8月号
KOBEの本棚|触媒のうた ― 宮崎修二朗翁の文学史秘話 ― 今村 欣史
触媒のうた
― 宮崎修二朗翁の文学史秘話 ― 今村 欣史
「触媒(しょくばい)-それ自身は変化をしないが、他の物質の化学反応のなかだちとなって、反応の速度を速めたり遅らせたりする物質。」(大辞林より)
タイトルは、文学研究家・宮崎修二朗さんが33歳で出版した著書(昭和30年に神戸新聞社から出版された本が読者からの申し込みが殺到し自費出版した本)で、『しかし、私にとって、第二の故郷ともなったこの兵庫県と、心の故郷ともいうべき文学とを結びつけようという私のねがいは、一日も忘れたことはありませんでした。私は、自分の貧しさを知れば知るだけ、自分が世の人々に捧げうるものは、こうした“触媒”の役目以外にないということを、改めて自覚しているのです。』と書いているところにわけがある。「久坂葉子」「柳田國男」「田辺聖子さん」といった兵庫県にゆかりのある文学者と交流し、「のじぎく文庫」創設にも尽力した宮崎さんが語ってきた逸話や裏話を、それらを長い間耳にしてきた今村さんが一冊にまとめた。
「宮崎翁は文学だけでなく生物や歴史、すべてにおいて博覧強記な方。兵庫県の文学史においての功績もものすごい。だけどご自身が謙遜ばかりされる方でそれがあまり知られていない。自己顕示欲の強い方がお嫌いなので、誤解されていることもある(笑)。それがぼくは本当に悔しくて」と今村さん。今回こうして「宮崎翁の貴重な記憶の記録」を一冊にまとめることができて安堵したという。「まだまだ書きたい宮崎翁のお話はいっぱいありますが」。
文学史といっても、初出は小誌月刊神戸っ子(昨年まで連載)。「文学好きの人ばかりではない、神戸っ子の読者を意識して、軽い文体で書かせていただいた」という今村さんの気さくなお人柄とサービス精神、そして宮崎翁への限りない尊敬の念から、文学好きでなくてもたのしく読める一冊。