8月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第八十六回
地域医療構想の社会保障費への影響について
兵庫県医師会医政研究委員
堀本医院院長
堀本 仁士 先生
─地域医療構想とはどのようなものですか。
堀本 2025年には戦後最大の人口をもつ年代、いわゆる団塊の世代が75歳以上となり、少子高齢化、人口減少がどんどん進んでいきます(図1)。そうなると求められる医療の形も大きく変わってきます。そのような状況に向けて、2025年以降の医療需要を推計し、地域の実情に応じた医療供給体制を都道府県が主体となって決めるのが地域医療構想です。
─「地域の実情に応じて」ということは、地域によってそれぞれ事情が異なるということでしょうか。
堀本 はい。年齢別人口分布には地域差が大きく、都市部では今後も高齢者人口が増加しますが、地域によっては既に高齢者人口が減少し始めているところもあります。ですから全国一律の医療計画では対応しきれなくなっているのが現状で、それぞれの地域の状況に応じた計画が必要になっているのです。
─少子高齢化や人口減少が進むと、医療においてどのような影響が出てくるのでしょうか。
堀本 今後は複数の慢性疾患を持つ高齢者が増加し、少子高齢化で医療介護の支え手が減少します。また、これは仕方がないことですが、高齢になればなるほど国民1人当たりの医療費、介護費ともに増大します。2015年度の統計では15~44歳の人口1人あたりの国民医療費は12万円ほどですが、75歳以上は約93万円にものぼります(図2)。つまり、患者さんは増えるけれど、患者さんを支える人材や財源が減っていく社会が到来するのです。
─そうなるとどのような医療が求められるのでしょう。
堀本 これまでのようにすべての病気を完治させるというより、病気と共存しながら住み慣れた地域で安心して日常生活をできるだけ長く送れるようなシステムづくりが求められるようになるでしょう。
─そのシステムを具体的に教えてください。
堀本 患者さんが高度な医療を施す急性期病院に入院した場合、そこでは急性期の治療のみを受けて、できるだけ早期に退院して在宅療養に移行し、地元のかかりつけ医のもとで引き続き治療を受けるようにします。また、病状によってすぐにかかりつけ医に戻れない場合は、まず回復期病院へ転院し、在宅復帰を目的としたリハビリテーションを受け、その後に地元のかかりつけ医によって引き続き治療を受けます。このように地域の医療機関が連携し、在宅医療へのすみやかな移行を目指していく医療システムは、地域完結型医療ともよばれています(図3)。
─地域完結型医療を実現していくためには、どのような課題があるのでしょうか。
堀本 地域完結型医療では、在宅医療の充実が最も大切です。地域医療構想により病院から在宅へという流れが加速し、約30万人の在宅医療の需要が新たに発生します(図4)。加えて在宅医療を受けている患者さんの高齢化も進み、在宅医療需要は更に約100万人増えると試算されています。しかし、今後在宅医療を必要とする患者さんが増えてくるにもかかわらず、それに対応する在宅医療の担い手不足が指摘されています。また、病院の持っている病床機能の転換も必要になってきます。これについては病院経営に大きく影響しますので、スムーズに進むのかどうかはわかりません。
─今後、財源が減っていくということですが、増え続ける社会保障費の伸びを地域医療構想によって少しでも抑えることができるでしょうか。
堀本 まず、地域医療構想が策定通りに進んでいくかどうかが一つの大きなポイントになるでしょう。一方で地域医療構想は地域の医療を守ることが大前提であり、社会保障費を抑えることを必ずしも目標とするべきではないと思います。その上で在宅医療の担い手不足を解消することや、医療・介護ともに効率的でモラルのある運営を心がけることが大切ではないでしょうか。