2025年
11月号

【スペシャルインタビュー】『15年ぶりの映画復帰の舞台は淡路島… 〝再始動〟に挑む熱き心意気』

カテゴリ:文化・芸術・音楽

女優 菊川 怜さん

 15年ぶりに映画の世界へ帰ってきた。「久々に撮影現場に立った感想ですか?映画の現場は本当に楽しくて、とてもワクワクします。やっぱり私はこの仕事が大好きなのだと思いました」と語る表情は溌溂として朗らか。長いブランクは感じさせない。〝銀幕女優〟の自信あふれる顔に戻っていた。主演映画の復帰の舞台は兵庫県・淡路島。10月10日から全国で一斉に公開される映画『種まく旅人~醪(もろみ)のささやき~』で映画界へカムバックを果たした菊川怜に〝女優再始動〟に懸ける思いを聞いた。

初の役どころへ〝体当たり〟の挑戦
「これまで、医師や弁護士、学校の先生など様々な役を演じてきましたが、今回は初めて挑む役。それも、ちょっとこれまでとは趣が違って、戸惑いもありました」
こう語る初挑戦となる役とは農林水産省のキャリアだ。
久々の映画出演。それも主演の大役を背負った役作り。「どんな思いで現場に立ったのか?」と問うと、笑顔を弾かせながらこう答えた。
「〝キャリアとして働く女性〟というよりも、〝日本酒をこよなく愛する女性〟という部分を〝一点突破〟で演じてみようと決めました。実は、私も日本酒やワインなど、お酒がとても好きなんです」
伝統的な日本酒造りを続けてきた淡路島の老舗の酒蔵に、農林水産省の地域調査官、神崎理恵(菊川怜)が訪ねてくる。酒蔵の5代目、孝之(金子隼也)は酒造りについて熱心に説明するが、4代目蔵元の松元(升毅)は、東京から、突然やって来た理恵に対し素っ気ない。だが、日本酒好きの理恵は作業着姿に着替え、蔵人のなかへ飛び込んでいく…。
「撮影が始まる前に、日本酒造りのビデオや資料などを見て、その工程などを事前に勉強しました。でも、実際に酒蔵に行って、その製法を目の当たりにして感動しました。直に接する、お米の匂いや食感などはやはり違うなと」
劇中で、理恵が蒸したばかりの米に触れたり、口にする場面などが描かれる。
「あのシーンは特に印象に残っています。何とも言えない良い香りで、蒸したお米はとてもおいしくて…。現場でも特に力を入れて撮影した場面なんですよ」
日本酒造りの行程のなかでも〝肝〟となる重要なシーン。その魅力を映像で伝えるためにも、「〝渾身のカット〟だった」ことを教えてくれた。
この撮影中、篠原哲雄監督の強い思い入れがカメラの横からもひしひしと伝わってきたと言い、「とても印象に残る、私の大好きな場面になりました」とも。

淡路島での撮影
代々伝わる淡路島の老舗蔵元を借り切っての撮影だった。
「実際の酒造りは冬に行われますが、蔵元を借りるために、映画の撮影が行われたのは昨年の9月です。職人たちが住み込みで働く部屋なども借りての撮影でした」
近年の日本の夏は酷暑が続いている。
「昨年の淡路島も猛暑でした。蒸したお米などを使うので、室内は40度を超えていました」と振り返る。
「撮影スケジュールはびっしりと詰まっていて、撮影の合間も台詞覚えなどに忙しく、ほとんど島内を周ることはできなくて…。ロケ撮影での楽みのひとつが、その土地の郷土料理を食べること。でも、今回の撮影中は3食とも〝ロケ弁当〟という日も多く…」と悔しがった。
ただ、「それでも何とか忙しいスケジュールの合間を縫って、近くの道の駅へ行ったり、地元のお店で郷土料理を味わうこともできました」と笑顔で振り返った。
今作は、2012年から続く「種まく旅人」シリーズの通算5作目となる作品だった。
「映画を通して第一次産業の素晴らしさや豊かさを伝えていきたい」という願いを込めて始まった、現在まで13年続く企画。
1作目『種まく旅人~みのりの茶~』は大分県臼杵市が舞台で、メガホンを執ったのは、このシリーズの発案者であり、ハリウッド俳優などとしても活躍した塩屋俊監督だった。
シリーズ化を構想した塩屋監督による念願の企画が、ようやくスタートするも、公開翌年の2013年、塩屋監督は56歳の若さで急逝する。

淡路島の老舗酒蔵に飛び込み、日本酒造りを学ぶ理恵役の菊川怜(写真中央)

升毅演じる蔵元4代目、松元(写真左)と、菊川怜演じる理恵(同右)は伝統の酒蔵を守ることができるのか…

農水省キャリアの理恵(菊川怜)は単身、東京から淡路島の酒蔵を訪れる

悪役への挑戦も?
「〝日本の食文化の魅力を伝えよう〟という思いから生まれたシリーズ5作目の主演に抜擢されたことは、とても光栄で、その責任の重さも感じています」
そう語る菊川の目に自然と力がこもった。
『種まく旅人』シリーズの続編も気になるところだ。
農林水産省の地域調査官、神崎理恵が〝渡り鳥〟のように、全国の食文化を応援するために、日本各地を旅していく…。
そんな続編はどうでしょうか?
こう向けると、「いいですねえ、チャンスをいただけるのなら、ぜひ、やってみたいですね」と意欲を見せた。
昨年、テレビドラマに8年ぶりに出演を果たし、それに続く15年ぶりの映画主演。
再開した女優業への今後の抱負について聞くと、「依頼があれば、どんな役にも挑戦していきたいと思っています。撮影現場が好きなんです」と語るので、「では、どんな役に挑戦を?」と問うと、「悪役を演じてみたいです」と即答が返ってきた。
「見た目では、そうとは分からないような悪役がいいですね」とニヤリとしたたかな笑みを浮かべながら…。
充電期間を終え、よりたくましさを秘め、「大好きな映画の撮影現場」へ鮮やかに舞い戻ってきた。酒蔵に体当たりで飛び込むヒロインのように。

「将来?まだ演じたことのない悪役に挑戦したい」と話す菊川怜さん

文・戸津井康之
撮影・黒川勇人

『種まく旅人~醪(もろみ)のささやき~』
監督:篠原哲雄
出演:菊川怜
金子隼也 清水くるみ 朝井大智
山口いづみ たかお鷹 白石加代子
升毅 永島敏行
製作:北川オフィス
制作プロダクション:エネット
配給:アークエンタテインメント
協力:兵庫県淡路市 千年酒造
© 2025「種まく旅人」北川オフィス
2025年10月11日(土)、元町映画館ほか、全国公開
公式ホームページ

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • DISCOVER BMW. ようこそ、BMWの走りへ|Kobe BMW
  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE
〈2025年11月号〉
ゴンチャロフ製菓|洋菓子[KOBECCO Selection]
風に吹かれた 手紙のように|松本 隆|~京都から・後編~
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.60 俳優・作…
6通のブルックリンからの手紙|大江千里|6通目|「お弁当の子、箴言の子〜神戸での…
神戸で花開いた洋食文化 神戸の洋食、こぼれ話
秋のフードイベントに出店「神戸の洋食」ブースで夢のコラボメニューを!
【スペシャルインタビュー】『15年ぶりの映画復帰の舞台は淡路島… 〝再始動〟に挑…
秋色に染まる相楽園&トアロード特集
相楽園パーラー |「相楽園」の魅力を世界に発信!
マキシン |「相楽園」の魅力を世界に発信!
トアロードデリカテッセン |「相楽園」の魅力を世界に発信!
神戸北野ノスタ |「相楽園」の魅力を世界に発信!
ジーライオングループが展開するNEWショップ&メニューが間違いない!
建築構造 インサイト|Chapter 1 平尾工務店神戸東モデルハウス
㊎柴田音吉洋服店|ハンドメイドビスポークテーラー[KOBECCO Selecti…
フラウコウベ|ジュエリー&アクセサリー[KOBECCO Selecti…
L’AVENUE|パティスリー[KOBECCO Selection]…
マイスター大学堂|メガネ[KOBECCO Selection]
マキシン|帽子専門店[KOBECCO Selection]
STUDIO KIICHI|革小物[KOBECCO Selection]
亀井堂総本店|瓦せんべい[KOBECCO Selection]
御菓子司 常盤堂|和菓子[KOBECCO Selection]
永田良介商店|オーダーメイド家具[KOBECCO Selection]
ボックサン|神戸洋藝菓子[KOBECCO Selection]
神戸御影メゾンデコール|オートクチュールインテリア[KOBECCO Select…
アレックス|トータルビューティーサロン[KOBECCO Selection]
トアロードデリカテッセン|デリカ[KOBECCO Selection]
domani|今、そしてこれからの日本の家具に必要なタイムレスクオリティ
美しきかな ひょうごの文化財|海に向かい壮大なスケールで築造された前方後円墳|第…
ビフテキのカワムラで〝本物〟の神戸ビーフを心ゆくまで
スーパーストリングスコーベ 第8回定期公演 ~魅せる~
連載 教えて 多田先生! 素粒子物理学者の宇宙物理学教室|〜第29回〜
第14回KOBE豚饅サミット® 2025|11/10(月)~11/16(日)
KOBE AUTUMN FESTIVAL 2025
出待ちしてもいいですか?|第11回|カラフルパーティー in EXPO 大阪・関…
みんなが同じ目標に向かって突き進むなかで、生まれる関係構築はJCならでは|神戸J…
JC活動を通して、相手の立場に立ち、考えることができるようになった|神戸JCに魅…
ひょうご神戸まちかど学だより|『文化と風土の歴史学』|兵庫県芸術文化協会
今月の映画
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」第170回
神大病院の魅力はココだ!Vol.48 神戸大学医学部附属病院 救命救急科 大島 …
出会いと学びの旅から Vol.23
神戸のカクシボタン 第143回  地元にまつわる妖怪・UMA・生物の謎を探る!!…
連載エッセイ/喫茶店の書斎から 114  車椅子の詩人
有馬温泉歴史人物帖 ~其の参拾弐~ 木下 利玄(きのした りげん) 1886~1…
ベトナム元気X躍動するアジア 第23回|在留外国人の動向―多文化共生社会に向けて…
神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~ (67)前編 山田風太郎