9月号
甲南ブラスバンドからニューヨークへ|黒田 卓也さんインタビュー
黒田 卓也さん (ジャズトランペット奏者)
甲南中学ビッグ・バンドでトランペットに出会い、現在、ニューヨーク在住の黒田卓也さんは、日本人で初めてUSブルーノートと契約した気鋭のジャズトランペット奏者。世界的な人気ジャズシンガー、ホセ・ジェイムズのバンドメンバーをつとめる。8月4日に開催された「甲南ファミリージャズの夕べ in ラヴィマーナ神戸」に参加した黒田さんにお話を伺った。
――甲南中学でトランペットに出会ったのがスタートだとか。
兄がブラスバンド部の部長をやっていて、トランペットが余っているから吹けと連れていかれたんです。12歳のときでした。高校3年になると、神戸にあったジャズクラブ「INDEED」なんかに毎週行って、プロに交じって演奏させてもらうようにもなりました。
――なぜトランペットにのめり込まれたのでしょう。
かなり初期の話なんですけど、トランペットって本当になかなか音が出なくて、ろくに音も伸ばせないんですが、でも日に日に、一音一音が出せるようになってくる。でも音域がなかなか広がらないので、吹ける曲が限られている、そんな中で「ふるさと」は音域がそう広くなく、メロディをろうろうと吹けるので、あの曲ばかり吹いていましたね。それが吹けるだけでも感動してしまう、そうして入っていったんでしょう。
――大学卒業後に、ニューヨークにあるニュースクール大学に進み、音楽を本格的に学ばれました。
ニュースクールに入る前、大学在学中に、バークリー音楽大学のサマープログラムを受けたんですが、そこで初めて僕は音楽を学校で学んだわけです。これまでは、何回もCDを聴くなど自己流で、遠回りして身につけていましたから、あんなに悩んでいたことをこんなに整然と説明してくれるんだと、目からうろこが落ちました。この教育、施設を使ったら、僕はもっと前に進めるんだと、そこで自分の伸び代を感じて、すごく興奮したのを覚えています。
ただ、音楽学校に行くよりも前に、神戸や阪神間のジャズクラブで演奏できた、学校に入る前に、最初にそういう現場に入れたっていうのは良かったですね。それを高校生のころからずっとやらせてもらえていたというのは、演奏において一番大事なものは何かっていうことが、無意識のうちに身体に入りましたので、とても良かったんじゃないかと思います。
――一番大事なこととは?
ニュースクールでは、技術や理論を叩き込まれるわけですけど、いくらそれを持っていたって、心に響く演奏はそれじゃない、ということです。ただ、技術のすごさが人の心を打つということもあるので、これは僕が思うには、ということですが。僕はメロディを大切に、感情的にというか、ストーリーを音で伝えて人に感じてもらえるようにと思って演奏しています。単なる自分の表現の場、自分よがりの演奏になってしまわないようにね。
――今回は甲南大学卒業生の前で演奏されたわけですが、甲南の良さはどんなところにありますか。
非常に自由な校風で、クローン人間を作らないというか、一人ひとりの個性を尊重してもらいましたね。僕がいたブラスバンド部は、先生が寛大というか何もしない人だったので(笑)、自分たちで考え、自分たちで成長しないといけませんでした。サボるのも勝手、頑張るのも勝手、そういうアクティビティ自体が、人間として成長させてくれました。単に音楽指導が良かったというよりは、自分たちでいろいろ考えて、夏の大会に向けてああしよう、こうしようとかしているうちに、ケンカして半年間、口もきかない友達が出てきたり、その中でどうやってそれを乗り越えていくかという、今の社会の縮図みたいなものを在学中に一通り経験させてもらえたっていうのは、僕の中で大きな強みになっています。
僕は毎年年末には日本に帰ってくるので、そんなときのパーティーなんかで当時の友人たちや地元の友人とセッションしたりもします。
――印象的なアフロヘアは。
昔からバスケットボールが好きでしたし、憧れていた髪型だったのでやったのですが、ホセ・ジェイムズのワールドツアーに出ていてもぼくの方が目立っちゃうようになって(笑)。でもアピールにはなるのでこのままでいこうと思っています。
――今後の予定などは?
交友の幅を広げていきたい、というのはずっとありますね。ジャズって、敷居だけ高くて狭いところにあるマーケットの雰囲気がある。それが良いって言う人も、嫌だって言う人もいるんですけどね。
今年の年末に、東京で20代~30代の若手ミュージシャン、ジャズに限らず音楽を追求している若い人たちを集めたイベントを企画しています。ジャズが敷居が高いのは、東京の名門ジャズライブハウスなんか7~8千円するんです。20代のファンにとっては高すぎる。僕にしたら20代~30代の音楽好きのエネルギーっていうのは、もっとも大切にしたいと思っています。高い料金を払わなければ聴けない音楽っていうのがジャズの問題であるし、また日本だと、ジャズをやっててマネージャーまで雇えるようなミュージシャンはなかなかいない。それらを解決するために、僕ができるのはジャズファンのすそ野を広げること、間口を広げることだと思う。僕はニューヨーク在住ですし、こんな頭してるし、そういうことから間口が広がるかもしれない。日本とニューヨークのミュージシャン同士の交流や、ジャズミュージシャン自身がジャンルの違う人たちとも交流して横の広がりを作っていきたいです。ジャズを音楽の代表にしたいわけじゃなくて、ジャズはかっこいいって思う人を増やしていきたいです。
黒田 卓也(くろだ たくや)
1980年兵庫県生まれ。甲南中・高・大学を通してビッグ・バンドに所属。2003年ニューヨークのニュースクール大学ジャズ課に進学。2014年、USブルーノート・レーベルよりホセ・ジェイムズのプロデュースでアルバム『ライジング・サン』でメジャーデビュー。日本ではNY在住の日本人ジャズミュージシャンによって結成されたスペシャル・バンド「J Squad」のメンバーとしてテレビ朝日「報道ステーション」のテーマ曲等を手掛ける