最後を飾る建物となっている。