2018年
8月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第八十六回

カテゴリ:医療関係

地域医療構想の社会保障費への影響について

兵庫県医師会医政研究委員
堀本医院院長
堀本 仁士 先生

─地域医療構想とはどのようなものですか。

堀本 2025年には戦後最大の人口をもつ年代、いわゆる団塊の世代が75歳以上となり、少子高齢化、人口減少がどんどん進んでいきます(図1)。そうなると求められる医療の形も大きく変わってきます。そのような状況に向けて、2025年以降の医療需要を推計し、地域の実情に応じた医療供給体制を都道府県が主体となって決めるのが地域医療構想です。

─「地域の実情に応じて」ということは、地域によってそれぞれ事情が異なるということでしょうか。

堀本 はい。年齢別人口分布には地域差が大きく、都市部では今後も高齢者人口が増加しますが、地域によっては既に高齢者人口が減少し始めているところもあります。ですから全国一律の医療計画では対応しきれなくなっているのが現状で、それぞれの地域の状況に応じた計画が必要になっているのです。

─少子高齢化や人口減少が進むと、医療においてどのような影響が出てくるのでしょうか。

堀本 今後は複数の慢性疾患を持つ高齢者が増加し、少子高齢化で医療介護の支え手が減少します。また、これは仕方がないことですが、高齢になればなるほど国民1人当たりの医療費、介護費ともに増大します。2015年度の統計では15~44歳の人口1人あたりの国民医療費は12万円ほどですが、75歳以上は約93万円にものぼります(図2)。つまり、患者さんは増えるけれど、患者さんを支える人材や財源が減っていく社会が到来するのです。

─そうなるとどのような医療が求められるのでしょう。

堀本 これまでのようにすべての病気を完治させるというより、病気と共存しながら住み慣れた地域で安心して日常生活をできるだけ長く送れるようなシステムづくりが求められるようになるでしょう。

─そのシステムを具体的に教えてください。

堀本 患者さんが高度な医療を施す急性期病院に入院した場合、そこでは急性期の治療のみを受けて、できるだけ早期に退院して在宅療養に移行し、地元のかかりつけ医のもとで引き続き治療を受けるようにします。また、病状によってすぐにかかりつけ医に戻れない場合は、まず回復期病院へ転院し、在宅復帰を目的としたリハビリテーションを受け、その後に地元のかかりつけ医によって引き続き治療を受けます。このように地域の医療機関が連携し、在宅医療へのすみやかな移行を目指していく医療システムは、地域完結型医療ともよばれています(図3)。

─地域完結型医療を実現していくためには、どのような課題があるのでしょうか。

堀本 地域完結型医療では、在宅医療の充実が最も大切です。地域医療構想により病院から在宅へという流れが加速し、約30万人の在宅医療の需要が新たに発生します(図4)。加えて在宅医療を受けている患者さんの高齢化も進み、在宅医療需要は更に約100万人増えると試算されています。しかし、今後在宅医療を必要とする患者さんが増えてくるにもかかわらず、それに対応する在宅医療の担い手不足が指摘されています。また、病院の持っている病床機能の転換も必要になってきます。これについては病院経営に大きく影響しますので、スムーズに進むのかどうかはわかりません。

─今後、財源が減っていくということですが、増え続ける社会保障費の伸びを地域医療構想によって少しでも抑えることができるでしょうか。

堀本 まず、地域医療構想が策定通りに進んでいくかどうかが一つの大きなポイントになるでしょう。一方で地域医療構想は地域の医療を守ることが大前提であり、社会保障費を抑えることを必ずしも目標とするべきではないと思います。その上で在宅医療の担い手不足を解消することや、医療・介護ともに効率的でモラルのある運営を心がけることが大切ではないでしょうか。

【図1】日本の人口推移

【図2】年齢階級別一人当たり国民医療費

【図3】「病院完結型医療」から「地域完結型医療」へ

【図4】地域医療構想実現に向けた必要病床数の推計

兵庫県医師会医政研究委員
堀本医院院長
堀本 仁士 先生

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • 電気で駆けぬける、クーペ・スタイルのSUW|Kobe BMW
  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE
〈2018年8月号〉
KOBE DANDY NIKKE 1896 を着る|河野 忠友・岡崎 忠彦|NI…
レストラン プルミエ|神戸の粋な店
かけがえのない生命(いのち)をジュエリーで表現 『ギメルの四季』 Vol.12
これぞ大人のアメリカンドリーム スヌーピーのデザインホテル PEANUTS HO…
玉置さんの80歳を見てみたいね
猛スピードで変化する環境に適応し、さらに時代の一歩先を読む
連載 神戸秘話 ⑳ ラジオ放送復活の立役者 柴田邦江さん
ファンタジー・ディレクター 小山 進の考えたこと Vol.5
輝く女性Ⅱ Vol.3 大同門株式会社 代表取締役社長 フォーリー 淳子さん
“5つの幸せ”を願って!神戸マツダファンフェスタ2018開催!
マツダが目指すのは、「人間中心のクルマづくり」
創設者・グルームに思いをはせて111年前の服装で記念撮影 神戸ゴルフ倶楽部
有機農業で社会を変えるナチュラリズムファーム大皿一寿さんの挑戦!
思い出深い新開地で再び高座にのぼる喜び
体験しながら楽しく学ぶ「HANSHIN健康メッセ2018」8月24日(金)~26…
ウガンダにゴリラを訪ねて Vol.10
harmony(はーもにぃ) Vol.6 doing と being
音楽のあるまち♬10 ジャズはいつも人々を「動きたくさせる」音楽
今夏は“PNP”ではじけよう! ポートピアナイトプール2018(PORTOPIA…
期間限定のフォトジェニックなビアガーデン HOTEL KITANO CLUB|N…
神戸のカクシボタン 第五十六回 独創的な空間で心躍るひと時を…
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第八十六回
縁の下の力持ち 第2回 神戸大学医学部附属病院 放射線部
半世紀の里程標(マイルストーン)に築いた新社屋と未来への決意
健康は足元から!ゴムの技術で健康産業に貢献
おうちでできる〝絵本の学校〟をフェリシモと絵話塾が始めます
神戸鉄人伝 第104回 洋画家 松下 元夫(まつした もとお)さん
世界の民芸猫ざんまい 第三回
連載エッセイ/喫茶店の書斎から ㉗ マナイタの上で
おもしろ有馬楽「第8回 兆楽亭」|有馬歳時記