12月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第六十七回
地域包括ケアシステムと地元医師会の取り組み
─地域包括ケアシステムとはどのようなものですか。
中川 地域包括ケアシステムとは、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度の要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・住まい・予防・生活支援が一体的に提供される仕組みを意味します(図1)。「高齢者よろず相談所」ともいえる地域包括支援センターがシステムの核として置かれ、地域支援事業による介護予防ケアマネジメント、地域における多職種によるネットワークの形成、総合相談、虐待対応等の権利擁護などの業務を、主任ケアマネジャー・社会福祉士・保健師などのスタッフが担っています(図2)。また、チームケアの支援を目的とした「地域ケア会議」が設置され、医師やケアマネジャー、サービス事業者などが一同に会して、多職種の第三者による専門的な視点も交えて個々の要介護者のケア方針を検討すると同時に情報交換をおこなっています。
─地域包括ケアはいつ頃はじまったのですか。
中川 実は「地域包括ケア」は必ずしも新しい概念ではなく、かねてから「全人的ケア」や「コミュニティーケア」などともいわれ、地域において医療と福祉が総合的に提供されるシステムを意味していました。昭和50年代にはすでに広島県御調町(現在尾道市)の公立みつぎ総合病院の山口昇医師が、脳卒中患者のケアは専門家だけではなく地域ぐるみや住民参加で展開していかなくてはならないとして、「地域包括ケア」という言葉を使用していました。2008年度、老人保健健康増進事業による「地域包括ケア研究会」の報告書で地域包括ケアは明確に定義され、2011年には法律上も位置づけられて、2012年をもって「地域包括ケア元年」ということになります。
─医師や医師会はシステムの中でどのような役割を果たしていますか。
中川 「かかりつけ医」は認知症の方や家族の生活をサポートするため、地域包括支援センターの所在、担当者、基本的な機能を把握し、医療に留まらずその機能を通じて必要な資源につなげることが求められています。また、介護予防や認知症患者さんの治療継続において、多職種協働マネジメントでの必要な助言を行うこともかかりつけ医に期待される役割です。個々の患者さんに対する「医療を軸」とした院内や在宅での「ケアカンファランス」の開催は、これまでの治療と同じくらい重要な「新たな治療」ともいえるでしょう。また、医師は「認知症支援の充実」と「医療との連携」に重点を置きながら地域包括ケアシステムを理解し、医師会を機能的に動かしつつこのシステムを活用しなくてはなりません。一方で、高齢化の進展状況には大きな地域差が存在します。地方の過疎地域では医療介護資源が乏しい反面、システムをシンプルに作り上げることが可能です。しかし、都心部では資源が豊富であるものの介護者も多く、関わりを持つ人が多いためにシステム作りは複雑となります。それゆえに地域に密着した地元医師会(郡市区医師会)がシステム作りの中核を担う必要があります。
─地元医師会の具体的な取り組みについて教えてください。
中川 尼崎市医師会の具体例をご紹介します。人口約46万人の尼崎市では6行政区ごとに2つの地域包括支援センターが設置され、各行政区で地域ケア会議をこれまでは年3回開催してきました。尼崎市医師会は14ある既存の地区医師会の区割りを、地域包括ケアシステムをさらに機能させるため6行政区にあわせて再編する予定です。まずはこの6つの地域ケア会議へ担当地区の医師会員を派遣し、地域の多職種団体との意見交換、医師会からの情報発信、介護困難事例の検討会をおこなってきました。また、地域の多職種との情報交換で、医療介護保険の中での「押しかけ訪問診療」や「過剰介護」などの不適切事例を把握し、地域での自浄作用も期待されています。ほかにもさまざまな取り組みをおこなっています(表1)。
─医師や医師会は、システムにどのように関わっていくべきですか。
中川 まず、医師が地域包括ケアシステムを支える個々の役割を理解し、地域コミュニティと関係を密にして、エリアの特色を生かしながら地域の事情に合致した医療と介護・福祉の連携を目指すべきだと思います。そのためにも各地域で「かかりつけ医」や医師会が中心となって地域ケア会議を牽引し、地元の「認知症サポート医」や「認知症対応医療機関」と連携しつつ、医療の枠を超え院内から院外へフォーカスを向け多職種と協力することが大切です。地域包括ケアシステムが国民皆保険堅持に逆行しないようチェックすることも医師会に求められます。介護や福祉に関することも、ぜひ「かかりつけ医」へご相談ください。
中川 純一 先生
兵庫県医師会医政研究委員
中川医院 院長