10月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.59|神戸大学医学部附属病院 肝胆膵外科 福島 健司先生に聞きました。
―「肝胆膵」とは、それぞれにどんな役割を担っている臓器なのでしょうか。
体の中で最も大きな臓器「肝臓」は「化学工場」と言われ、食事から取り込んだものを栄養に変えて蓄えたり、体に入った有害物質を分解したり、血液を固めるために必要なたんぱく質を作ったり、脂肪の消化を助ける胆汁を作ったりと多くの役割を担っています。肝臓の中にある肝内胆管や、外にある総胆管などの胆管を通って、胆汁は十二指腸へ運ばれます。胆汁を一時的にためる袋状の臓器が「胆嚢」で、胆管と胆嚢を合わせて「胆道」と呼びます。胆嚢に石がたまり、痛みや炎症が出た場合は手術で摘出することがありますが、摘出後も胆汁は肝臓から腸へ流れ、多くの方はそれまでとほぼ変わらない生活を送ることができます。
肝臓・胆道の近く、体の奥の背中側にある細長い臓器が「膵臓」です。消化液である膵液を作り、膵管を通して十二指腸へ送り、たんぱく質や脂肪、炭水化物などの消化を助けます。また、血糖値を調整するインスリンなどのホルモンを作る役割も担っています。
肝臓、胆道、膵臓は胆汁や消化液の流れを通じて密接につながっているため、肝胆膵領域は全体を総合的に診ることが大切です。
―肝胆膵にはどんな疾患があるのですか。
神大病院で外科治療の対象となる疾患として最も多いのはがんです。肝臓では肝細胞がん、肝内胆管がんのほか、他の臓器から転移する転移性肝がんがあります。特に大腸がんの肝転移は、一定の条件を満たせば手術の効果が期待できます。その他の肝転移でも、がんの種類や広がりに応じて手術や抗がん剤治療などを検討します。膵臓では膵がん、胆道では胆管がん、胆嚢がん、十二指腸乳頭部がんなどがあります。胆管がんは比較的まれですが、できる場所によって手術の方法が異なり、高度な技術が必要ながんの一つです。その他、胆石症や胆嚢炎のほか、先天性胆道拡張症や膵・胆管合流異常など生まれつきの病気も治療対象です。また、内科的治療だけでは対応が難しい重症の急性膵炎で、外科的治療が必要な場合もあります。
―肝臓や膵臓は手術で全摘するのですか。
膵臓は全摘することもできますが、その後はインスリンや消化酵素を薬で補い、血糖や栄養を管理する必要があります。一方、肝臓の働きは薬では完全に補えず、すべて摘出したままでは生きていけません。健康な肝臓には高い再生能力があり、70%程度切除しても、残った肝臓が大きくなって機能を補える場合があります。しかし、B型・C型肝炎やアルコールの多飲などによる肝硬変、高度な脂肪肝などでは、肝機能や再生力が低下していることがあります。肝細胞がんはこうした傷んだ肝臓にできやすいため、肝機能を十分に調べ、安全に手術できるかを判断します。がんを取り切れても十分な肝機能を残せない場合は、ラジオ波焼灼術、カテーテル治療、放射線治療、抗がん剤治療などについて複数の診療科で相談し、患者さん一人ひとりに最適な方法を検討します。
―肝移植はどのような患者さんが適応となるのですか。
肝臓の機能が著しく低下し、内科的な治療を行っても回復が見込めず、そのままでは生命の維持が難しい場合に肝移植が検討されます。肝硬変が進行して黄疸や腹水、意識障害などを繰り返す状態や、急激に肝機能が失われる急性肝不全、また一部の先天的な代謝性肝疾患、一定の条件を満たす肝細胞がんなどが代表的な例です。傷んだ肝臓を取り出して、ドナーの方から提供された健康な肝臓を移植し、胆管、動脈、門脈、静脈などをつなぎます。肝移植には、脳死と判定された方から提供いただく脳死肝移植と、健康なご家族などから肝臓の一部を提供いただく生体肝移植があります。生体肝移植では健康なドナーの方に手術を受けていただくため、詳しく検査し、安全に提供することが難しいと判断した場合は、ドナーの安全を最優先して生体肝移植は行いません。
―膵臓の移植も同じですか。
膵臓は柔らかく、肝臓に比べると傷つきやすい臓器です。膵液は本来、十二指腸に流れて消化液として働きますが、本来ない場所に漏れると周囲の組織や血管を傷め、出血するなど非常に危険です。膵移植では患者さん自身の膵臓は残し、脳死と判定された方から提供された膵臓を十二指腸の一部とともに主に下腹部へ移植し、小腸とつなぎます。対象は膵がんや一般的な膵炎の患者さんではなく、適切なインスリン治療を行っても血糖値が極めて不安定で、重い低血糖発作などを繰り返す1型糖尿病の患者さんが主です。糖尿病による腎不全を伴う場合には、膵腎同時移植が行われます。移植した膵臓が十分に機能すれば、体内でインスリンが作られるようになり、インスリン注射が不要になることが期待できます。ただし、移植後は拒否反応を防ぐため免疫抑制薬の継続が必要で、「その後の治療が一切不要」という意味での完治とは異なります。
―開腹手術が行われているのですか。
移植に関しては開腹手術です。その他の手術では、状態や病気の進行度に応じて、身体への負担が少ない腹腔鏡手術やロボット支援手術を積極的に検討します。肝胆膵領域でも鏡視下手術の適応は広がっており、神大病院でも安全性を重視しながら幅広く導入しています。
―肝臓や膵臓のがんはなぜ早期発見が難しいのですか。
肝臓では初期に痛みなどの症状が出にくく、「沈黙の臓器」と呼ばれています。膵臓も奥深くにあり、胃や腸のガスの影響で通常の腹部超音波検査では全体が見えにくいことがあります。小さいうちから周囲へ広がることがある膵がんは特に早期発見が難しいとされ、糖尿病を新たに発症したり、健診などでヘモグロビンA1cが急に上昇したりすることが発見のきっかけになることもあります。腰痛や背中の痛み、黄疸、食欲低下、体重減少などが現れることがありますが、がん特有の症状とは限りません。
―肝胆膵のがんに特化した検診はないのですか。
一般の方を一律に対象とし、有効性が確立した肝胆膵がんの検診は現時点ではありません。そのため、肝炎や肝硬変、膵嚢胞、慢性膵炎、糖尿病などを指摘されている方は、症状がなくても必要な検査を継続することが大切です。神戸大学病院では、CT、MRI、超音波内視鏡などを病状に応じて組み合わせて診断しています。異常を指摘された場合や、気になる変化が続く場合は早めに専門医に相談していただきたいと思います。
福島先生にしつもん
Q.福島先生が医学の道を志されたきっかけは?
A.子どものころ、病院で医師に診てもらい説明を聞くことで、不安が安心に変わったことをよく覚えています。医師は病気を治すだけでなく、患者さんやご家族に安心を与えられる存在だと感じ、医師という仕事に憧れるようになりました。
Q.なぜ肝胆膵外科を専門にされたのですか。
A.手術によって病気を直接取り除き、患者さんの回復につなげられる外科、中でも重要な血管が集まる複雑な領域を扱うため、緻密な判断と高度な技術を求められる肝胆膵外科に魅力を感じました。また、肝胆膵外科の研修で難しい仕事をこなし、チームをまとめながら患者さんを支えている先輩医師たちに出会い、自分もこんな外科医になりたいと強く思いました。
Q.患者さんに接するにあたって日頃から心掛けておられることは?
A.治療への希望や不安は患者さん一人ひとり異なります。まずお話をよく伺うよう心がけ、説明はできるだけ分かりやすい言葉を使い、治療の効果だけでなく、リスクや他の選択肢についてもお伝えして、患者さんやご家族に十分に理解していただいたうえで、相談しながら治療方針を考えることが大切だと思っています。
Q.学生さんや後進の先生方を指導するうえで心掛けておられることは?
A.分からないことを安心して質問でき、努力をきちんと見てもらえて、可能なときには仕事を任せてもらえることなど、自分が学生や若手医師だったころ、先輩にしてもらってうれしかったことや、してほしかったことをいつも思い返しています。一方的に知識や技術を教えるのではなく、相手の立場や経験に合わせて一緒に考える姿勢を心掛けています。
Q.ご自身のリフレッシュ法や健康法があれば教えてください。
A.特別な健康法はありませんが、時間があるときにはランニングをしたり、休日には家族と出かけたりしています。体を動かすことや、家族とゆっくり過ごす時間が、よいリフレッシュになっています。












