12月号
Power of music(音楽の力) 第12回
音楽と嗅覚『コーヒーと音楽の記憶』
上松 明代
私は今、この原稿を三宮の上島珈琲カフェで書いている。季節は進み、もう冬。クリスマスソングが心躍らせる。
神戸のクリスマスと言えば、やはり「ルミナリエ」。ルミナリエ会場で流れている音楽をご存知だろうか。毎年、新たな音楽が制作され、それはいつも幻想的で愛が込められた楽曲なのだ。視覚だけでなく、聴覚からの感動も是非味わって頂きたい。
さて視覚・聴覚が出たところで、今回は音楽と嗅覚のお話。18世紀ドイツで活躍したヨハン・セバスチャン・バッハ(以下、バッハ)のコーヒーをテーマに作った曲がなんともにくい。何故にコーヒー?
バッハは学生の頃、ドイツ、ライプツィヒのコーヒーハウスで演奏のアルバイトをしていた。当時のライプツィヒでは、コーヒー依存症が社会問題となっており、彼自身、コーヒー愛好家であったことも合わせて書いた作品が喜劇『そっと黙って、おしゃべりめさるな』、通称『コーヒーカンタータBMV211』だ。(カンタータとは器楽伴奏付きの声楽曲のこと)。内容を簡単に書くと、コーヒーが大好きな娘とそれを不埒なことだと憤慨している父のやりとり。
父 「コーヒーをやめないなら結婚はさせない!」
娘 「コーヒーを飲ませてくれる人じゃないと家に入れないんだから!」
喜劇らしいやりとりが歌によって繰り広げられる。喜劇とは言え、音楽は秀逸。そりゃ音楽の父・バッハですからね。一曲目の「ああ、コーヒーの美味しいこと」の、前奏フルートのメロディーが不思議とコーヒーの芳しい香りを彷彿させる。
嗅覚の記憶、プルースト効果は五感の中でも絶大だ。一瞬でその場にタイムスリップ。嗅覚と音楽(聴覚)が合わさるともう無敵。私の場合、クリスマスソングとコーヒーの香りを嗅ぐと安全で暖かな幼少時代を思い出す。コーヒーは砂糖がいっぱい入った甘いコーヒー。
この冬はバッハの『コーヒーカンタータ』と、あったかいコーヒーと甘いお菓子で新たな記憶を刻んで下さい。
上松明代(フルート奏者・作曲家)
武蔵野音楽大学卒業。在学中にハンガリーの「音楽」と「民族」に魅了され、卒業後ハンガリー国立リスト音楽院へ留学。31歳で知的好奇心から兵庫教育大学大学院で作曲を学ぶ。演奏活動と同時にバイタリティー溢れる作曲活動も展開中。六甲在住。You Tubeにてオリジナル曲公開中。
オフィシャルサイト http://akiyouematsu.com