2月号
湯けむり便り 連載第4.5回
金井 啓修
新たな観光シーズンを考える
有馬温泉の年末年始の風景が少しずつ変化してきています。
大晦日22時をまわると寺町界隈にロウソクが灯され、除夜の鐘つきが始まります。そして新年を迎える1時間前には温泉寺の境内は人で溢れてきます。
間もなく合唱が始まり、爽やかな雰囲気に包まれ、設営されたテントでは大根焚きが振舞われ、灘の酒なども配られました。こうした取り組みは今まで行ってきた小さなイベントを組み合わせ、また過去お善哉を振る舞っていたものを今年から大根焚きを振舞うことによって、より歴史的整合性と物語性のあるものにと修正を加えています。
正月2日は江戸時代中期から続いている入初式の儀式が行われます。今年は二つの新たな取り組みを行いました。ひとつは干支に因んだ記念品の作成。温泉寺には薬師如来が祀られており、その周囲には十二神将と呼ばれる干支をあらわす守護神が祀られています。今年は巳年なので、十二神将の巳年の神様に因んだ記念品を作りました。毎年お越し頂くと12年間で一式揃うという仕掛けです。もう一つは留学生の方々が参加して下さった事。日本語や歴史、文学を学んでいる学生さん達だったので、この伝統行事に参加できたことを非常に喜んで頂けました。きっとインターネットで有馬の事を発信してくれると期待しています。それが今後のインバウンドの推進に繋がると考えています。
お正月は必ずしも1月1日だけではありません。世界に視野を広げると、アジアの多くは旧正月を祝い、その前後は旅行シーズンとなります。そこで4年前から節分のイベントを始めています。節分はこの旧正月の休暇期間と重なるケースが多いのです。節分は古来より季節の境目、神様の交代時期と言われ、その慌しい隙間を狙って魑魅魍魎が現れると謂われてきました。それに対処する為に、庶民がケルト民族のハロウィンのように仮装して鬼を退散させるというものです。これを「おばけ」と呼ぶのですが、昭和40年頃からこの風習は廃れていったと謂われています。それを復活させようと、“バル”のイベント等と組合せ、仮装して温泉街の飲み歩きを楽しんで頂く催しを始めました。
また元日や季節の節目を大事にする日本と違い、ヨーロッパを始めとするキリスト教の多く国はクリスマスが一年で一番大事なイベントになります。有馬も昨年からはクリスマスに細やかながら新たな取り組みを始めました。それは金の湯前の広場にペットボトルのツリーを作り、ライトを入れることによって美しいイルミネーションのツリーが出来上がった事。出来ればヨーロッパのように紅葉シーズンの終わった11月の最終の土曜日にクリスマス・イルミネーションを行い、神戸ルミナリエや他地域の光のイベントと連携し、そしてクリスマス・マーケットを開催したいと考えています。かつて有馬は神戸港開港に伴ってやってきた外国人宣教師が多く訪れた地。キリスト教の全国大会がお寺の本堂で開かれた歴史もあります。そんな史実を加えながら近い将来、有馬のクリスマス・シーズンの賑わいを創出したいと考えています。
世界の人口の16億人がイスラム教徒。ラマダン空けの10月1日が一番大事な日。このように世界に目を転ずれば新たな観光シーズンの創出が可能だと思います。
タイのお正月は4月の中旬。一年間で一番暑い時期に“サンクラン”と呼ばれる水掛祭りが行われます。祭りやイベントは「ルールが単純でたくさんの人が参加するほど面白い」と私は考えています。そこで有馬の若者に「イベントの考え方を学びに行こう!」とサンクランへの参加旅行を企画しています。
一昨年、若者達とドイツの世界的温泉リゾート「バーデン・バーデン」に行ったように、共に同じ体験をする事で、連帯感や仲間意識が育ち、まちづくりが推進できると考えています。
金井 啓修(かない ひろのぶ)
有馬温泉で800年以上つづく老舗旅館「御所坊」の15代目。77年、有馬温泉観光協会青年部を結成して活性化に取り組む。81年、26歳の若さで「御所坊」を継ぎ、個性的な宿づくりで脚光をあびる。2008年、「有馬山叢御所別墅(ありまさんそうごしょべっしょ)」をオープン。世界的なからくり人形のコレクションが集う「有馬玩具博物館」は、約4000点もの所蔵を誇る。国土交通省の観光カリスマや内閣官房の「地域活性化伝道師」などに任命されている。