3月号
連載 教えて 多田先生! ニュートリノと宇宙のはじまり|〜第33回〜
〜第33回〜「重力と質量」
自然界で最も大きな存在が宇宙、そして最も小さな存在が素粒子と考えられている。素粒子を研究することで、宇宙のはじまり、人間の存在を解明する︱―
日本の誇りをかけて、その最前線で日々研究に打ち込む素粒子物理学者・多田将先生。
謎に包まれた宇宙について多田先生に教えていただきます。
さあ、授業のはじまりです!
高エネルギー加速器研究機構の多田と申します。
これまで、第3回から第10回まではニュートリノと物質の起源について、第11回から第22回まではビッグバンについて、第23回から第32回までは暗黒物質について、それぞれお話ししてきました。つまり第11回から第32回までは宇宙の話だったのですが、そこで常に中心的役割を果たしてきたものがあります。それは重力です。これまでお話しした通り、重力は宇宙を支配する力です。今回からは、その重力についてお話ししてまいりましょう。その中で、重力のもっとも極端なあらわれかたであるブラック・ホールや、多くの人が一度は欲しくなったであろうタイム・マシーンについてもお話ししていきます。
今回はそのテーマの最初として、「重力と質量」について考えてみることとしましょう。重力はわれわれにとってもっとも身近な力です。重い荷物を持っているときや、疲れているのに階段を上らなければならないときなど、嫌というほど重力を感じることでしょう。
第16回で、力と「チャージ(荷量)」についてお話ししました。力は、どんなものにも働くのではなく、その力ごとに決まっているチャージに対してだけかかり、そのチャージの大きさに力の大きさが比例する、ということでした。たとえば電磁力であれば、チャージは電荷で、電荷量に比例して電磁力がかかります。そして、電荷にはプラスとマイナスの二種類があるので、それに応じて電磁力にも「引き合う」向きと「反発し合う」向きの二つの向きがあります。重力の場合、チャージは質量です。質量にはプラスしかありませんので、重力はすべてが引き合う向きに働きます。そして、質量の大きさに比例して重力がかかることは、さきほどの「重い荷物を持つ」例でも、みなさんが体感できることです。逆に「質量」を主語にして言い換えると、「質量」とは、重力が作用するチャージであって、その大きさに比例して重力がかかります。
実は、質量を直接測ることはできなくて、重力の大きさを測ることで間接的に質量を求めています。ばねを使った秤などはわかりやすい例ですが、分銅などを使った天秤などもそうなのです。どれくらいの重力がかかるのかあらかじめわかっている分銅を天秤の片方に載せ、反対側に測定したい物体を載せ、天秤の両側にかかる重力のバランスをとっているのに過ぎません。結局これは、重力と質量を一体的に考えているから成り立っているのです。
このような質量を「重力質量」と言います(図上)。
ここで、ちょっと不思議に思われた方がおられたなら、その方は科学を学ぶのに向いています。質量というのは一種類しかないはずなのに、なぜ、わざわざ「重力~」とつけて呼ぶのか。それは、実はもうひとつの質量の考え方があるからです。そしてそれは、この連載をずっと読んでくださっている方なら、ご覧になられたはずです。
ヒッグス粒子についてお話しした第17回で、「質量とは、物体の動きにくさを表わした量だ」と述べました。それを表現した数式が、運動方程式である、と。このような質量を「慣性質量」と言います(図下)。さきほどの「重力質量」が、重力を用いて測定されていたように、この「慣性質量」を、その「動きにくさ」から測定する方法もあります。たとえば、われわれが扱う素粒子の質量の測定の仕方です。素粒子はあまりに小さいため、その重力もきわめて小さく、それを測定することはまず無理です。そこで、たとえば磁場の中でその素粒子の軌道を曲げ、その曲がり方(軌道半径)を測定することで質量を求めます。質量が大きいほど曲がりにくいため、その軌道半径が質量に比例するからです。
実は、この重力質量も、慣性質量も、同じ人物、サー=アイザック=ニュートンが考え出したものなのです。ニュートンは重力を発見(数式化)した偉大な物理学者ですが、同時に運動の法則も発見しました。前者が重力質量を数式化し、後者が慣性質量を数式化したものです。
さぁ、質量とひと口に言っても、二つの違った量が出てきてしまいました。いったいどうするべきでしょうか。今から一〇〇年前、その重力の問題に真向から取り組んだ物理学者がいました。それは、人類史上もっとも有名な物理学者であり、この連載でもまるで主人公のように度々登場した物理学者です。
彼の名は、アルベルト=アインシュタイン。
彼は、「重力質量と慣性質量は同じものである」ということを開始地点として、重力に関する様々な物理現象の謎を解き明かしていきました。今回からの重力に関する連載は、彼が築き上げたその業績とともに、話を進めていくこととしましょう。

PROFILE 多田 将 (ただ しょう)
1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。












