2月号
ものづくりの魅力を伝えたい[神戸とモノづくり(3)]
竹中大工道具館
館長 赤尾 建藏さん
貴重な大工道具のコレクションを誇る
竹中大工道具館は、昨年秋に新神戸へ移転し、
より魅力的な博物館へと進化している。
神戸への思いや展示の魅力など、赤尾館長にお話しを伺った。
竹中と神戸の関わり
竹中工務店のルーツは名古屋の宮大工で、今から約400年前の創業です。今から115年ほど前、三井倉庫の小野浜倉庫の建設という大きな仕事が神戸であり、神戸へ移り会社を設立し「竹中工務店」となりました。その頃の建設業は「○○組」という名称が一般的で、はじめて「工務店」という名称をつけたといわれています。
事務所を県庁の東、以前の大工道具館の場所において会社を設立し、その約10年後に移ってきたのがこの場所です。その時は事務所と本宅を設けました。その後本社は大阪に移ったものの、この地はしばらく本宅が社員の厚生施設として使われていましたが、昨年大工道具の博物館として活用することになったのです。今でこそ新神戸駅に近くて便利なところですが、100年前は町外れの果樹園で、海を見渡せたそうです。
竹中工務店は現在の会長が16代目。現在の大手建設業5社の中で、当社だけが西日本の棟梁の出です。
五感を刺激する展示
竹中大工道具館は、日本で唯一の大工道具の博物館です。今から約60年前に電動工具が現れ、このままでは本来の大工道具がなくなるのではないかと危惧し、道具と、道具を使う大工の精神と、道具を作る道具鍛冶の心を民族遺産として後世へ残そうと設立されました。今これだけの道具を集めようとしても、もう無いでしょうね。
企業の博物館は、製品を見せたり収集した美術品などを展示したりしますよね。しかし、竹中工務店は建物を建てるのはお手の物ですが、何も展示物を持っていなかったのです。そこで、全国の本支店が5年かけて1万点近くの大工道具を収集しました。コレクションは現在も収集が続いており3万点以上にのぼりますが、大工だけでなく、左官や桶屋などの道具も集めています。
展示は7つのコーナーで構成し、五感で体感していただくのがコンセプトです。その際にできるだけ本物や実物の模型を見ていただくようにしていますので、唐招提寺の木組みやスケルトンの大徳寺玉林院蓑庵は、原寸大で再現しています。大工道具がどのように使われるかについて分かるような展示もおこなっています。
また、木工室を設けたのも新しい試みです。私どもは学校へ出張授業によく行き、木工を体験してもらっているのですが、今の家は工場でプレカットした材をクレーンで組み立てていますので、子どもたちは木に匂いがあるということを知らないのです。かんなで削った木の香りや肌触りを感じていただきたいですね。日本は木の文化ですから、木に触れて学んでほしいのです。もちろん、大人も楽しめる木工教室も始めます。
建築物としての魅力も
リニューアルして規模も大きくなり、展示も充実しましたが、ぜひ建物も見ていただきたいですね。建築雑誌の表紙にも掲載されました。もちろん竹中工務店の設計・施工。私も設計の出身なんですが、緑が多い周りの環境を大切にした良い建物だと思います。3階建てくらいにすればコストもかからないのですが、環境を考え樹木をできるだけ残すために、平屋にして地下階を設けています。
また、構造も工夫がされています。木造のように見えますが、ここは防火地域なので木造で建てられないのです。ですから鉄骨なのですが、できるだけ鉄骨の部分を見せないように工夫しています。4本の柱にパイプの梁で屋根を支え、ガラス張りで建物が浮いているような感じですが、これはものすごく構造が考えられているんですね。
木が使えるところは木をふんだんに使用し、天井は杉の間伐材で船底天井に、床はホワイトオーク材、扉は釿がけの栗材を使用しています。これだけの釿がけができる職人は、日本で数名しかいないのではないでしょうか。壁は左官の第一人者、久住有生さんが仕上げた土壁で、中庭のタイルは山田脩二さんがだるま窯を用い、薪で焼いた伝統的な淡路瓦です。ものづくりの博物館ですから、一流の職人や作家に依頼し、こだわりました。
エントランスの多目的ホールは、セミナーなどで200名ほど収容できるだけでなく、入館無料のギャラリーとしても活用できます。展示や催しを通じ、ものづくりの魅力を発信していきたいですね。
竹中大工道具館
神戸市中央区熊内町7-5-1
TEL.078-242-0216
開館:9:30~16:30
休館:月(祝日の場合は翌日)、年末年始
料金:一般500円(団体400円)
大・高生300円(団体250円)