2014年
6月号

「みんなの医療社会学」 第四十一回

カテゴリ:医療関係

医療費と薬剤費の適正化を考える
─増え続ける薬剤費とその背景

─医療費は年間でどれくらい増加していますか。
新藤 平成23年度の国民医療費は約38兆6千億円で、前年度に比べ約1兆2千億円、3.1%の増加となりました。人口一人当たりの国民医療費は30 万1900円で、前年度に比べ3.3%増加し、初めて30万円を突破しました。しかし、国民医療費は社会保障給付費全体からみれば3割程度で、一人当たりの医療費もOECD諸国の平均より少ないレベルです。一方、医療費の中で、薬剤費は大幅に増加しています。医科診療医療費が前年比2.2%増なのに対し、薬局調剤医療費は前年度比7.9%と大きな伸びを示し、約6兆6千億円と医療費全体の17・2%を占めています。しかもこの数字は、院外処方箋をもとに調剤薬局で処方される薬剤費だけの金額で、入院中治療に使用したお薬や病院・医院の窓口で受け取るお薬の費用は含まれていません(図1)。つまり、全体の薬剤費はもっと多くなります。国は薬剤費全体のデータを公表していませんが、8~9兆円、医療費全体の約25%と推計されています。
─なぜ薬剤費は大きく増えているのでしょうか。
新藤 中でも伸びているのが薬局調剤費です。国は薬剤費の抑制を図るために、医薬分業、後発医薬品(ジェネリック)の使用促進、DPC(医療費包括払い制度)などを進めてきました。医薬分業は医療制度合理化、医師と薬剤師とのダブルチェックによる安全性の向上、不必要な薬の処方を防ぐことができるなどのメリットがあると推進されてきました。しかし、患者のみなさまにとって二度手間で、負担が増えているという側面もあります。
─確かに院外処方になり負担が増えているような気がします。
新藤 医薬分業や院外処方というシステム自体が悪いわけではありませんが、無理が出てきたという印象があります。もともと、院外処方は院内処方より処方料・調剤料が高く定められているうえに、近年次々と後発医薬品使用を促進させるための加算が新設されたために、結果的に患者負担は3割程度院内処方よりも高くなっています。薬局調剤医療費の3割(約1兆7千億円)は医薬分業によって新たに生み出された費用負担だという人もいます。
─後発医薬品は普及しているのに、なぜ薬剤費は抑制されないのでしょうか。
新藤 2007年に、財務省は先発医薬品をすべて後発医薬品に振り替えた場合には医療費が約1兆3千億円減ると試算し、後発医薬品の使用割合を30%とするという数値目標が閣議決定されて、後発医薬品の使用を促進する方向となりました。これを達成する目的でさまざまな施策が施行され、患者さんの薬代以外の費用負担は増えた一方で、後発医薬品の使用割合は年々上昇し、2011年度には数量ベースで約23%に達しました。確かに後発医薬品の使用割合は増えてきましたが、実際の現場では後発医薬品よりも高価格である新薬も使用されますので、薬剤費の比率は縮小していない傾向があるのです。また、世界各国と比較しても国の思惑通りに後発医薬品が普及しているとは言えません。そもそも後発医薬品がなぜ安いのかというと、開発費が不要なだけでなく、先発医薬品とは全く一緒ではないにもかかわらず、先発医薬品では提出が必要な、有効性や安全性についてのいくつかの試験が免除されているからです。そのためか後発医薬品は安全性や有効性、供給体制などの面から信頼度が低いと考えて、後発医薬品を望まない患者や処方切り替えを躊躇している医師が多いのも現状です。これが、後発品使用割合が増えない大きな理由だと思います。国は昨年、後発医薬品の使用割合を増やすための数値目標をさらに高く設定しました。私は、国自らが医師や患者が安心して後発医薬品を使用できるように、有効性や副作用の実態を明らかにする仕組みを作り公表していくならば、後発医薬品の使用は増えていくと思っています。
─医師会は薬剤費のあり方に対し、どのようなスタンスですか。
新藤 薬剤費を低く抑えることを目的として、薬価が高額な新薬を保険収載しないようにしたり、風邪薬など薬局で買える日常よく使用するお薬を保険適用外にしようとする動きがありますが、これは混合診療の全面解禁から国民皆保険制度の崩壊につながるもので、断じて認められません。

新藤 高士 先生

兵庫県医師会医政研究委員
新藤クリニック院長

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