2023年
10月号
横尾忠則 《2022-09-27》 2022年

神戸で始まって 神戸で終る〈特別編〉

カテゴリ:文化・芸術・音楽, 文化人, 神戸

展覧会『横尾忠則 寒山百得』展

横尾忠則さんの最新シリーズ『寒山拾得』初公開の展覧会、『横尾忠則 寒山百得』展が、東京国立博物館表慶館にて始まりました。その奇行ぶりから「風狂」ととらえられ、古くから画題となった寒山と拾得。2人の僧が横尾さんの指先から生まれ、会場を遊びまわります。
今月は本展覧会に際し、作家である横尾さんのお話に加え、展覧会を企画された東京国立博物館 研究員の松嶋雅人さんよりご寄稿いただきました。

1年がかりで102点。東京国立博物館で『寒山百得』展と題して、9月12日からオープンしました。全作新作というのは初めての経験。その間、急性心筋梗塞で心臓のカテーテル手術で命拾い。それがかえって健康を取り戻すことになって、馬鹿みたいに描きまくりました。アーティストではなく、アスリートに変身して、「考えない」絵画に挑戦。考えるところから出発する絵画に対して、考えない絵画の実践です。
考えないことによって頭脳の支配から解放され、肉体的になれました。それを僕は肉体脳と呼んでいます。つまり指先に脳を移動させるのです。頭空っぽになることによって、より自由になれます。寒山拾得という唐の風狂の僧は正に超越した自由人です。その寒山拾得にあやかるためには、脳の支配から、自由になるべきです。じっくり考えて描くことから、瞬間芸に変えて、投手が投げてくる球を無心にバットで打ちます。その瞬間は頭の中は空っぽです。絵もこれでいいのです。とはいっても、大方の画家は考えます。時には考え過ぎて、悩んだり苦しんだりします。寒山拾得は一日中、いや生涯、バットを振ってきた人です。だから完全な自由です。死をも超克しています。自由と死は、一体のものかもしれません。死の認識があって、死を越えて自由になるのです。
ですから僕の絵には、見えないように、わからないように、絵の中に死のメタファーを隠し描きしています。完全な自由を獲得するためには、死を見つめる必要があります。死を陰惨に語るのではなく、明るく語るのです。ラテン的に死を遊ぶのです。関西人の気質の中には、このラテンの血が流れています。今年の18年振りの阪神タイガースの「アレ」(優勝)騒ぎでは、正にラテン系的資質があります。寒山拾得はラテン人です!!関西人は、寒山拾得のDNAを内蔵しています。いずれこの展覧会は、神戸の横尾忠則現代美術館に巡回される予定ですが、その前に是非、東京国立博物館の『寒山拾得』展をご覧いただきたいと思います。

横尾忠則 《2022-10-20》 2022年

横尾忠則 《2022-09-27》 2022年


撮影:山田 ミユキ

美術家 横尾 忠則

1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、東京都名誉都民顕彰、日本芸術院会員。著書に小説『ぶるうらんど』(泉鏡花文学賞)、『言葉を離れる』(講談社エッセイ賞)、小説『原郷の森』ほか多数。横尾忠則現代美術館にて9月16日(土)より「Yokoo in Wonderland―横尾忠則の不思議の国」開催。12月24日(日)まで。

横尾忠則現代美術館
https://ytmoca.jp/

「横尾忠則 寒山百得」展

松嶋雅人(東京国立博物館)
御年87歳の現代美術家・横尾忠則が1年ほどで、畢生の大シリーズ「寒山拾得」の新作未公開の102枚を描き上げた。横尾は2019年から「寒山拾得」をテーマにした作品を描きはじめたが、本展は2021年9月から2023年6月までに制作された。ときには1日3枚という驚異的なスピードで描かれたものもある。
「寒山拾得」とは中国・唐時代に生きたという詩をよくした二人の禅僧で、現代に遺る詩集「寒山子詩集」の序文によってその人となりが知られる。寒山はボサボサの頭でボロボロの衣をまとい、人が分からない言葉を話す。寒山は寺でまかないの仕事をしている拾得から残飯をもらっていたという。詩を詠むなど、高い教養を持ちながら、いつも三日月のような目と口で奇妙な笑いを浮かべている。寒山拾得の行動は常軌を逸し、世俗にとらわれない。二人の超俗的な振る舞いは「風狂」として捉えられて仏教、とくに禅宗の中で尊ばれた。そして絵の画題として数多く描かれるようになった。日本でも、鎌倉時代から近代にいたるまで、多くの作品が表わされた。
横尾はこの「寒山拾得」をテーマにして、寒山が手にする巻物をトイレットペーパーに、拾得の持つ箒を掃除機にするなど、現代的な事物にメタモルフォーゼさせるなど、寒山拾得の一切の拘りのない精神の如く、キャンバスに筆を揮った。ときに箒で空を飛ぶ寒山拾得が現れ、メジャーリーグベースボールやワールドカップサッカーの時事も登場する。さらには過去の著名人やロビンソン・クルーソー、アルセーヌ・ルパンといった架空の人物たちも自由奔放に、そして縦横無尽にあらゆる形象が画面に現れてくる。
横尾は難聴に悩まされ、精神状態が朦朧となり足腰は弱まり、腱鞘炎で筆を持つ手もままならない。まさに「不自由」といえる肉体的状況のもとで、「朦朧体」というスタイルを生み出して、アスリートのように寒山拾得を描き出した。それらは明るい色調のものが多く、強い輪郭線は影をひそめ、画面の背景とモティーフが渾然一体となっている。それはオーソドックスな絵画技法の縛りからも解放されたかのようだ。日々描き続けられた横尾の描いた本展の百面相のような「寒山拾得」を目にすることで、体に力と熱がみなぎり、観る人の精神は何ものにも縛られない「自由」という精神を実感できることだろう。

横尾忠則《2022-07-03》 2022年



展覧会公式サイト


月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • 電気で駆けぬける、クーペ・スタイルのSUW|Kobe BMW
  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE
〈2023年10月号〉
トアロードデリカテッセン|デリカ[KOBECCO Selection]
STUDIO KIICHI|革小物[KOBECCO Selection インスタ…
il Quadrifoglio(クアドリフォリオ)|ビスポークシューズ[KOBE…
KOBECCO お店訪問|BRASSERIE L‘OBABON ブラッスリー ロ…
マダム・チェリーのpetit bonheurちいさなしあわせ
Movie and CARS|インディアン・スカウト
竹中大工道具館 邂逅―時空を超えて|第一回|祈りのかたち ―建築儀式とその道具 …
神戸で始まって 神戸で終る〈特別編〉
風に吹かれた手紙のように|松本 隆|Vol.11
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.35 俳優 堀…
舞台に立つことは初心にかえること。今の自分を知ることができる大事な場所。
連載 教えて 多田先生! ニュートリノと宇宙のはじまり|〜第4回〜
御菓子司 常盤堂|和菓子[KOBECCO Selection]
マイスター大学堂|メガネ[KOBECCO Selection]
フラウコウベ|ジュエリー&アクセサリー[KOBECCO Selecti…
永田良介商店|オーダーメイド家具[KOBECCO Selection]
L’AVENUE|パティスリー[KOBECCO Selection]…
マキシン|帽子専門店[KOBECCO Selection]
il Quadrifoglio(クアドリフォリオ)|ビスポークシューズ[KOBE…
㊎柴田音吉洋服店|ハンドメイド ビスポークテーラー[KOBECCO Select…
ボックサン|神戸洋藝菓子[KOBECCO Selection]
アレックス|トータルビューティーサロン[KOBECCO Selection]
STUDIO KIICHI|革小物[KOBECCO Selection]
神戸御影メゾンデコール|オートクチュールインテリア[KOBECCO Select…
亀井堂総本店|瓦せんべい[KOBECCO Selection]
ガゼボ|インテリアショップ[KOBECCO Selection]
ゴンチャロフ製菓|洋菓子[KOBECCO Selection]
名靴図鑑 生涯愛せる靴|ビスポークブランド SPIGOLA|004 ソフィスティ…
今月の表紙
未来を駆ける神戸の新風 VOL.5|もはやアパレル企業と思うなかれ! “門外不出…
語るように歌う。歌うように語る。そんなシャンソンに憧れて。|歌手 クミコ さん
ビアンヴニュ・大下さんと歩くKOBECCO パンさんぽ|Vol. 09 ぱんのお…
早逝の女流作家 久坂葉子はとまらない|vol.3「灰色の記憶」とふたつの事件
映画をかんがえる | vol.31 | 井筒 和幸
ビフテキのカワムラで 〝本物〟の神戸ビーフを 心ゆくまで
HYOGO産を世界に発信するPROJECT神戸アパレル×皮革(KOBE LEAT…
特集|新しい有馬|扉
六甲ミーツ・アート芸術散歩2023 beyondROKKO森の音ミュージアムほか…
世界最大規模のシーフードレストラン「レッドロブスター須磨海浜公園店」9月1日にオ…
浜芦屋ヒストリック 芦屋の祖型を見る|扉
HOTEL ALGO (オテル アルゴ)|2023年 4月 OPEN|特集-新し…
Sora Café (ソラ カフェ)|2021年 11月 OPEN| 特集-新し…
有馬山叢 御所別墅(ありまさんそう ごしょべっしょ)| 特集-新しい有馬
La Fontine(ラ・フォンテーヌ)|2023年 8月 リニューアル| 特集…
ARIMA BREWERY(アリマ ブリュワリー)|2022年 11月 OPEN…
有馬禅寿司|2019年 4月 OPEN|特集-新しい有馬
Hacco restaurant enn(はっこうレストラン えん)|特集-新し…
有馬グランドホテル 心陽(こはる)|2023年 8月 新発売|特集-新しい有馬
川上商店 本店 |秋限定 販売|特集-新しい有馬
吉高屋(よしたかや)|2023年 新発売|特集-新しい有馬
ARI MARCHE(アリ マルシェ)|2023年 新発売|特集-新しい有馬
第一部 浜芦屋の歴史
第二部 浜芦屋ゆかりの人たち
松林に抱かれたコートで 「一日を短く、人生を長く」|芦屋国際ローンテニスクラブ …
有馬温泉歴史人物帖 〜其の七〜 少彦名命(すくなひこなのみこと) 生没年不詳(神…
『廻船問屋の中ぼんさん』刊行記念の催し 「阪神間の近代と商家の生活」を開催
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第147回
Kiss PRESS×KOBECCO|垂水(たるみ)駅周辺ぶらり旅
神大病院の魅力はココだ! Vol.25 神戸大学医学部附属病院 歯科口腔外科 長…
harmony(はーもにぃ)Vol.68 ユーモアとは“にもかかわらず 笑うこと…
連載コラム 「球友再会」 |Vol.8
神戸のカクシボタン 第118回 地元スポーツの魅力を伝える産学連携プロジェクト『…
KOBECCOオススメ 〜CINEMA〜
連載エッセイ/喫茶店の書斎から89 青春の詩人・竹内浩三
神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~㊷後編 加藤文太郎
環境に適応して美しく咲く花のように|平尾工務店