4月号

神戸で始まって 神戸で終る 70 ~アートか?デザインか? どっちだっていいのです~
現在ドイツ・ベルリンで開催されている『横尾忠則 ポスターアート展』が好評で、開催期間の延長が決定しました。並んでいるのはデザイナー時代から昨年まで、60年以上にわたって描かれた作品です。画家とデザイナー。ふたつの職業について聞いてみました。
「YOKOOはペインター(画家)なのか?デザイナーなのか?」
という疑問にならない疑問を、画家に転向して何年目位からか海外でも囁かれ始めました。今日の知性は常に白黒を付けたがります。この疑問は、ヨーロッパよりもアメリカの方が強く感じています。
アンディ・ウォーホルは、ペインターになる以前は、グラフィックデザイナー、イラストレーターとして僕と同業者でした。そんなウォーホルは、ハリウッドの社交界に入るためにはデザイナーよりペインターになるべきだと時代を察知して、いち早くペインターに転向しました。しかし未だにニューヨークの美術界では、「ウォーホルはグラフィックの人」として美術界との間に一線を引かれています。
その証拠に、ジャスパー・ジョーンズやロバート・ラウシェンバーグやサイ・トゥオンブリーやフランク・ステラのように、MoMA(ニューヨーク近代美術館)で何度も個展を開いたアーティストとは区別されて、ウォーホルは一度もMoMAで個展の経験はありませんでした。ミスター・ポップアートと呼ばれるように、アメリカだけではなく、世界のアートシーンの現代美術家で、ウォーホルほど有名なアーティストはいません。
そんなMoMAではかつて、純粋芸術とコマーシャルアートを分けて対比する展覧会『HIGH&LOW』を開いています。この展覧会は、時代の流れと共に表現が渾然一体化した時代を象徴する展覧会だったと思います。しかし、アメリカの美術界には、デザインを美術のカテゴリーには絶対に入れたくないという厳然たる態度が残っています。その証拠として、両者の人間的交流は全くといっていいほど、排除されています。
ところが、アンディ・ウォーホルが死ぬと同時に、MoMAとフランスのポンピドー(ポンピドー・センター)が、あれほど頑なに排除していたウォーホルの回顧展を開催しました。つまり、ウォーホルの生存中は彼を喜ばせたくなかったのです。しかし彼の死と同時の展覧会は、商業的には大成功するだろうと彼等は判断して、ウォーホルの回顧展を開催したのではないかと疑わざるを得ません。その根底にあるのは、ウォーホルのデザインをアートの世界に受け入れたくなかったということではないでしょうか。まぁ一種のジェラシーが働いたといっても間違いではないように思います。
今日ほど世界が多様化した時代はなく、ありとあらゆる表現が許され、可能な時代はないと思うのですが、アートとデザインの二つを分別する意識は、完全に封建的感覚のままです。
ロートレックの展覧会や作品集には、必ず彼の絵画作品と並べて、彼のムーラン・ルージュなどの催事のポスターが大きく、何度も掲載されています。ここでは、アートとデザインが分別されていません。ロートレックの生きた時代には、純粋芸術と大衆芸術という区別はありませんでした。ロートレックのデザインと絵画にあるのは、ただ表現技術の違いだけです。勿論、この両者を分けて論じる評論もありませんでした。
僕がやっていることはロートレックと同じです。21世紀のロートレック(笑)です。何がおかしいですか。
今日の美術界は、『HIGH&LOW』などとスローガンを掲げながら、なぜか全く別の方向を向いています。でもアメリカのバーバラ・クルーガーのように、アートの世界にデザインそのものの作品を持ち込んでもいます。ここには商業的スローガンではなく、社会的スローガンのメッセージが書かれています。表現はデザインそのものですが、この作品のコンセプトがアートであるという意識で、アートとして評価されているのです。つまり、われわれはいつの間にか、作品を目で眺めることから、作品を頭で考える方向に変化して、そのためにデザインがアートに変換されたわけです。
そこで僕は、自分の作品に戻ります。
「アートか?デザインか?」
という実にくだらないことに関心が向いている「時代」のこの世界で、僕はどっちだっていいのです。アート、デザインを越えて、自分も越えたい、と思っている僕の意識と今日の美術界の意識は、あまりにもズレているように思います。つまり、僕は意味とか目的から自由になりたいと思っているだけです。しかし今日の芸術全般においては、意味と目的という大義名分に操られています。
「画家とデザイナー」というテーマには、なんとなくお答えできたかなと思います。ではこの辺で。

吉田カバン90周年記念(株式会社吉田)2025年

ほぼ日マンガ部(株式会社ほぼ日)2026年

NAOKI TAKIZAWA DESIGN INC(NAOKI TAKIZAWA DESIGN)2026年

約1,000点収録の全ポスター集「The Complete Posters of Tadanori Yokoo from
1953-Today」© hesign 2025年
70年以上にわたるポスター創作の軌跡を完全収録した作品集。それぞれの作品が当時の文化と芸術の精神を体現し、横尾さんの視覚言語の探求と作風の進化を辿っています。

撮影:横浪 修
美術家 横尾 忠則
1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、東京都名誉都民顕彰、日本芸術院会員。著書に小説『ぶるうらんど』(泉鏡花文学賞)、『言葉を離れる』(講談社エッセイ賞)、小説『原郷の森』ほか多数。2023年文化功労者に選ばれる。
横尾忠則現代美術館では
『大横尾辞苑 これであなたもヨコオ博士!?』
開催中!
横尾忠則現代美術館












