2月号
桂 吉弥の今も青春 【其の二十二】
「えん」の話
まずは縁。落語家というものはほとんど縁だけで仕事をさせてもらっている。どれだけ師匠のことが好きでも、縁が無ければ弟子になることが出来ず落語家にはなれない。ラッキーであること、タイミングの良さ、つまりは縁。入門してすぐにお客さんが来てくれはるのも、学生時代の友人だとか親戚、親の知り合いだとか近所の顔見知りの皆さんが応援で集まってくれているだけで本人の落語の面白さは二の次だろう。しばらくして応援する気持ちが薄れてきても「吉朝さんのお弟子さんかいな聞いてみたろ」「米朝一門の若い子か」と師匠や大師匠との縁でお客さんが聞いてくれはる。私の初めての落語会も母親の知り合いのお宅の座敷を借りたし、初めての桂吉弥独演会も客席はほぼ全員縁のある、知り合いの人ばっかりが座ってくれた。そんな私と山形のとある町が素敵な縁で繋がろうとしています。
私は出囃子に「真室川音頭」という民謡を使っている。これは私が太鼓の稽古で望月太津八郎師匠の稽古場に出入りしていた二十年ほど前、その横でずっと民謡のレッスンもやっていて気に入った曲なのだ。その時何ヶ月間か課題曲になっていたようで、こちらは長唄の稽古で小鼓の準備なんかをしながら「私ゃ真室川の梅の花〜あこりゃ」と口ずさんでいた。年月を経てそのお気に入りの曲を出囃子に採用した。
昨年末に山形県最上郡真室川町役場の方からメールをいただいた。吉弥師匠と真室川音頭の縁はあるんですか、どうしてうちの町の音頭を出囃子に使ってはるんですか、山形出身ですか、等々。そこで先ほどの理由を送るとすぐに返信が帰ってきた。真室川町では毎日夕方に真室川音頭が流れているらしい、年に一度は真室川音頭のコンテストもあるとか。もっと真室川町のことを知ってくださいとパンフレットを送っていただいた。軽く特産品なんかも入れて。嬉しかった、音頭を口ずさんでいた岸里の稽古場では考えもつかなかった話だ。お返しに関西らしいものをと思い、551蓬莱の豚まん詰め合わせを冷凍便で送った。すると今度はお家から山形のお米「つや姫」とリンゴを送っていただいた。お米は炊いたらとっても美味しかったので吉弥の落語ボックスをお礼に送っておいた。さて、そのお礼に次は山形牛一頭とか送ってこうへんかなあ・・・これは冗談だが。
いずれ真室川町でお客さんがみんなで音頭を唄う中、高座に上がって一席喋りたいなあと思っている。縁を大切にせないかんなと実感した出来事。
続いては「煙」。ケムリ、それもタバコの煙。
前に書かせてもらったように5キロマラソンのゲストランナーとなった私吉弥。事前練習しようと、ちょっと走っただけでしんどくなる。内臓が裏返るくらいに嘔吐く。これはアカンなと昨年の十月にタバコを止めた。止めたら走るのもちょっとラクチンになってきた。今も旅の仕事にはランニングシューズやウェアを持って行って時間が出来たときには走っている。タバコを止めてからまだ原稿を書いている時点では三ヶ月なのでこれからまた「吸いたい!」と思う日が来るかも分かりませんがね。とりあえず走ることが今は楽しいので禁煙継続しております。
そしてエンターテインメントのエン。年末横浜に、サザンオールスターズの桑田さんのライブに行ってきた。病気をされてから初めての年越しライブということで是非とも見に行きたかった。ほんとうに素晴らしいエンターテインメント! それを可能にするスタッフワーク、バンドの音。全ての中心に桑田さんがいる。当たり前のことだけど節制してはるんやろうなと思った。歌声が後ろまで届くのだ、素敵や。舞台に立つ同じ職業人として私も見習わなきゃ、縁を感じ禁煙を続けエンターテインメントで今年も頑張ります。
KATSURA KICHIYA
桂 吉弥 かつら きちや
昭和46年2月25日生まれ
平成6年11月桂吉朝に入門
平成19年NHK連続テレビ小説
「ちりとてちん」徒然亭草原役で出演
現在のレギュラー番組
NHKテレビ「生活笑百科」
土曜(隔週) 12:15〜12:38
MBSテレビ「ちちんぷいぷい」
水曜 14:55〜17:44
ABCラジオ「とびだせ!夕刊探検隊」
月曜 19:00〜19:30
ABCラジオ「征平.吉弥の土曜も全開!」
土曜 10:00〜12:15
平成21年度兵庫県芸術奨励賞