8月号

日本の“本物”を海外に紹介
一般社団法人 WANOBI 和の美 代表理事 三宮 優子 さん
開港150周年を迎える神戸で、日本の伝統的なものづくりとその作家を海外に紹介する「一般社団法人WANOBI 和の美」が発足した。ウェブサイト開設やイベントを通して、日本の“本物”を日本人の手によって紹介したいという思いを、代表理事の三宮優子さんにうかがった。
日本人の手で“本物”を紹介したい
―「WANOBI 和の美」とはどういった活動を行っておられますか。
日本のものづくりは今、世界中から注目を集めています。にもかかわらず私たち日本人の間では伝統工芸品の価値が十分に認められているとは言えません。需要の減少に伴い、歴史ある職人工房が後継者不足によって途絶えてしまうといった話もよく耳にします。そこで、日本の優れた伝統工芸を海外に紹介するためのウェブサイトを英語で作り、世界に発信していくことを考えました。それによって作品の価値を正当に評価してくれる世界中の人々に販路を拡大することができるからです。また、そうやって世界中から高く評価されることで、日本人自身にも自分たちの伝統文化の価値に気づいてほしいのです。
今年4月にオープンしたウェブサイトjapan-artisans.comでは、8人の伝統工芸作家をご紹介しています。作品はもちろんのこと、製作の工程や文化的背景、作家の人となりまで詳しくお伝えする内容になっています。テキストは日本人ライターの原稿を元に、翻訳者・英語母語校正者との共同作業で英文ライティングを行い、作家一人一人の想いをしっかり発信できるように作りました。
「英語のウェブサイトを作る」ことの重要性を、日本人の方はあまり理解されていないように感じます。世界中の人々のほとんどはまず英語で検索します。つまり、英語でインターネット上に発信すれば、数十億もの人の目に留まる可能性があるのです。
最近はよくメディアなどで日本の文化が外国人を魅了している様子が報道されますが、彼らは日本の文化やマニアックな観光地を自ら探し出して訪れています。WANOBIでは、日本が誇る本物の匠の技を世界に紹介したい、発見されるのを待つ受け身の姿勢ではなく、歴史ある優れた日本の伝統工芸を自分たちの手で発信したいのです。
ある茶筅師との出会い
―活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
私は17年にわたり英語講師をしてきましたが、若い頃は自国の文化についてあまり興味がありませんでした。40代になって着物に興味を持つようになり、茶道を習い始めました。そのご縁で茶筅師である谷村丹後さんに京都で出会ったのが、WANOBI構想の始まりだったのです。それまで何気なく使っていた茶筅について、誰がどこでどんな想いで作っているか全く考えていなかったのですが、その工程を見せていただいて本当に驚きました。
谷村丹後さんは、一子相伝の技で高山茶筅を作り続けておられる20代目当主です。茶道人口の減少と中国製茶筅の輸入などから、将来について不安に思っておられました。それを聞いて、500年続いてきたこの技を守るために抹茶ブームの海外に発信することを考えました。工房を見学するツアーを企画し、英語でのパンフレットと日英二ヶ国語のホームページを制作させていただきました。谷村さんは謙虚な方なので、見学ツアーで代金をいただくことに当初は少しためらいもおもちでしたが・・・でもその後、アメリカのテレビ女優が来られてご自身のインスタグラムで紹介されたりしているんですよ。
よく言われるように言語はコミュニケーション・ツールです。「なぜ英語を学ぶのか?」という問いの答えは「自分の想いを伝えるため」でしょう。目の前にいる生徒さんたちのTOEICの点数を上げたり、発音の矯正をしたりといった手助けをするよりも、日本の良さを世界に伝えるために英語を使いたいと私は思うようになったのです。そして神戸ビジネススクールという会社を外国人と共同経営することになり、翻訳や英語版ホームページ制作を主としたインバウンド対策のコンサルティングを始めました。その流れでこの日本の伝統文化を海外に紹介する「WANOBI和の美」の事業を新たに立ち上げたわけです。
「WANOBI和の美」プロジェクトでご紹介している作家さん方は60代が中心で、いずれも長い経験と素晴らしい伝統の技をおもちの匠ばかりです。京繍の稲垣さん、漆器の大蔵さん、和紙の奥野さん、着物の園部さん、染織の鈴木さん、茶筅の谷村さん、七宝の土田さん、筆管の萬谷さん。伝統の技を継承しながらアーティストとして作品を創り出される8名の作家さんたちは人柄も素晴らしくまたユーモアのセンスもおもちなので、この方たちを世界中に知ってもらうプロジェクトを、チーム全員が楽しんでいます。
神戸から発信する意義
―ウェブサイトでは関西一円の作家が紹介されていますね。
奈良・京都をはじめ、伝統的な工房がある地は日本全国にたくさんあります。現在サイトでご紹介している作家の中には、神戸の方はおられません。けれどもこういった発信を神戸からすることには意義があると思っています。私は曽祖父の代から神戸市民でしたし、他の理事も全員神戸市民なので、神戸という街に強い思い入れがあります。今年は開港150年にもあたりますし、神戸では古くから外国製品を輸入すると同時に日本製品を輸出してきました。今また伝統工芸を海外に発信する拠点として神戸以上にふさわしい場所はないでしょう。もちろん、今後、神戸の作家の方もご紹介できればと思っています。
―これからの抱負を聞かせてください。
今後はサイト運営だけでなく国内外での作品展示会も企画していきたいと考えていますが、私たちWANOBIの究極の夢は、WANOBI空間を丸ごと海外に輸出することです。例えば和紙で作られた茶室に掛け軸、竹や漆器・陶磁器の茶道具、美しい刺繍の施された着物など、「和の美」が凝縮された茶道の世界を、WANOBIの作家たちの作品によって創り上げる。一個一個の伝統工芸作品という枠を超越して日本文化そのものを体現し世界に伝えていく。そのようなことが実現できれば嬉しいですね。
今回、サイト完成披露式典をインターコンチネンタルホテル大阪で開催させていただいたのですが、会場ではサイトで紹介している作家たちの作品を展示し、大好評を博しました。これはホテルのフランス人総支配人の方のアイディアだったんです。「ぜひ作品展示をしてほしい」と。本物の日本文化を見てみたい、触れてみたい、と感じている海外の方はとても多いので、そのような要望にぜひお応えしていきたいですね。

6月15日に、インターコンチネンタルホテル大阪で
開催された「WANOBI」ウェブサイト完成披露パーティー

ロビーでは、WANOBIの作家たちや作品にふれるブースが設けられた

一般社団法人WANOBIのメンバーと共に。
右から2人目が三宮さん

「WANOBI」ウェブサイト完成披露パーティーで
進行役をつとめる。左から2人目

稲垣美智子(京都府京都市)京繍作家
男性中心であった京繍の世界で「繍匠いながき」代表として大叔母、母に続き三代目として伝統を守り育てている。500色を超える絹糸を自在に操る宝石のようなその仕上がりは、絹の芸術と呼ばれる。

大蔵信一(兵庫県三田市)漆器作家
厳選された生漆と上質の呂色漆のみを使用するこだわりの漆器作りは、料理研究家の妻による地元三田の素材を活かした創作懐石料理を最も美しく見せるためでもある。

奥野誠(和歌山県田辺市)和紙作家
高野山の麓に位置する龍神村で古くから行われていた紙漉きの技法を復活させ、草木染や自然染色などの新たな技法を加えて芸術作品の域にまで高めている。2016年度和歌山県名匠表彰受賞。

鈴木一弘(京都府京都市)染織家
鈴木時代裂研究所所長。祖父の代から三代にわたり、400年前の江戸時代に渡来した名物裂や古渡更紗の収集、研究、復元を行う。

園部月美(兵庫県宝塚市)着物作家
デザインから生地の選定、下絵、染め、仕上げまで着物制作の全工程を一人でこなすことができる稀有な着物作家として、フルオーダーの受注制作を中心に活動している。

谷村丹後(奈良県生駒市)茶筅師
奈良・高山で室町時代から500年続く茶筅師・谷村家の20代目当主。江戸時代には徳川将軍家御用達茶筅師を拝命。現在は茶道各流派の家元に直接製品を納め、愛用されている。

土田善太郎(兵庫県西宮市)七宝焼作家
伝統工芸としてのイメージに捉われない自由な発想で「七宝焼」の新しい表現を探るアーティスト。写真家・土田ヒロミの双子の兄。

萬谷歓峰(奈良県桜井市)筆管師
大神神社の門前に工房を構え、筆管(筆の柄の部分)はもとより矢立や硯箱など様々な木竹工芸品を制作する傍ら、全国の寺社からの依頼により仏具・神具の補修なども手掛けている。
三宮 優子(さんぐう ゆうこ)
アメリカ、ワシントンDC生まれ、神戸育ち。神戸女学院大学英文科卒。英語講師として、17年にわたり延べ1500人に上る学生を指導。2012年より、神戸ビジネススクール株式会社取締役副校長として、多言語対応のための翻訳や英語版ホームページ・パンフレット制作コンサルティング業務に携わる。2016年10月、日本の伝統工芸品を紹介する英語サイトの構築と作品販売の支援をする一般社団法人WANOBI 和の美を設立。著書『ビジネスに本当に役立つ英語~Business English Insights』
WANOBI-Beautiful Japan
Our website features eight Japanese artisans.
Visit us to find out more.
WANOBI
和の美 ホームページ
https://japan-artisans.com/