2014年
6月号
バー「ABUはち」にてオリジナルブレンドウイスキーを味わう

ぶらり私のKOBE散歩 Vol.16.5

カテゴリ:KOBE散歩, グルメ

ラジオ人の元町時間

今林清志(いまばやし きよし)

ラジオ関西の伝説の洋楽番組『ラジオ関西電話リクエスト』などの音楽番組の制作にたずさわり、40年以上「ラジオ屋一筋」に音楽と神戸を愛してきた今林さん。そんな今林さんが好きな神戸風景は、少しレトロで人間味あふれる場所。その中心となる元町界隈のお店を訪ねた。

バー「ABUはち」にてオリジナルブレンドウイスキーを味わう


ジャズを聴く、とにかく聴く ジャズ喫茶「jam jam」

奥のソファ席は「会話厳禁」の張り紙も見える正統派ジャズ喫茶「jam jam」。モダンジャズを中心に、約5千枚のレコードの中から、マスターやスタッフがおすすめの音楽をかける。こだわりのオーディオとスピーカーから大音量かつもっとも良い状態で音が聴こえるように店内の設計がなされており、まさしく音に包まれる空間。「とにかくここではBGMとしてではなく、しっかりジャズを聴いてほしい。すると初めて気づくことが多いんです。演奏者の息遣いや弦をはじく音が聴こえ、ジャズはまさにその瞬間のドラマ、即興音楽なのだと感じることができます」とマスター。
コーヒー一杯で何時間も過ごすお客さんも多いジャズ喫茶。そのためコーヒーは冷めても美味しく飲めるよう酸味を抑えたオリジナルブレンドを提供。中でもおすすめは、ウインナーコーヒーで、粒の大きなブラウンシュガーと、エスプレッソの苦みと熱さ、ホイップクリームの甘みと冷たさを味わうために混ぜないで飲んでほしい。スタッフのまさよさんお手製のシフォンケーキ(550円)や昔ながらのホットドッグも人気。

震災後に今の場所にオープンし間もなく20年になる。ソファ席は会話禁止で音楽を聴くお客様専用席。


毎月第2金曜日は「マスターズNight」。ソウル、フュージョンや映画音楽などマスターおすすめの音楽がかかる。


原則としてリクエストは受け付けないのは、ジャンルにとらわれず新しいジャズに出会ってほしいという願いから


マスター・池之上義人さん(中央)、スタッフの皆さん


■JAZZ喫茶 jam jam

TEL.078-331-0876
神戸市中央区元町通1-7-2
営業 12:00~24:00 
不定休

おまかせしておけば美味しいものが食べられる「おくの」

ラジオ局の同僚から教えてもらって以来、仕事仲間や家族でもよく利用しているのが鉄板焼きの「おくの」。商店街のにぎわいから少し離れた場所にあり隠れ家的なお店のせいか、メディア関係者や、行政関係者などがよく利用している。料理が美味しいのはもちろんだが奥野さん夫妻が切り盛りする家庭的な雰囲気も魅力で、口コミでお客さんが集まってくる。
鉄板焼きは、但馬牛や野菜など兵庫県産の食材を中心にしたメニュー。季節のおまかせコース(4000円)は地元産食材のオードブルからお肉、黒毛和牛のすじが入った和そばの焼きそば、チーズ入りお好み焼などこのお店の人気メニューがすべて入ったおすすめのコース。今林さんはここに来たら「イスに座るだけ」、あとはその日おすすめの美味しいお料理が出てくる。「材料が良いし、料理に工夫が行き届いています」と今林さん。大正期の九谷焼など年代ものの食器に盛られてくるのも楽しい。

但馬牛の稀少部位のため売り切れもしばしば


但馬牛のイチボ、ラムシンは味わいのあるお肉。ステーキを中心にした季節のおまかせコース(4,000円)は前日までに要予約。


和そばの焼きそば


奥野雅之さん・和代さん夫妻と

■おくの

TEL.078-360-1511
神戸市中央区元町通4-5-12 池上ビル1階
営業 17:00~22:00 月曜定休

〝では、すずで待ち合わせ〟の一軒目 大衆居酒屋「すず」

地下へ下りる階段に貼られたメニューは「コロッケ150円」「冷やっこ200円」…安くてきっと良いお店なんだろうな…と思いながら入るまでに勇気がいったという今林さん。意を決して入ってみたところ、「いらっしゃい」とあまりにすんなり迎えられて、すぐさま常連になってしまった。今では友人と「すずにいます」「あと何分」とメールのやりとりをして待ち合わせしながらその日の一杯目を飲むことも多い。
元町で創業して約60年。現在のご主人は二代目。一代目(ご主人のお母さん)も、いつも厨房に座っていて名物ポテトサラダなどを作ったり、「お母さんが炙るさくら干しは絶品やねん」と今林さん。店内を歩き回り接客するのはお嫁さん。
人気の看板メニューは「豚足煮」(650円)。ショウガと醤油と砂糖のだしは何十年にわたって注ぎ足しされてきた秘伝のだし。ご主人はだしの味を保つため店が休みの日でも365日火入れに来ているのだという。そんなだしで何時間も煮込んだ豚足はとろとろで臭みもなく、女性や他の店の豚足が食べられなかった人でもとりこになってしまう。冷やっこなどの豆腐は南京町の豆腐屋さんが冷水に入れて持ってくる手作り品、今林さんが好きな腸詰(500円)も近くの店から仕入れた逸品であったり、安いといえどもどのメニューも手が込んでいる。そりゃあ大衆に人気なわけです。

豚足煮(650円)


安くて美味いメニューがずらり


味のあるカウンターで、ご主人と奥様と


■大衆居酒屋 すず

TEL. 078-322-1358
神戸市中央区元町通1丁目10-7 大森ビルB1
営業 16:00~23:00(土曜10:30~23:00)
日曜・祝日休

マスターの穏やかさで一日を終える「ABUはち」

「バーテンダーっていう職業は、世の中で一番難しい職業とちゃうかなと、思うんです」と、今林さんがしみじみと言う。元町の有名バー「ABUはち」のマスター・畑中さんを目の前にしての一言だ。「夜ごとにたくさんのお客さんが来るわけ。そのたびに、この人はどういう心理状況か、この人たちの仲はどうか、そういったことを探りながら、話したり話さなかったり、静かにお酒を作って出すわけでしょう。非常におもしろい職業だし、ラジオの仕事に似たクリエイティブな面もあると思う」。「なんかシンドイな」と思う夜更け、独りでこの店にきて、畑中さんとの会話によってふと救われたことが何度もあったという。
それに対して畑中さんは「カウンターの幅が、お客様との距離なんですね」と話す。「前日、どんなに近しく話しても、次の晩にはこのカウンターの幅に戻る。入りこみすぎてもいけませんし、そういう心地よい距離感、それはこのカウンターの幅なのだと、今はそのように考えて気軽にお迎えしています」。畑中さんの穏やかな笑顔に癒されるお客さんも多い。
昭和29年に創業した「ABUはち」、畑中さんは三代目マスター。スコッチ、アイリッシュ、バーボンなどウィスキー銘柄が多く、ウィスキー好きが集まるバーとしても有名。

店内には馬の蹄鉄や置物など馬関係が多い


マスターのゆったりしたステアを眺める


ライムを半分使った名物のモスコミュール


■バー ABUはち

TEL.078-331-2798
神戸市中央区元町通2-7-8
営業 17:00~23:30
日曜・祝日休

今林清志(いまばやし きよし)

1949年(昭和24年)生まれ。関西大学経済学部卒業。
1973年株式会社ラジオ関西入社。報道制作部、東京支社編成、営業部、事業部など番組制作・編成部門を中心に、“音楽のラジ関”で、伝説の洋楽番組「ラジオ関西電話リクエスト」など洋楽・邦楽の各種番組の制作に関わる。ラジオ関西開局50周年事業プロデューサー等を務め、2013年定年退職。現在フリー・プロデューサー。神戸新聞夕刊文化面に音楽エッセーを連載中(毎月第2月曜日掲載)。

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