12月号
対談/進化する名門私立中学校 第3回 白陵中学校
厳しさの中でこそ、自由を尊重する精神が育まれる
白陵中学校・高等学校 校長 斎藤 興哉
日能研関西本部 代表 小松原 健裕
名門私立中学に多くの塾生を合格させている日能研関西。
代表の小松原健裕さんと関西の名門校校長の対談。
第3回目は白陵中学校・高等学校校長の斎藤興哉さんにご登場いただきました。
創設から五十余年
全国でも有数の進学校に
小松原 長いお付き合いをさせていただいている白陵さんですが、53年前の創設の経緯をお聞かせください。
斎藤 昭和38年(1963)、三木省吾先生が創設した白陵中学校・高等学校は、長い伝統をもつ私学が数多くある兵庫県の中では後発のスタートでした。三木先生の教育に対する思いが非常に強かったのだと私は思っています。旧制姫路高等学校から京都帝大に進んだ三木先生をはじめ、現理事長の三木一正、理事の方々も姫高との縁があり、その伝統を引き継ぎ、社会に貢献するエリートを育てようと学校をつくられました。「白陵」は姫路高等学校の寮名に由来します。つい最近まで、地元で行われていた寮歌祭には毎年、白陵中学の生徒が参加し、寮歌を歌っていました。こういった姫高への強い思いがあり、校章を頂き、校旗や資料なども本校で保管しています。一方、日能研さんには、創設間もないころから大変お世話になっていると聞いています。
小松原 日能研が40年前にスタートした当時、姫路市に他の進学校もあり、白陵中高の知名度はあまり高いものではありませんでした。私の父(現 日能研関西会長)が「今後、どんどん伸びていくだろう良い学校がある」と白陵を保護者の皆さんにご紹介し、進学を勧めました。お陰さまで、共に発展してくることができ、今や白陵は兵庫県だけでなく、全国でも有数の進学校になりました。日能研から毎年80人ほどが進学しています。
斎藤 中学の各学年在籍者195名ほどのほぼ4割です。素直で天真爛漫、とてもいい子たちを毎年送っていただいています。
小松原 過半数を目指しているのですが、壁はなかなか厚い(笑)。進学実績はもちろんですが、勉強するために素晴らしい環境ですね。
斎藤 創設にあたり、当時の高砂市長に相談したところ、全面的に協力をいただき、この地に十分な敷地を得ました。非常に良い環境が確保できたといえます。「白い丘の上に建つ学校」という意味合いにふさわしい場所だと思います。
大学進学だけでいいのか?
ここから改革が始まった
小松原 私自身学生の時は、白陵は「勉強する学校」「校則が厳しい学校」というイメージをもっていました。基本理念に沿ってのことですか。
斎藤 三つの校是の中で、「勉強と訓練」とはいわず、「研究と訓練」としているところが、単に覚えるだけでなく、自分で調べて探求するという白陵の学問に対する姿勢です。「独立不羈(ふき)」は、つながれず束縛されずという意味です。ところが本校では中学1年生から非常に厳しい躾をしています。相反するようですが、自由にしたからといって自由な人間ができるかというと、そうではないですね。厳しさの中でこそ、自由を尊重する精神が育まれると考えています。「正明闊達」は、その字のごとく明るく正しく、元気で物事にこだわらない。しかしながら生徒たちは、勉強の成績にはしっかりこだわっています。これは、前向きでとても良いことだと思っています。
小松原 「めっちゃ、厳しい」という情報を耳にして子どもたちはちょっと恐る恐る進学します(笑)。ところが実際通ってみると、学校生活は楽しくて、先生方との距離が非常に近いという印象をもっているようです。一定の学力を付けて入学しますから、楽しく勉強をしています。時代の流れに沿って変化してきたのですか。
斎藤 創設当時から国公立の受験科目5教科をまんべんなく学び、その中でも、最も深く広く学問できる東大を目指すという考えに基づき、進学実績を伸ばしてきました。ところが平成5年ごろから、「大学に入ってからどうなのか?」という課題が見えてきました。そして10年以上かけて、白陵の教育を考え直さなくてはならないと、カリキュラムを始め、制服や修学旅行などまで、いろいろな改革を進めました。
中でも平成10年、三木理事長の決断によって、中学校から女子を受け入れたことが大きく変わるきっかけのひとつになりました。
小松原 明石や姫路ではニーズがあったにもかかわらず、姫路近辺には女子の進学校がない状況でしたので、白陵共学化はありがたかったです。大学進学に限らず、化学オリンピックに出場するなど、いろいろな場面で女子が活躍しています。以前は、優秀な女子がさらに勉強して才能を伸ばす進学先がなく、頭打ちになっていましたからね。
全教科教育の下、生徒は自分で何かを見つける
小松原 入試問題も独特ですね。国語は記述式が多く、算数では答えだけでなく考え方を書かなくてはならず、理科は問題文をしっかり読まなくては解けません。表現力や論理的に考える力が問われます。
斎藤 カリキュラムでも改革が進められた中で、特に国語の表現力を重視し、独自のプログラムをもっています。社会ではプレゼンテーションを取り入れ、理科では生物分野で周りの豊かな自然を利用して採集や観察、時には解剖も取り入れています。
小松原 授業での先生方の力と生徒たちの集中力がすごいと思います。休み時間は和気あいあいと楽しそうですが…。必要な勉強内容が学校で完結するので、塾に通う生徒は少ないです。その点が伸びている理由のひとつでしょうね。
斎藤 まず時間をかけて勉強させるのが本校のスタンスです。必履習科目のことがありますから、土曜日も授業をして、休みの期間も半分程度は全員補習を実施しています。週休2日は大人の都合です。生徒たちはちゃんと勉強しなくてはいけません。
小松原 とはいえ、進学校だから勉強ばかりやっているわけではなく、全教科教育に力を入れておられます。どんな道に進むにせよ、素養は身に付けておくことが大切ですね。
斎藤 進学校ではどうしても疎かになりがちな芸術、技術家庭にも力を入れ、技芸棟を造り、設備を整えているのも本校の大きな特徴です。体育系では柔道に力を入れています。柔道場もあり、年に1回は男女共参加する全校柔道大会を開催しています。どれも直接大学入試に関わるわけではありませんが、基本的に能力の高い本校の生徒たちですから両立はできるはずだと信じています。全員が初めから目標を定めて本校に入学してくるわけではなく、高3になっても何をしたいのかわからない生徒もいます。何でもやってみて、その中から何かを見つけ出してほしいという願いです。
小松原 早い段階から自分で「算数が好きだから理系」とか、「国語が好きだから文系」と決め付けず、全部やってみて「本当は何がやりたいのか」「自分に何ができるのか」を知り、いつでも方向転換できるようにしておくことが大事だと私共も考えています。
斎藤 基礎的なことから積み上げていき、時間をかけて真面目に努力して事を成す。これが本校生徒の特長です。自分のためだけではない、社会のため、他人のため、どんなことでもできる人に育っていってほしいですね。
小松原 子どもたちは決して完璧ではなく、発展途上の段階で白陵中学に進学します。育てていただいているというイメージが大きいですね。私共としてもありがたいと思っています。
斎藤 白陵は50周年を終えて、生徒たちに学力を付けるだけでなく、学校文化を成熟させる時期にきています。三つの校是を基に、本来の頑固さと時代のニーズに沿って変えていく柔軟さや自由さをうまく使い分け、生徒たちの成長に最も良い教育を今後も模索し、実行していきます。
斎藤 興哉(さいとう こうや)
白陵中学部・高等学部 校長
1942年、山形県生まれ。1964年、東京教育大学文学部卒業。兵庫県立高等学校の教諭を経て、兵庫県教育委員会主任指導主事 兼 高校教育係長、兵庫県立教育研修所副所長などを歴任。兵庫県立高等学校の校長を務めたのち、2002年に学校法人三木学園白陵中学校・高等学校常勤講師。同校教諭・副校長を経て、2010年に校長 兼 学校法人三木学園理事に就任
小松原 健裕(こまつばら たけひろ)
株式会社 日能研関西 代表
甲陽学院高校、慶応義塾大学と中高大を私学で学ぶ。同大学法学部卒業後、日本IBMに入社。主に金融機関システムの提案に携わる。事業承継のため日能研関西に入社。授業担当科目は算数。京都本部長、副代表を経て、代表に就任。日能研関西本部業務全般に加え、日能研グループとの連携、私学教育の振興にも携わる