9月号
Power of music(音楽の力) 第21回
アンビエントミュージック
『ながらで愉しむ音楽の世界』
上松 明代
音楽には2つのタイプがある。腰を据えて【聴く音楽】と、軽く【聞こえる音楽】。そもそも、いつも語られるのは【聴く音楽】の方。そしてそれは、大きなテーマや伝えたいメッセージ、人の心に何かしら影響を与えたい、共鳴を促す想い(欲求)から人は音楽を創る。では、もう片方の音楽はどんなものだろう。
タイトルにある『アンビエントミュージック』とは、イギリスの作曲家、ブライアン・イーノが提唱した音楽のジャンルで「環境音楽」と和訳される。そう、これがまさに【聞こえる音楽】。聴くことを強制しない、主張しない、その場に空気のように漂う存在の音楽のこと。イーノは、「喫茶店での人の喋り声、エアコンのノイズ音、空港をはじめ、公共施設で響くアナウンスの声・・このような生活音と楽曲が交じり合い、初めてアンビエントミュージックは成立する」と考え制作する(彼は音楽プロデューサーとしてグラミー賞を受賞するなど、今も現役バリバリに活躍中)。
音楽の特徴は、いわゆる【聴く音楽】のように、イントロがあり、AメロBメロ、サビで盛り上がりエンディングという、楽曲の構造形式は成してはいない。楽器はシンセサイザーを用い、強弱のないシンプルで静かな音が、同じメロディーを心地良くリピートする。他に、人の声が響くもの、ロックテイストの強いもの、民族性に富むもの、多国籍な作風など様々だ。そしてその全てが、生活の邪魔をしない【聞こえる、ながら音楽】。で・・・詰まる所、どんな曲なのさ?
わかりやすいのは、リラクゼーション施設や岩盤浴などで流れている音楽。緊張がほぐれ、気分も効率も上がる、ながら音楽。ガッツリ聞かなくていい、寄り添ってくれる音楽もまた、いとおかし。
私のオススメは、イーノの『Thursday Afternoon』というアルバム。ジャスト60分の作品で、原稿を書く時や一つの作業のタイマー的役割として、また、考え事をしたい時など、ながら音楽として愉しんでいます。
上松明代(フルート奏者・作曲家)
武蔵野音楽大学卒業。ハンガリー国立リスト音楽院で2年間学ぶ。「時代を読み」「社会を知り」「テクノロジーを取り入れること」を念頭に、作曲・編曲を始め、ショートムービー制作も実験的に行う。六甲在住。趣味は読書、銭湯、現代アート。YouTubeにてオリジナル曲など公開中。オフィス Tempo.F 代表。
オフィシャルサイト http://akiyouematsu.com